[山形市]山寺・紅葉川 めくるめく緑と弾ける水飛沫(2025令和7年8月2日撮影)

山の方から低い唸りのようなものが聞こえてくる。
間もなく真上を仙山線の列車が金属音の雨を降らして山形方面へ走り去る。

山寺には大小いくつもの駐車場が散在するけれど、
土産物店だったのか旅館だったのか分からないビルの裏側の駐車場に車を停める。
フジカラーのベンチが色を失いぼうっとこちらを見つめてくる。

ポストに駐車料金を入れるなんて初めてなので、ちょっとだけ躊躇する。
入れるとき中をのぞいたらタオルが敷いてあり、
お金の落ちるジャラジャラ音がしないように工夫してあった。

道は二手に分かれ、私は紅葉川へ行くために右の道を選ぶ。
この右側の道の上は仙山線で、そこをくぐれば山寺の街並みは途絶えてしまう。

仙山線のガードをくぐれば目の前には緑のビッグウエーブ。
道へへばりついたまだら模様を踏みつけながら、
緑のトンネルを行くことにワクワクが止まらない。

ちょいと脇道を見上げれば小ぶりなひまわりが青空に手を振っている。

川の袂には何やら疲れ果てた倉庫らしきものが立っている。
背中が痛むのか、ギィッと軋み音が聞こえてきそうだ。

白い看板はくたびれて、せっかくの白粉にもヒビが入っている。
「きれいな川をみんなでまもろう」
までは何をいっているか理解したけれど、その後には何をいっているのか分からない。

「まさか遊泳禁止んねべね?」
「なあんだ犬がションベすんなてだどれ」
ホッとした途端、フェンスを越えて明るい歓声が聞こえてくる。

紅葉川にかかる橋から見下ろせば、
硬い岩盤へまとわりつくように青い水が流れている。

「人生で一番いいポーズとれよぅ」
「なして写真ていうど皆Vサインなんだず」
「もっと個性ば出してオリジナルのポーズでもいいのんねが?」
とは小声でしかいえず、その音は青い流れにかき消されて流れ去った。

「髪の毛が逆立ったどりゃあ!」
物凄いジャンプを見せられ、その迫力が大きすぎて、
カメラでは全体像を捉えることが出来なかった。

水面に入る瞬間、水は人間の侵入に驚き、
パッと飛沫(しぶき)の芽を出した。

「おかなぐないのが?」
少年はもんどりうってエビ反りポーズ。

「よい子はマネてはいけませんだべしたぁ」
この少年たちはかなりの手練れで、水を操り水を手中にしているようだ。

ぐるぐる空中で回転するのを大気は受け入れ、川も受け入れるつもりでいる。
もちろん近くにいる人々も当たり前のように気にも留めないで、自分たちの水遊びに夢中だ。

水飛沫はカメラを構えた自分にまでおよび、
バッシャーッと後から音が追いかけてくる。

今回ご協力いただいた少年たち。
なんと筋骨隆々の体つきなんだ!
もちろん運動部に入って鍛えているそうで、
ポッコリおなかのカメラマンは無理して腹を引っ込める。

「おらだ干からびでしまうずぁ」
履物たちは岩場で待ちぼうけ。
子供たちは水場でこれ以上ない涼しさを味わっている。

「目の前さ透き通るような流れがあるんだがらよ」
「んだず、こさ来てまでスマホなんか見るごどないべした」
「流れさ足入れながらのスマホて最高の涼み方なんだじぇえ」
時代は変わった。
もう、手に団扇じゃなくスマホが当たり前。

緑滴り、川の水も縦糸のように滴り落ちる。
この猛暑の中でこの紅葉川は楽園以外のなんという?

「なんだほのポーズ?」
「コマネチが?」
「それはおじさんの発想。ダンスの練習でもしったんだべな」
とにかく何をやっても涼しくて気持ちいい心ほころぶ場所。

流れ落ちる水はシルクのように柔らかくしなやか。
人々が見入られてここへやってくるのも頷ける。

「押すなよ」
「お前こそ後ろ側さ周って押すつもりだべ」
誰から滝つぼへジャンプするか、その順番がなかなか決まらない。

「川からの幽体離脱で上へゆらゆら登っていく?」
「それはカメラの逆回しの場合だべ」
ドボンと落ちるその瞬間の自分の勇気と衝撃に人々は見入られて辞められない。

「あごの周りさ水の髭生えっだどりゃあ」
「ほだごどゆたら鼻水も垂らしったじぇ」
少年の泳ぎっぷりよりも、水のまとわりつき方が気になる変な視点のカメラおじさん。

「お前そっち食ぇ、俺肉食うがら」
網目の上ではトングが剣の代わりとなって争いが生じている。

「さんざん食った後に乾杯がよ」
「しかも飲み物なのほとんど入っていねしよぅ」
「まずいっだな、高齢者の頼みだものよぅ」
水辺では平日には見られないような笑顔が垣間見られる。
そして高齢カメラマンにも若者たちは寛容になる。
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