[山形市]円応寺・馬見ヶ崎河原 春への期待が先走り(2024令和7年3月29日撮影)

男はサッカーに夢中。
女子はスマホの小宇宙へ入っている。
そして葉山はまだ冬のベールに包まれている。

「はい、チーズ」
皆と並びながら薬師町の看板は思う。
「おれ、こだんどごさいでいいの?本当は柱の上さいらんなねのんねの?」

「なんの花だがしゃねげんと、兎に角ちゃっこいんだ」
掌で全体を覆い隠せるような小ささで路傍に春を告げている。

「どれ水掛けで洗てけっから来い」
蛇口は呼びかけるけれどボールたちは乗り気ではない様子。
「んだてこだい寒いどごで冷たい水なの掛げらっだら中の空気も萎んでしまうもはぁ」

一冬耐えてきた。
鳥に突かれて穴も開いた。
間もなく春は来るけれど、あたしださ希望てあるんだべが?」

「三人でいれば寒ぐないもねぇ」
「寒ぐないし出ぎね事もない。んだて何十年来の友人だものぉ」
その前向きさに、ただ「出来ません」と否定するだけの標識は居心地が悪そうだ。

春まだ早い寒空の中、
手まで振ってもい、心がポッと暖かい空気に包まれた。

この寒いときに良く咲ぐもんだと感心する先には、
まだ新しい五中の校舎が見える。
建て替え前は、「校舎の軒下さ絶対行ってダメ。壁がボロボロ剥がれて頭さ落ぢでくっから」なていう状態だったもなぁ。

「シャベルさん、辞めだほうがいいぐないが?」
「なにゆてんの?土ば掘るのはあたしの仕事だじぇ」
「ほだごどゆたて、あまりにも土が固そうだがらてよぅ」
錆の浮き出たシャベルは一瞬ためらい、そして静かに自分の疲れ具合を推し量る。

ツンツン土筆が飛び出したぁ!
太くて固い電柱の隙間から漸く飛び出した土筆たちは、
春の来ない冬なんかないと口々に囀っているようだ。

「この頃、風つよいもねぇ」
「んだがらこだいひん曲がってしまたのよぅ」
「なんぼ風強くても根性までは曲がんなよ」

円応寺町へ足を向け潜入し始める。
潜入という言葉はおかしいかもしれない。
でも、宮町と違って都市計画で無機質な街並みになってしまったのと違い、
円応寺町には迷路や小路や坂道が残っているんだ。

「なんだて切れ味鋭い宣伝コピーだんねがい」
看板を読んでいる脇を、まだまだ冬支度の自転車が冷たい風を切り裂いて過ぎる。

まだまだ冷たい風が吹く中、
その冷たい風に店名は色をさらわれ褪せている。
彩が戻るにはまだまだ寒い山形の街。

風は吹くのに昭和は頑なに居座り残ったまま。
こんな通りに昭和の雑踏も残っていればとふと思う。

ここからが不思議な世界へ誘う坂道だ。
街の真ん中を直線で100メートル程度だろうか、土手のような高さの道が続く。
馬見ヶ崎川の堤防の名残なのか、まさか電車でも走らせようとでもしたのか、
とにかく不可解な通りへ心ははやる。

「みんな集まて一緒に咲ぐべず」
「いや、皆それぞれに個性ば伸ばして各々の場所で咲くべきだ」
プランターたちは意見をぶつけ合う。
おそらく意見のまとまらないうちに花は開いてしまうべな。

不思議な高台(土手?)の通りの向こうに市営グラウンドの照明が見える。
おそらく車がすれ違うのは不可能。
この通りは市の「やや重要な保存道路」に認定すべき。

左右に目をやれば家並は眼下に見える。
あまりにも複雑な高低差と迷路のためか空き家も目立つ。
でも空き家を侮っちゃいけない。
そこにはそこに住んだ人々の思い出が色褪せずぎっしり詰まっているはずだから。

綺麗で真新しい手摺まで設置されているじゃないか。
市はまだこの土手通りを見捨てちゃいないんだな。
「ゆだいんだげんともよ。ほんてん山形の街中でこだな坂道て珍しいんだばな」
平坦な山形の街中で異彩を放つ雰囲気を是非大切にしたい。

椿が頭を撫でようとするものの、
タイヤ交換に夢中な人には気づかない程度の弱弱しい撫で方だった。

「腹くっついずぁ、あどこれ以上入れねでけろぅ」
郵便箱は溜め込まれた郵便物をオエッと吐き出しそうになりながら寒風に震えている。

迷路のような円応寺町からようやく抜け出す。
雨樋は寒さのために体をくねらせているようだし、
捌け口からは冷たい吐息しか出ていない。

河原に出たら顔にビュービューと棘のような風が突き刺さる。
看板は任務を全うするためとはいえ、体は冷え切っていることだろう。

この橋の名は?
上流に馬見ヶ崎橋、下流に二口橋がある。
けれどもその間に挟まれた歩道橋型のこの橋の名はあんまり知られていない。
銘板を見たら「こうえんきょう」てなったっけ。
「おそらく公園橋だど思もうげんと、しょっちゅう来てんのにしゃねごどもあるもんだなぁ」

「こだい寒いんじゃあよ、冬さ肩たたきさんなねんえがよ」
「いいやんばい誰がが落どしてった手袋があっから叩いでけろ」
手袋は冬へ肩たたきをしたら自分もどこかへ去らなければならないと逡巡する。

コゴメヤナギの木が馬見ヶ崎の冷たく早い流れの中で耐えている。
枯草たちは流れに体をまかせ、縦のラインに揺れ蠢き、おどろおどろしさを演出している。

馬見ヶ崎河原排雪場の雪は完全に溶けた。
「乾いでカピカピになてるみだい見えっべ」
ところがどっこい、そこへ足を踏み入れたら泥地獄が待っていた。
足を一歩踏み入れて体重をかけた途端、くるぶしまでズブズブゥッ!
去ったかに見えた冬は、山形人に隠れて罠を仕掛けほくそ笑んでいる。

冷え切った体で泥だらけの靴を引き摺り家へ帰ってきた。
窓をあけたら夕焼けが寒気の中で語りかけてきた。
「先走るな。春は確実に来っからて」
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