[山形市]深町・南館・篭田・ムーミン谷 茹だった街に灯り戯れる(2025令和7年6月7日撮影)

三十度を超えた今日。
温室のような囲いで茹だったカートが夕日を眺める。

「こごは南館なんだぞーっ!」
「んだがらなにした?」
看板たちも茹だる暑さに参って反応が緩慢だ。

「なえだて派手な色だげ並んでっずねぇ」
「目がチカチカしてくる」
「物ば売んのに目立だね色にさんねべしなぁ」

「早ぐうっつぁ帰っだい」と自転車が過ぎる。
「早ぐ食だい」と人々が集まってくる。
週末は一週間が終わった安どの空気が店の明かりに紛れている。

日中のほとぼりが冷めてくるとともに、
太陽が白鷹の山々陰に隠れるころに、
店々の灯りはその輝度を増してくる。

「もはや戦後ではない。いやいやもはや昭和でもない」
かつての南館を知る人は呆然とするばかり。
日本全国に広がる、どこを切っても同じ金太郎飴のごとき街並みと化してしまった。
でも、それに満足しその恩恵にあずかっていることも事実。

「父の日だどほれぇ」
「父の日なて、母の日ど比べたら鼻くそみだいなもんだべ」
自転車もそっぽ向いている。

「夜空に響けぇ!」
「いやいやそれは困る。夜は静かにすっべぇ」
そんな時代じゃない。
週末の夜は皆うっぷんを晴らすために歌いまくるんだ。

オレンジから濃紺に空の色が変わろうかという時間帯。
月がおぼろに街を見下ろしている。
その一角には喉が枯れるまで歌う人々。

「工事なのしったて営業っだなぁ」
オタクの聖地には夜中まで人々が集まってくる。

「カラーにする価値もない!」
「な〜にぃ!」
オタチューの前で睨みつけてくる年寄の紳士。
派手派手な灯りが連なる通りで、そこだけが暗がりになっていた。
表情はおっかないが、心の底には悲しみが満ちているようだ。

右に左に車がブイブイ行き過ぎる。
電柱は歩行者を守るためにいろんなものを抱っこして24時間立っている。

夜の街には看板たちが覇を競うように灯りを灯す。
それらの灯りは、次々訪れる車たちへ一目散に張り付いていく。

片側一車線で造られた348号も、車の増加とともに無理やりに片側二車線にされ、
車で走るときはおっかなくてしょうがない。
隣をトラックが走っていたりしたら擦れ合うのも必定のような道路。
そんな道路沿いには全国チェーンの店がひしめき合う。
そして道路は日中の暑さで火照ったアスファルトから熱気を立ち上らせ、
店の灯りとともに夕闇へ立ち上っていく。

「♪おっかの上、ひっなげしのぉ花がぁ」
「なにぃ?おっかの上さヒナゲシが咲ぐなて、お前のおっかは腐葉土が?」
腹が減りすぎて変な妄想が頭を掠めた。
全国チェーンの店が並んでいても、その隙間にはヒナゲシが乱れ咲いている。

十字路にはぼろぼろに?げかかり、腰の曲がった標識が立っている。
空は街の明かりを圧する如く濃紺の層を増して降りてくる。

十字路の片隅にシモツケの花が密かに咲いている。
「花言葉は無駄・無益・儚さだど」
シモツケはそんな花言葉には聞く耳を持たない。
だって、自由気ままというのもシモツケの花言葉だから。

ワイヤーは渾身の力で店の看板を支えている。
「はえずぁんだっだなぁ。看板が倒っだりしたらそれごそ看板倒れていわれっからねぇ」

山形人は麺にはうるさい。
だからこそラーメン県でもあり蕎麦王国でもある。
「ほごさうどんごときが進出するなて喧嘩売ってんのがぁ!」
「喧嘩なの売らねっす。うどんば売ってるんだっす。もちろん食べるも食べないも山形人の判断だっす」
夜空に向かって毅然と言い放った言葉こそあっぱれ。

もはや国際食になってしまった寿司。
もちろん国際色豊かな人々が箸を持つ。
そこで思った。もしかして人知れず箸業界って儲かっていんのんねべが。

「お前がどげろず。」
「いやおだぐが引っ込めぇ」
自転車はお互いに直接ぶつかってもいないのに、影同士が路面でぶつかり合っている。
そしていつの間にか重なり合った影同士が離れがたくなっている。

ムーミン谷に足を踏み入れた。
蜘蛛の巣が車の轟音にピリピリと震えている。
なんとも不穏な空気の流れる一角だ。

ムーミン谷の地の底は決して楽園でもなく、
緑に満ちた穏やかな地でもない。
ここは急ぎ足で通り過ぎる場所であって、けっして住む場所じゃない。
名前とのギャップにショックを受けるから見に来ないほうがいい。

ようやくムーミン谷から脱出できると階段から夜空を見上げれば、
その頭に垂れさがる蔦が覆いかぶさろうとしてくる。

山形新幹線の鉄路が黒々と行く手を遮り、
その向こうには先ほどまで歩いた348号に並ぶ店たちの灯りが固まっている。

「難儀だずねぇ」
「んだっだなぁ、車社会だものぉ」
自転車はムーミン谷の底を通れない。
その側道は急角度。
「こんな角度の坂を年寄りも自転車押して通れてが!」
ごしゃげる現場を目の当たりにしてしまい、
国か県にカスハラ、いや抗議をしようかと心が煮えたぎってきた。
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