[山形市]霞城セントラル・県民イベント広場 夜の空へ舞い上がる(2025令和7年12月13日撮影)

真っ白な竜山が赤みを帯びた山形市街を見下ろしている。
よく止まる新幹線も車体を染め、満を持して発車を待っている。

富神山と城山の間辺りに日は落ちようとしている。
駐車場の車の屋根と、工場の煙だけが今日最後の光を享受する。

しっかりとカメラで捉えられないほどに人の動きが早い。
「やっぱり師走なんだべなぁ」
「んだぁ、しぇわすないんだぁ」

「自由に本ば読んでいいなて粋なごどすっずね」
「俺が読んだ本も何冊かあっどれ」
しぇわすい中にも落ち着いて本を読むような時間が欲しいものだ。

今日最後の光は徐々にその力が弱まっている。
そして県民会館前の広場は夜の顔に変わっていく。

「なんだて綺麗だずねぇ」
「あたしんだがらクリスマス好ぎなのよぅ」
もたれ掛っているいる手摺の反射をみて、
自分たちが今一番輝いているということに気づいて欲しい。

浮遊する玉が辺りの光景を映し出している。
真冬の格好をした人々は、映されながらそれぞれの目的地へと急ぐ。

光りの滝が優しく降り注ぐ。
幸せな時間をひと時でもと、立ち止まってスマホを構えるのも恒例となった。

「なんだて美しいごどねぇ」
「んだのよぉ、あたしだみだいにねぇ。あてが」
何故か光は人々の顔を美しく柔らかくしてしまう。

「なしてせっかぐの光りば見ねんだ?」
「邪魔すねでけね?画像補正しったんだがら」
どうやら美しいものをより美しくして誰かに贈るらしい。

霞城セントラルがいつになったら完成するんだろうと撮り始めたのがこのホームページのスタートだった。
あれから25年。
まさかキッチンカーが大集合するなんて想定の斜め45度を行っている。

ソバもラーメンもない。
それでも大盛況。
「山形人はソバとラーメンだげ食って生ぎでんのんねがらね」
体の半分はソバとラーメンで出来でっべげんと。

それぞれの店の意匠を凝らした電球が少しずつ存在感を増していく。
そして人々は各々の店の灯りへ吸い寄せられていく。

「この蓋ば開げんの?俺が?」
「お前の仕事だべな」
「んだて冷ったいんだもの」
ゴム手袋は躊躇して停まってしまう。

霞城セントラルが物珍し気に覗き込んでいる。
メリーゴーランドはゆったりと、それこそ歩く速度よりも遅いくらいに回転する。
「馬の背中はあったかいんだべが?」
「生き物んねもの、冷ったいに決まてっべず」
「子供だはションベむぐさねどいいな」
親爺のぶつぶついう声にメリーゴーランドは耳を貸さない。

「なんだその真っ赤な鼻は?」
「唐辛子みだいだどら」
奥からサンタクロースの声が飛ぶ。
「寒くて赤ぐなたのっだず」
冷たい体で雪だるまは苦しい言い訳をする。

「おらぁ、霞城セントラルよりも高いがらね!」
ツリーは気持だけは大きく、辺りへ光りを放っている。

♪みあ〜げて〜ごらん〜夜のほ〜しを〜。
そんな気分でサンタクロースはチラチラ光る電球を眺めているに違いない。

「なんだず、夜空ば眺めで遠い国ばでも思い浮がべでっかど思たら、鼻くそほじりだどれ」
「指太くて鼻くそもほじらんねのよ!って、んねず。シーッてしったの」
静かに空を見たいと周りに呼びかけていたんだ。
トナカイに乗って空を飛ぶには気象予報士並みの知識と静けさが必要らしい。

そこだけが輝き、人の目を引いている。
暗がりの中の人々の集団は、
このツリーとサンタの前で記念撮影をするために長蛇の列を作っている。

その先に浮かぶ光りの粒粒を撮るために、
凍える指を手袋から出して冷たいスマホに触れる。

寒すぎて県民ホールに逃げ込んだ。
ホールからガラス越しに見えるのは、地面から空へ延びる柱の帯と、
会場へ急ぐ人々の群れだった。

キッチンカーの裏手へ回れば、葉っぱたちが真っ赤になって灯りに手をかざしている。
人々のざわめきを耳にしながら、静かに過ごす時間はそこだけ止まっているようだ。

華やかな夜はまだまだ続くらしい。
ホッカイロを体中に貼り付けさえすれば、
これほど楽しい場所はいまのところ山形には存在しない。

日本人の証を目の前で見た。
どんなイベントだろうと、人々はゴミをきちんと所定の場所へ捨てに来る。
この国民性が永い間に醸成され、そしてこれからも続いていくはず。

まだ空に灯りの残っている時間帯にはこれほど際立っていなかった。
今目の前にはくっきりとメリーゴーランドが浮かび上がり、
滅多にお目にかかれない山形の人々の注目の的となっている。

「寒ぐないが?」
「フーフーしてけえな」
ビニール張りの内側には様々な匂いと、様々な人々の小さな幸せが詰まっている。

駅から伸びる通路が金色に輝いている。
凍てつく夜にその横長の形すら硬く凍っているようだ。

「汽車待ってんのが?」
「おらだ汽車なて待ったごどない」
「んだら何待ってるんだ?」
「映画始まんのば待ってるんだっす」
芋煮鍋はすっかり冷めてしまったのに、ゲームしながら映画待ち。

もうコーヒーが冷たくなってしまう。
指もかじかんできた。
♪きっと君は来ない
♪ひとりきりのクリスマス・イブ
♪Silent night, holy night
この光景にまた妄想が湧き出てしまった。
私の妄想は夜空に舞い上がりフッと消えてゆく。
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