[山形市]桜町・霞城公園 桜へパッと群がりパッと去る(2025令和7年4月12日撮影)

この床屋さん前の十字路はいつも楽しませてくれる。
「ハートのレンギョウからカップルが顔ば出して写すには最高だべな」
「通りの車から見っど、なんとも珍妙な光景だべげんとなぁ」

あまりにもくっきりと自己主張してくる矩形がいたものだから撮ってしまった。
郷土館の屋根は隅っこから頭に疑問符を浮かべて眺めている。

「あたしだてよぅ、花見に行ぐだいべずぅ」
「ほだごど思てらんね。仕事仕事」
霞城公園からすぐ近くの病院では、職員が頭から誘惑を追い払って勤務に集中する。

「バーンと芽ばだしたぁ!」
「なんだて強烈な破壊力で出できたずねぇ」
ほんとは冬の間に体の弱ったコーンが自分でくず折れただけ。

あらゆる電線や電柱を邪魔だと思ってはいけない。
「インフラがあっての花見だべな」

山茱萸(サンシュユ)の花たちの隙間を会話が埋める。
「春になっど外さ出で世間話すっだぐなんのっだなぁ」

「確かこの辺さ踏切ないっけがぁ?」
「んだず。城南橋ば渡らなくても奥羽本線の東西ば行き来するいんだっけずねぇ」
禁煙の張り紙はとぼけて目を逸らす。

霞城公園が目の前にある家並は恵まれている。
春夏秋冬の霞城公園の姿を否でも見ていられるし、
「しかも日本でも珍しい城跡と鉄道の並んだ光景も家の中から見るいのっだずねぇ」

「橋の上さワサワサたがったのなんだ?」
「カメムシんねがよ」
椿にとっては、東大手門の橋の上にたがる生物はカメムシでも人間でもどちらでもいいらしい。

桜の花を日よけの傘にして、
ビニールシートをどこへ敷くか言い合いをしている?
その間、黒い日よけ傘は仰向けになって拗ねている。

赤と黒のとぐろが空を突く。
頭の刈り具合も気持ちいい。
こんなおじさんが東大手門で迎えてくれる観桜会。

「これあたし?」
「んだよ可愛いべ?」
「じょんだねぇ、そっくりだどれ」
少女は喜び、描いてもらった自分の顔を小さな指で撫でている。

舞妓さんが舞った跡なのか、毛氈(もうせん)の舞台には誰もいない。
その毛氈の毛羽立ちに引っ掛かって佇むのは桜の花びらだった。

芽は膨らんでいるけれど未だ固そう。
芽から目を奥へ移せば、野点が琴の音に乗り大盛況。

「まだまだ満開んねんだじぇ」
「もっと、もーっと高ーく、大きく、鮮やかに咲ぐんだじぇえ」
「分がたがら、ほだい興奮すねで」
とは言いつつ、人々の興味は束の間。
桜へパッと群がったかと思えば、すぐまた次の興味へ移行する。

「なんだず写すチャンスば逃がしたはぁ」
「んだのよ。梅の花ば撮っかどもたら、目の前ば舞妓さんがソロリソロリて通り過ぎでいぐんだものぉ」
梅の花も舞妓さんも同時には撮ろうと欲張るのは、まさに虻蜂取らず。

「凄いネイルだずねぇ。しかも逆に指側さ付けっだじぇ」
「まさに逆ネイルっだなねぇ」

「ほれ急いでぇ、お客さんが待ってだはぁ」
「早ぐお湯沸がしたらいいべずねぇ」と口を尖らす薬缶。
まさに薬缶のやっかみか。

スマホで撮る前に花弁を指先で上品に整えるという念の入れよう。
その姿を野放図に無防備に食べながら見守る姿。
「人間ずぁおもしゃい生き物だぁ」

その足プランプランに、まるで歌声が聞こえてきそうだ。
春は軽やかに過ぎてゆく。

「ほしてよ、・・・だっけのっだなぁ」
「ほだなぁ・・・んだら・・・なんだっけべしたぁ」
「ま、しぇっだべ・・・・丸ぐ収またんだごんたら」
そんな会話に耳を傾ける咲き始めの花弁たち。
人間界のどろどろへ染まらない内に散ってゆけー。

裸電球が侘しさを放っている。
スケッチブックの端切れも、周りの喧騒に小首をかしげている。
そこだけは時間と空気が止まっているようだ。

「ほれっぱっちょが?」
「こんでも山盛りにしたんだじぇ」
グラム数を気にしながらの微調整は続く。

「こいに大胆に盛っどいいのっだべ」
山形人はとにかく蕎麦にうるさい。

「なんぼ蘊蓄なの語たてダメ。結局旨けりゃそれでよしなんだがら」
「んだのよ、蘊蓄語る時間あったら早ぐ食えて話っだずねぇ」
蘊蓄は短く、蕎麦は長〜く。

「蕎麦も芋煮会みだいに大鍋で茹でるんだが?」
「んだてクレーンなのあっからよ」
「馬もびっくりして前足ば高ぐ上げっだどりゃあ」

「なしてだがしゃねげんと団子三兄弟ば思い出した」
「花より団子だがらが?」
三人とも手を同じように膝の上で組み、同じ姿勢になって並んでいる姿が目の前にあったから。

虚無僧は何を狙っているのか?
でも殺気は感じない。
最上義光もまったく気づいていない。
世は変わった。笠の中に不穏な空気はなく、金髪が微風になびくだけ。

「顔は撮ってだめぇ!」
「なして?」
「芸術家は顔ば出さねの。隈研吾だて出さねべ」
「隈研吾て建築家なんだげんと」
「兎に角出すだぐないのぉ」
なのにVサインだけはちゃんと出す。

「こだいにはしゃいだのは何年振りだべぇ?」
大人になるとああなるんだと、桜の木の下で女の子が納得顔で見入っている。

「この空地はどうなるんだが気になてしょうがないのよ」
「お土産屋どヤマザワがでぎっど一番いいのっだなぁ」
「観光客も市中心部の買物難民も喜ぶがらウインウインだべ」

「E8系んねくてE3系だ」
新幹線の形式を諳(そら)んじている子供が呟いた。
「新幹線と桜と少年。なんかいい小説が書けそうだなぁ」
「書がんねげんと」
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