[山形市]歌懸稲荷例大祭 眩しい光の中へ熱い掛け声(2025令和7年7月12日撮影)

「山形ば離っで永い人さ、こごどごだて聞いでも分がらねべなぁ」
「んだて、山形さ住んででも分からねも」
それ程に変貌しているダイエーの東側。

「ダイエーってなんだあてゆう人は論外っだなね」
「そういえば山相のガラス張りの建物もいつの間にかないんねがよ」
「なに?山相もしゃね?きらやかの前がしあわせで、その前が山形相互っだべず」

ダイエーの自走式立体駐車場も錆付いて古くなったものだと桟を見る。
その真下には不揃いの自転車たちが思い思いに並んでいる。

「耳の穴からうどん出でんのてこれのごどがぁ」
「丸亀製麺の進出もすごいげんと、はえずと同じくらい流行てるんだべずねぇ」
「んでもよ、耳で味分がるんだべが?」

「この駐車場がでぎだどきは画期的だっけぇ」
「おかなないおもいしゃたじぇえ」
当時の車はまだまだマニュアル時代。
前の車がつっかえると坂の途中で止まらざる終えない。
父親の運転する車がそこからの半クラッチでの坂道発進を旨くできたときはホッとしたものだ。

あれから何十年。
ベタ踏み坂の駐車場の下は山交バスターミナル。
スマホの画面にベタっと目を張り付ける人々がバス待ちの時代。

「うっ、暑くて目さ汗入った」
電線だらけの町中には害鳥となってしまったムクドリも多い。
その糞が入らなかったのは幸運というべきかも。

赤信号はいつまでも青にならない。
赤いおじさんはメニューに釘付けで動こうとしなくなったらしい。

「ったぐ行儀悪れったらよぅ」
黄色い箱の瓶は赤箱の瓶を白い目で見る。
「どだごど並んだて自由だべぇ」
ビール瓶は態度からして不貞腐れている。
自由と秩序の履き違えとはまさにこの事か。

「どいづいい?」
「国宝は評判いいんだど」
「スーパーマンも見っだいずねぇ」
叶わぬ夢と知りながら自転車たちは語り合う。

霞城セントラルが見えなければ、ここはど〜この細道じゃ。
でもこんな細道があるから昔からの街並みは楽しいんだなぁ。
道の奥では赤ちょうちんが風情を添えているし。

細い枝はどこまでも真横に伸びたいと思った。
それを見た枝の影はどこまでも塀を下っていきたいと真下を目指した。

「なえだて目がチカチカするくらい派手な看板だずねぇ」
「おらだも今から派手な神輿担ぎをするのでよろしくぅ!」

駅前には子供たちの書いた提灯が数多くぶら下げられている。
ふと目についたこの白黒の提灯は私の琴線にぐっと触れた。
たどたどしい文字、単純だけれどもニヤッとさせる何かの生き物。
まるで華美な芸術を究極まで単純化したような素晴らしいキャラたちだ。

「いづ始まるんだぁ」
担ぎ手たちは暑さでダレ始めている。
そんな中に一際じっと神輿を見つめる禿頭のおじさんがいる。
あの銅像は誰だっけ?

「近頃の子は足長いずねぇ」
「んだず。スラーっと伸びでスタイルはいいしなぁ」
自分とは違う人種なんじゃないかと思いながら、おじさんはシャッターを切る。

「んまいっ!」
毎年この瞬間を待ってましたとばかりにグイっと飲む。
おじさんたちは様々な艱難辛苦を眺めてきたかもしれない。
でも今現在は柔和な顔になって、幸せを噛みしめているようだ。

神輿渡御の前の神事を待つ間、紫陽花も興奮を隠しえない。
雨は降らねど、乾いた額をグイっと伸ばして神輿へ近づいていく。

ぞろぞろと神事の場所へ担ぎ手たちが集まっていく。
それを横目に手水舎では涼し気に花弁が浮いている。
祭りで高ぶっている気持をクールダウンさせるような、癒しで包み込まれるような演出が憎い。

どうして涼しげに感じるのだろう?
簾を発明した人はえらい。
風鈴といい金魚といい簾といい、直に体を冷やしてくれる訳ではないけれど、
本当に先人たちは知恵者だと恐れ入る。

「今度は諏訪神社さも来らっしゃい」
「五十年ぶりに神輿渡御が復活すっからて」
「しかも神輿はバガでっかいのこしぇだがらて」
笑顔で語ってくれたのは諏訪神社から応援に駆け付けた方たちだそうだ。
こりゃ九月はお祭り三昧の撮影になりそうだ。

すっかり青く重く伸びた桜の葉が覆いかぶさる歌懸稲荷神社の境内は、
神輿渡御前の緊張感に包まれる。

「なしてこの恰好なの?」
「ほだごど考えねの」
「なして?」
「いいがら黙って」
その間にも神事は粛々と進んでいく。

「画数が多くて大変だずねぇ」
「んだて歌懸なていったい何画あるや?」
法被は背中がほとんど真っ黒になるほどの画数。

「ぎっつぐな」
「やんねったて分がてる」
でもそんな言葉で反駁することはできないので、
口をもぎっつぐ結んでいる。

高まりは空気を震わせる。
柏手が大気を弾く。
さあいよいよだ!

重くなんか感じない。
もはや重さを感じない肩になってしまった。
軽々と神輿を担ぎ、練り歩くぞ十日町。

針のように光り刺す太陽。
思わず暑さに手をかざす。
それでも自慢の禿頭は大気の中で生き生きと輝いている。
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