[山形市]みちのく阿波おどりin山形 踊りが山形を虜にした(2025令和7年9月6日撮影)

昭和が目の前に迫る。
この先に何があるのか薄暗がりへ歩みを進めてみよう。

アーケードを抜けると、そこは阿波踊りの国と化していた。
なんて、駅を降りた人は知らないかもしれない。
知っている私には、そこはかとなく高揚感が通路を伝ってくるのを感じる。

スズラン街を背骨とすると、そこから枝分かれする小路には様々な表情がある。
電柱は蔦に占拠され振り払うこともできない。
ただむなしく電線を四方八方へ助けを求めるように張っている。

「なんだてわしの足元さ、見知らぬ飲み物や食べ物が置いてあるのぉ」
「しかもこの喧騒はいったい何事じゃ」
「なに?阿波の国から友好の使節が訪れたとな?」
山形を初めて治めた斯波兼頼は嘆いているのか、隆盛に感極まっているのか。

「わらわらて造らんなねっだな」
「間もなく挨拶始まっじゃあ」
「養生テープが手さくっついで剥がんねのよ」
開会のための挨拶は数分後に迫っている。

「ニューバランスのグレーのシューズだじぇ」
「高級な革靴なの履がねがら庶民感覚があっていいずねぇ」
そんな声が聞こえてきそうな市長の挨拶。

まだまだ明るいスズラン街。
すでに交通規制で車は進入禁止。
ゴールは路上で横になり待つばかり。
辺りは期待の空気だけが異様に膨らんでいる。

「踊らんなねし、テープは張らんなねし忙しくてわがらねぇ」
「ほだごどゆたて、このために頑張てきたんだべした」
交通規制の奥では愚痴と高鳴る興奮が葛藤する。

遂に始まった興奮の一大イベント。
ゴール目指して足袋の旅が始まった。

さすが阿波踊りは動きが早い。
下駄が一斉に走り出す。
まるで観客の興奮を煽るようにケタケタとアスファルトを蹴っていく。

近い近い。
これは嬉しい近さ。
観客を喜ばせるためなら目と目を合わせて、思いっきり近づいていく。

「え?俺も!」
私はあっけにとられ、思わず左手でハイタッチ、右手でシャッターを押してしまう。
これが観客と踊り手たちが一体化するということなんだな。

勇壮とはまさにこのためにある言葉なんじゃないか。
頭の上から響く太鼓の音は頭蓋を揺さぶる。

「おー、来た来たぁ盛岡のさんさ踊りだぁ」
「あの得もいわれぬ踊りの所作が好きなのよねぇ」
「しかも踊り手たちは若い子ばかりだてがぁ」
いやいや純粋にさんさ踊りが好きなんだ。
あの六魂祭で初めて見てから。

四方八方に笑顔を振りまいて、今からどうしようというのか。
「観客さ興奮と喜びば届げんのっだなぁ」
まさに目的はそれしかない。

一世一代の決めポーズと笑顔を見せ、
観客を魅了する。
魅了するだけじゃない。
踊りのすばらしさを肌で感じ、脳みそ深くに染み込んでいく。

ビルの陰は赤みを増し、落日後の闇が迫っている。
それと同時に祭りはどんどん盛り上がってゆく。

「豆まきの櫓が来たほれ」
「餅撒きだべ」
「どっちだていいっだな、もらういんだごんたら」
人々の目は赤い柱に集中し燃え上がらんばかり。

「こっちゃも投げでけろー!」
手があちこちから伸び、辺りは興奮状態に包まれる。

「この頃知名度急上昇の四面楚歌だどれ」
「よぐここまで四面楚歌も育たずねぇ」
「んだず最初なのどごの誰だぁて感じだっけも」
山大の四面楚歌は今や山形を代表する踊り手集団となった。

「まだいだ」
「このおっちゃんは毎年必ず来てけるんだず」
そして毎年必ず撮ってしまう、まさに青森のでかい顔。

いつもと様子が違うと、ピンクと緑のカエルが目を見張る。
見られることに慣れているペアカエルは、
自分たちが見てもらえないことに幾分不満げだ。

空に向かって決めポーズ。
いや観客に向かって決めポーズ。
いや森羅万象に向かって決めポーズの四面楚歌。

夜は深みを増し、踊り手たちの所作が益々際立ってくる。
「常に笑顔を絶やさない踊り手たちは、口の両端さテープ張ってんのんねべな」
失礼なことをいってしまった。
この笑顔も厳しい練習の賜物なんだろう。

髪の毛の一本一本までが際立っている。
指などは透けて赤い血潮が見えそうだ。
そして体中から喜びと練習の成果が夜空へ舞い上がる。

街中のいたるところに隙間なく踊りの大音響が染みわたる。
「どうする?」
「帰っかぁ」
まだ生ぬるい地面に座り、くたびれ感が周りに漂う。

「ちょっと待ってぇ、こごはあの五十番だじぇ」
絶句する。
「青森んねよね?」
ラッセラーラッセラーの掛け声が山形駅前を完全占拠した。
ところで山形の道はこれだけのジャンプに耐えられる構造なんだべが?

「んだがらちょっと待ってぇ、こごは五十番なんだず」
「徳島んねんだず。夢見っだんだべが」
もはや日本のどこにいるのか忘れるほどの高揚感と夢見心地が一緒くた。

「今度はスズメ踊りが!」
「この子はスズメていうより妖精みだいだずね」
「妖術使いんねくて妖精!」
残像を残しながら踊り、扇子で周りの目を眩ませる。

「スズメが笛の音でひれ伏した」
「いったい何が始まるんだ?」
固唾を飲んで見守ること数秒。

スズメたちは羽を広げ羽ばたいて歩みだす。
夜なのになんて元気なスズメたち。
「夜もこだい踊たら深夜残業代奮発さんなねべな」
ほだな事のために踊てんのんね!と欲深い自分を叱責する。

「俺ば見っだ、俺さ近づいでくるぅ」
心臓がドキドキしてきた。
「んだてこだい女性から迫らっだごどないもの」
「カメラのおじさん、どいてください。進行方向ば邪魔してっから」

駅前はどこもかしこも演舞場。
どんな隅っこへ行っても踊りが繰り広げられている。
見物客たちは駐車場のストッパーに座って駐車料は無料。
「んだて交通規制で車は入ってこらんねがら」

トランプさんがいった。
踊っている間は税金を課さない。
だから山形よ、もっと踊って熱くなれ。
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