[山形市]専称寺・御殿堰 冬は柔和な顔して後ろ手に(2025令和7年11月8日撮影)

この辺りも街並みの光景が変わった。
なんといってもホテルオーヌマが無くなってしまったのは大きい。
そんな中、小さいけれどもいつまでも黄色いシャッターで目立っている電気屋さんには頑張ってほしい。

雲間から光りが差し込む。
呼応するように、黒ずんでいた蔦の葉が生き返るように全身へ血を巡らせる。

「冬が来たんだじゃあ」
「あどはいづ雪降っかだねはぁ」
プラケースや植木鉢が何気なく会話する。
「俺さなの冬どころが郵便物も来ねんだはぁ」
ポストは錆びた口をギシギシ震わす。

「何が祝山形五堰だず。ごしゃげるぅ!」
ごしゃいでいるのは旧一中の門柱。
左右の門の間にはバリケードが築かれ、右側の門柱などは樹木に隠れている。
門柱を大切にしない市には天誅が下るぞ。

「食ってもいいんだが?」
御殿堰を彩る菊を食ってしまおうかと思う自分は愚か者。

「バケツさ落ち葉が一杯だねはぁ」
「葉っぱば踏んで踵(かかと)が割れで痛ぐならねがっす?」
ケラチナミンば毎日塗ってもすべすべにならない踵に辛い季節がやってきた。

「トマトなんだが?」
「寒ぐないがよ?」
ぷっくりと膨らんだ実は無言で微風に揺れているばかり。

「ほだっぱい吊り下げるて何や?」
「あ、分がた、吊るし柿だべ?」
いやいや、普通は窓辺に干すもんだ。
こんな低い、しかも誰でもすぐに持っていけそうな場所に吊るすはずがない。
結局なんだかわからずに、いつまでも後ろ髪を引っ張られる。

「そろそろ秋仕舞いだびゃあ」
ひょろひょろと空に揺れるコスモスは、天気の様子を伺う模様見状態。

窓の中にはそこに住んでいた人の思い出が目いっぱい詰まっているはず。
「ありゃあ、なんだず、窓の中もモシャモシャて葉っぱが占拠しったどれはぁ」

コキアに絡めとられた葉っぱが寂し気に涙する。
コキアは所詮箒にされる身。
箒になる前から葉っぱを取ったのだからフライングともいえなくもない。

「入らないで!」
「何えんつたげでるんだべ?」
ベンチたちはそ知らぬふりして虚空を眺める。

「うわぅ!阪神タイガース模様がくっきりだどれ」
「あど虫なの出でこねがら早ぐ去ってしまえはぁ」
今日の様に穏やかな顔を見せながら、天気は後ろ手に刺すような厳しい冬を持っている。

「おらパイロンの見張り役んねんだがらよぅ」
心地よく刺さっている箒の愚痴は柔らかい。

こんな小路を雪の降る前に歩ける自分は幸せ者だ。
ましてや、柿の木には箒が寄りかかって晩秋の雰囲気をいやが上にも盛り上げている。

秋明菊が光りを求めて空を向く。
「こだな葉っぱなのに菊なの?」
「それを聞く?」
秋明菊は以外にもユーモアのセンスがあるようだ。

庭木を眺めながらの散歩は本当に心躍る。(スキップしたくなるほどだ)
難点はカメラを携えてうろうろする姿に不審者と思われること。
でも、なんぼ不審者に思われても、こんな妖艶な花を見つければ撮らずにはいられない。
調べてみたら花の名は「ホトトギス」。
その特異な美しさに幻惑されて鳥と花を間違えてしまったか。

「床屋さいぐ金もないのが?」
「髪の毛ば染める余裕があるんだごんたら行って来たらいいべよ」
「んねんだずぅ。がおったんだずぅ」
色を染めているのではなく、冬が近づき、がおって脱色してしまったらしい。

二人のタイヤは花束を抱え嬉しそう。
その隣にはふにゃーっとつぶれ気味のタイヤ。
勝手に想像する。これは三角関係の果ての姿なのか。
嫁に出す父親が萎れている姿なのか。

バイクが青い煙を吐いて走り抜ける。
その服装は冬そのもの。
乾いた地面で走れるのはあとわずかなんだべなぁ。

「んだの、おだぐでも?」
「んだのよ〜、やんだずねぇ」
「お互い気ぃつけらんなねねぇ」
遠くからなので、インフルエンザの話かクマ出没の話かは分からない。
でもこの季節ならこの話題が八割くらいだべ。

みごとな伽藍に赤い粒を降らすのは南天か?
壮大な屋根を隠すのが南天の難点なんちゃって。
ときどき幼稚化する自分が怖い。

今日五小前を通ったら、観光バスが停まり、
中から中国語を話す観光客がワサワサと出て「もみじ公園」へぞろぞろと歩いて行った。
すぐ近くにはこんな立派な紅葉もあるんだげんとなぁ。
「人っ子一人いねくてほんてん堪能できる穴場だな。専称寺は」

葉っぱの鮮やかさを撮ろうとして後から気づいた。
背景からこちらを睨む目が見える。
おそらく睨んでいるのではなく屋根の重みに耐えているからだとは思うけれど。

四方八方から彩が迫ってくる。
あんまりいつまでも見とれていてはいけない。
果たして首の痛みと戦い続けるか、あとから湿布を張ればいいいやと割り切るか。

雲の密度が薄らぎ、辺りが明るくなってきた。
そして紅葉の赤と太陽光のおこぼれが振り注ぐ。
もちろんこのシャワーのように降り注ぐ光景を防ぐ雨樋は存在しない。

「いつもより遅いんねが?」
「なにがて黄色ぐなんのがよぅ」
「わがた振りしてゆてんなず。ほだい毎年来ねくせしてよぅ」
銀杏の前で諍いなんてみっともない。
圧倒的に大きな銀杏の威光にひれ伏すべきなんだ。私のような小者は。

銀杏のすぐ脇には御殿堰が落ち葉を集めて流れている。
この流れが、あの七日町の観光客用の人集め場所の上流だと、
せめて山形市民だけは知っていないとまずいべな。

「紅葉は赤ぐなっど、あだい褒め称えられんのにぃ」
「おらだにはおらだの生き方があんのっだず」
晩秋だが初冬だが分からない中で日向ぼっこの二輪車たち。

「綱引きだがっす?」
松ぼっくりは誰も見ていないときに、
密かに引っ張り合いをして楽しんでいることを初めて知った。
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