[山形市]飯塚 空よ泣くのを待ってくれ(2025令和7年5月24日撮影)

水を張ったばかりの田んぼを重い足取りで灰色の雲が流れていく。
午後からは雨となるらしい。

「業務用の・・・なんて書がったんだ?」
「業務用の花以外咲いで悪れてだが?」
「業務用てなんだ?」
「売れる花っだな」
「んだらあたしだなにすっどいいの?」
売れない花ほど逞しく咲く。

切り株が生きた証の年輪を見せている。
トタン板たちもそれを見て真似してみた。
デグデグとした生き様だったんだなと切り株はトタン板を哀れに思う。

「オランダカイウていうんだどう」
どうやらサトイモ科の花らしい。
「オランダせんべいはおらだの煎餅が語源だべ?」
「んだらオランダカイウはおらだが買ぁうぅが語源か?」

「睡蓮といえばモネ、モネといえば睡蓮だべぇ」
「誰ががゆったっけのが?はえずば真似してゆったんだべ」
「マネんねず、モネだず。マネていう画家もいるんだじぇ」
こんがらがってきた話をまき散らし、その断片を睡蓮はきょとんと見つめている。

蓮は結構山形市内で見られるけれど、睡蓮にはなかなかお目にかかれない。
このことからも今日飯塚に来た甲斐があったというもんだ。
ただ天気は悪いし、あまりに咄嗟の出会いで、どう撮っていいかもわからず、
撮影はアタフタするばかりだった。

「♪おっかの上ヒナギクの花がぁ」
「おっかの上さヒナギクが乗ってだのがぁ?」
「おっかぁんねず、丘だずぅ」

睡蓮池に流れ込む水は浮草とじゃれ合っている。
じゃれ合いが創り出す泡には青い空が映りこめばよっかったんだが、
今日は生憎とずさまカメラマンがよたっと映りこんでいる。

「ほれ、ほっちゃばり集まっど、物干しが傾ぐべな」
「お前は仕事サボってばりいで白くて綺麗だがらて仲間外れなんだぁ」
汚れ切って固まっている軍手たちは心の芯までも洗ってもらう必要がありそうだ。

どんよりとしているものの、緑は濃くなるばかり。
「ほんてんいづのこめていう感じだずねぇ」
春を渇望していた気持はどこへやら。

「ツツジが真っ盛りだもねはぁ」
「バケツはほだいツツジの花びらば集めてなにすんのや?」
バケツはもっさりと答える。
「あぁ、考えでいねっけぇ。ただ溜めることが楽しいんだっけもの」
夢中になることに目的なんかなくてもいいんだ。

「無花果て書ぐからには花は咲がねんだべずね?」
「無花果の花は人一倍ワニるらしくて、人目に付かね実の中さ咲ぐんだどう」
無花果はワニるんだどしたら、山形人と似でいるんだべした。

「あんまり日焼けしないようになて考えでばりいっど、真っ白になて顔も消えでしまうがらな」

「しもやけなて、今時なる人いるんだべがねぇ」
「あの痒いくて痒いくて溜まらねっけていう時代は終わったんだべずなぁ」
それより、まずは看板さんが皮膚科に行って荒れた皮膚ば治したほうがいいような気がする。

飯塚の水路はカモが自由に闊歩する。
町中なら皆喜んで集まってきて見学するんだべげんと、
飯塚では日常なので、誰もカモを身に来ないし、邪魔もしない。

泳ぐには浅すぎるし、歩いていくしかない水路。
んでも両脇ば石垣が守ってけっから、ツガイにはこれ以上ない環境なのかもしれない。

ありゃりゃあ、今度は民家の玄関前を通り過ぎて庭へ入っていこうとする。
車は唖然としてただただ見守るばかり。

「オラだの働きば称えて、花で飾てけっだのが?」
赤いコーンはまんざらでもない様子。
「コーンにはこのまんま褒め称えっだていうごどにしておぐびゃあ」

子供は水路の上のドラム缶にあぶないと必死で叫ぶ。
しかしその声は看板と同じようにひび割れてドラム缶まで届かない。
危ないと叫ぶ前に耳鼻咽喉科へ行ってその声を治してもらったほうがいい。

「おんまえ冬に働いだもなぁ」
「お前は楽ばりしったっけずねぇ」
その二人の結果が体に現れている。
でも二人はけんかをすることもなく並んでいる。
その様子にスコップはダンプの陰に隠れほっとする。

「暑いとおもたら寒ぐなてみだりで、何着たらいいが迷う毎日よぅ」
「なにゆてんの、おらだなの一張羅だじぇえ」
かき氷と水もちの幟は天気に関係なく、毎日同じ服装で道路っぱなに立つ。

「ダメだべした傘がほごさ入ったら!」
消火栓は全身を真っ赤にしてルール無視と怒っている。
「ほだごどゆたて、傘は勝手に入れらっだんだがら、オラだが守るしかないべ」
黄色い旗たちが傘を擁護する。
白黒決着を付けるように、赤黄色の決着も付けなくてはならないようだ。

空は鉛色が濃くなり、今にも泣き出しそうだ。
街並みは抗う術もなくじっと身を任せるしかない。
でも今の季節は寂しくなんかない。
どこに行っても花が咲き乱れ、雨の景色も楽しませてくれるから。

この水面にぽつぽつと雨滴が模様を創る前に撮影は終えたい。
雨雲は鏡面の水田を滑るように近づいてくる。

「お昼に食ったこごみ旨いっけねぇ」
「もうちょっとすっどサクランボっだなぁ」
山形人の食生活は贅沢すぎる。
んだて、こごみもサクランボも買って食べんのんねくて、貰って食べんのが当たり前だがら。
「特に、サクランボなの買ってきて食ったなていうどびっくりされんもなぁ」
これは本当に本当の話だ。私もわざわざ買って食べたという記憶がない。

「あんまりあっちでもこっちでも花が咲かれっど困んのよねぇ」
花の名を調べるのに大変だからというのが理由。
ちなみにこの花の名はムギナデシコというらしい。
ところで困ると口でいいながら、顔は困り顔じゃない。にやけて涎を垂らしそうな緩んだ顔になっている。

「煙の木て聞いたごどある?」
「スモークツリーが?遠がぐから見っど煙幕張ってるみだいだもねぇ」
んだらと近くへ寄ってみた。
赤く細々と枝分かれした一本一本にも産毛が生えている。
これじゃ遠くから見れば煙に見えるのも道理。

「トラクターば先導しったつもりが?」
我が物顔というか我が水田とでもいいたげにアオサギは田んぼを進む。

「何ば餌にしてっかしゃねげんとよ、この人間への慣れ様ったらなに?」
カモの親さ子供たちがちょこまかついて歩くのは可愛い。
親代わりのトラクターの後ろをついていくアオサギはでかくて可愛いというよりちょっと怖い。
クマやイノシシが現れたていうのんねんだがらまだいいか?
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