[山形市]中桜田 春の胎動が聞こえるか(2026令和8年2月14日撮影)

芸工大から西蔵王へ行く道が伸びやかにカーブを描いている。
普通だったら絶好の行楽日といった晴天に恵まれている。
「まだ、二月の半ばだげんと・・・」

「ないどれはぁ、しかもさっぱりどぉ」
「なに嘆いでんのや?お金が?」
「こだな天気良いどぎ下種な話すんなず、お金なの元からないがらてよぅ」
「んなくて雪のごどよ~、あり得ねべぇこの季節によぅ」
お金はいつもないが、雪はたっぷりあるはずの例年がこの状態。

「あんまり見ねでけろぅ、恥ずかしいべなぁ」
スティーブン・キングのホラー小説にでも出てきそうな、
ゾンビの頭がカラカラに朽ちている。
普段なら雪の下で眠っていただろうに。

「なんぼなんでも咲いでっどは思わねがった」
雪がなければ当たり前のように咲いてしまうイヌノフグリ。
「まだ二月中旬だてゆたて、いうごどば聞がねべなぁ。

「湯加減はなんたっす?」
「しぇえ塩梅だぁ」
雪解け水はキラキラと輝きながらジョーロの体を温める。

「うぇ!なんだこいづ」
「なーにを言っているのでーすか?分かりませーん」
その返事で分かった。やっぱり外来種のセイタカアワダチソウだ。
あの真っ黄色は褪せ、花がムズムズするような綿ボコりをまとっている。
ほんとの話、この外来種のせいで日本の在来種は駆逐されようとしているんだ。

日陰には日の当たらない場所ならではの鬱屈したような光景が広がる。
クターっと弓なりに俯く姿には生気が全く感じられない。

どこもかしこも溶けた水の逃げ場がないところには水が溜まっている。
そーっと一輪車の水を覗き込んでみる。
そんな時に背後からクマに声をかけられたら、水に顔を突っ込む事だろう。

「青森なの大変だずねぇ」
「山形県だて新庄はいつも以上なんだじぇ」
「山形市は一体なにしたんだべねぇ」
「降らね方が生活は楽でいいげんとよぅ」
ジョーロとバケツは今年のあまりの雪の少なさを肴に会話と息を弾ませている。

「あんまり雪振らねがら髪の毛の伸びが早くてよぅ」
「雪のせいにすんな、自分の髪の毛だべ」
物置小屋は頭から枯れ夏草がピンピン伸びて空を泳いでいる。

カラカラコロコロと微風に向きを変えたり周ったりを繰り返す。
「雪降ったら一緒に遊ぶのによぅ」
すっかり薄汚れてしまったペットボトルは退屈を通り越しているようだ。

「喉がすっからかんだずぁあ」
空き缶たちはあまりの晴天に喉が乾いているのだろう。
しきりに渇きを訴えている。

それでなくても今年は異常に雪が少ない。
ここで眼下に中桜田の集落を見ながら検証してみよう。
新庄など最上地方には最上川を遡上して雪をまき散らす。
この勢いは尾花沢を越え、楯岡の北部までも及ぶ。
米沢には荒川を遡上した雪が標高のない宇津峠を越え満遍なく降り積もる。
でも、鳥上坂を登りきることはできず力尽きる。
山形市は朝日連峰と月山が盾となる。
それでも山を越えた雪は寒河江川沿いに雪を降らせ寒河江付近で諦める。
だからこそ山形市だけはこんな光景が顕著に現れている。

いつもなら真白で無表情が広がるだろう光景に、
今年は表情がある。
かといって笑顔が溢れるような表情ではなくて、
枯草たちが辺りを見回すいぶかし気な表情だ。

「なにほだいはしゃいでんのや?」
いや、このはしゃぎ具合は太陽に踊らされている操り人形。
枯れて手折れた草へ光を当てて元気風に見せかけているに違いない。

青空はペタッと水面へ張り付いている。
まるで空の一部が切り取られて、真四角な枠へはめ込まれたガラスのように。

中桜田って新興住宅地で、新しい家が整然と並んでいると思っていませんか?
「ほだなウソだーッ」
いや、ウソではありませんが、本来の姿つまり昭和から続く光景はこんな感じなんです。
「春なの情緒あって散歩すっだぐなる家並みが続いでいるんだじぇえ」

綺麗に掃除されたゴミ集積所の空間には、おぼろに浮かぶチリトリ・ほうき・バケツ。
「日差しば浴びでコックリコックリしてるんだべなぁ」

「秋なの去年終わたんだじゃあ、なんだずこの真っ赤っ赤は」
「あたしたちは姫リンゴ、よろしく」
可愛い声の陰に隠れて別の声も微かに聞こえてきた。
「おらぁ消火栓。季節に関係なく真っ赤だっす」

「例年なら雪の下さ隠れでんのんね?」
「なんだずこの勢いのある水飛沫は」
あまりの流れの勢いに土手のヘリから覗く雪も怖気づいている。

だらだらの上り坂をはぁはぁいいながら振り向くと、
霞んだ空の先に霞城セントラル。
腕時計を見れば日付は2月14日。
やっぱりここは真冬の山形市に間違いない。
そして季節は一か月早く進んでいる。

「クルクル巻き毛のススキちゃん、なにしったのぉ?」
耳へ手のひらをあてがって聞いてみた。
「あのおじさん頭がクルクルみだいだがら近づくなよ」
聞こえてしまった本音に悄然と項垂れるおじさん一人。

かろうじて体形を保っているドラム缶。
もっと痩せろと波型トタン板を這って、
枝の影が伸びて、その体を突っついた。

「屋根ばペロッと舐めでけっかぁ」
背後からの強風で長い髪の毛が頭の前面へなびいているような枝の束。

なんだか元気が湧いてくるような光景。
何故なのかは分からない。
きちんと並んだ用具たち。つつましくもきちっと正面を向く窓枠たち。
錆は浮いていてもこざっぱりとした壁面。

あまりに日差しが強いものだから、
樹木の影がむくむくと湧き出して強くなり、
窓辺で日向ぼっこをしている小さな草花たちへ暗雲が迫ってきたように見えてしまう。

「これいくら?」
「これはサケやマスの卵ではありません」
「これは高価なのでいくらでも売りません」
そもそもそんなことは看板に書いてない。
看板を見て変なことを妄想するのが悪への第一歩ってが。

そこにはいない赤ちゃんを両手で抱くような姿で時は止まった。
一冬越せば、この葉っぱは消えているだろう。
でも、枝先は春へ向かってツンツンと芽を出すために余念がない。

「なえだて白地に黒い文字が眩しいんねがい」
「まだ真冬だていうのに甲子園の激闘が頭さ浮かんできたじゃあ」
家並の隙間から見える看板は気持を夏へ夏へと搔き立てる。

トタン板の波型に沿って、光が次から次へとコロコロ流れ落ちていく。
思わず目を逸らしてしまうほどの眩しさ。
その眩しさを全身で早く味わいたいと山形人は春を希求してやまない。
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