[山形市]御殿堰に沿って 宵闇に花笠の熱気が堰へ溶け去った(2025令和7年8月9日撮影)

花笠の喧騒も過ぎ、再開発の進む御殿堰周辺にも静けさが戻りつつある。
そんな御殿堰を、今回は七日町から大手町に向かって歩いてみたい。

「こごが御殿堰だぞぅ!」といわんばかりに堂々と看板が十一屋の裏に出てるけど、
なにもここだけが御殿堰じゃない。
馬見ヶ崎川から街中を横断し、霞城公園の西側にまで伸びている。

七日町一帯は御殿堰のおかげで散策に向いた街並みになった。
「やっぱりせせらぎがあると人の心って和むのよねぇ」
でも御殿堰の整備はまだまだ時間がかかる。
「馬見ヶ崎の取水口から霞城公園まで整備して完成したはぁ!」
と市民が喜ぶころにはオラ生きでいねはぁ。

チカチカ光るもみの木に赤い花びらが驚いている。
「クリスマスはまだまだ先だげんとな」
「しぇがんべ、街ば彩ば添えでけるんだがら」

「この間までの猛暑でオラァ燃え尽きそうだっけずぁ」
氷の旗は未だに真っ赤になって体温が下がっていない。
水分も塩分も摂らずに酷暑を体験したために、宵の風に吹かれてお疲れ気味。

「どだなどぎでもここさ立ってらんなねのよ」
「そりゃあ心が折だれるごどもあるっだな」
「この間なの俺の後ろで皆花笠踊てんのに、一瞬も振り向がんねんだがらね」
「心配すんなぁ、ちゃんと見でる人は見でっから」

闇夜の中に浮かび上がる金魚鉢。
その金魚鉢はレンズとなって、辺りの灯りを取り込んでいる。

生ぬるい風が吹く。
風鈴はそれを利用し短冊をくるくる回す。
そして淀んだ空気へにチリンチリンと針を刺す。

朝顔は触手を伸ばし自分の立ち位置を確認する。
漆喰の壁面へもそっと触れて夜を彷徨う。

「花笠も終わてはぁ、やっと七日町も静かになたずねぇ」
「なにゆてんの、イベントないどいっつも静かなんだじぇえ」
山形の自虐会話を聞きながら、宵の御殿堰を宵の青く染まった水が遠慮気味に静かに流れてゆく。

とろーりと流れる御殿堰の水。
花笠の熱気も興奮も喜びも、みーんな堰の水に蕩けて下っていった。

辺りをきょろきょろと伺う自転車。
コンビニの看板が眩しすぎて、一瞬くらーっと倒れそうになる。

「なんだこの写真?て思う人もいっど思うげんと、これは大沼の社員通用口なのよ」
仕事が旨くいったと喜びながら、上司にごしゃがっだと落ち込みながら、何千回と通った通用口。
他の大沼のOBの方々もそうだと思うけど、正面玄関はあくまでお客様用。
社員たちにとっては朝に昼に晩に出入りしたこの通用口にこそ思い入れがある。
私は大人になるための事どもを数多く大沼OBの方々に教わった。
未だに大沼のショックからは抜け出せない。

こんなに明るいのに、こんなに立派なのに誰もいない。
この明かりを独り占めすることに罪悪感が生まれてきた。
「てゆうがよ、こごはなんのためにあんの?なして夜も灯りば点けでおぐの?」
罪悪感から虚しさへ変わっていた夕暮れの心。

御殿堰は姿かたちを変え済生館の中を下ってゆく。
「済生館ば建て替えるてゆうげんとよ、んだどすっどこの辺りだべ?」
「んだど御殿堰はまた流れの形が変わっていぐのっだべ」

済生館北側の御殿堰には誰もいない。
こんなに意匠を凝らして流れているというのに。
悲しいけれど断言する。
「どだな立派な物ば造っても、核となる店舗がない限り人は絶対集まらね。
イベントや祭りなど一時的なものではダメなんだ。もっと皆で頭ば捻っべ。うっ首筋痛いっ」

「夜なたじゃあ、しぇさ帰たらいいべはぁ」
「いいんだぁ、廃棄されるまでこごで山形ば見続けるんだぁ」
小鳥たちは意思も堅いし体も硬い。

誰も歩かない水のある散歩道。
「こいなば宝の持ち腐れていうんだが?税金の無駄遣いていうんだが?」
水面の揺らぎを見つめながら、山形の未来を憂えてしまう。

みんな持ち場でそれぞれを役割をきちんと守り並んでいる。
昭和・平成・令和と日々変わりなく続く、こんな街角の光景が安心感を生む。

「だっれも通らね道だげんと、ちゃんと御殿堰は流っでるんだどれ」
「この流れに沿って大手門あたりまで誰でも散策すっだぐなるみだいな堰にならねもんだべがなぁ」

ゆるゆると流れる御殿堰。
誰にも邪魔されることなく灯りや落ち葉がゆったりと揺れている。

この窓までせせらぎの音は聞こえているのだろうか?
窓の中の団らんに聞き耳を立てる朝顔は、
静かに流れるせせらぎの音には気づかない。

「椅子硬っだくてけっつ痛ぐなたなぁ」
「ああ今夜も静かないい夜だなぁ」
さて女性は両足を巻くように手を組みながらどっちを思っているでしょう?
「残念、ハズレです。答えは「駐車場の灯りがまぶしくてわがらね」でした」

赤い筋が強烈に眼を射てくる。
それは真っ赤な鋼となった蛇なのか、
怒りに満ちた赤い牙なのか、
はたまた漲る自信が発光して見える夏の夜の幻なのか。
「なあにゆてんの、ただの奥羽線のレールだどれぇ。あんまりつかした表現でゆうなず」

噴水に覆いかぶさったオレンジの街灯の灯り。
その一滴一滴のすべてに平等に明かりを当てるのは一筋縄ではいかないことだ。

いよいよ濃くなる夜空へ向かい、灯りの放水を続けるのは至難の業。
水辺に寄ってしゃがみ込み、そんな絵的なことを考える。
「ほだな暇あっごんたら、早ぐ帰ってソーメンでも茹でで食て早ぐ寝ろはぁ」
「んだな、早ぐ冷たいソーメンば啜っだいがらやっぱり帰るはぁ」
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