[山形市]六椹八幡宮豆まき 寒気の中へ歓喜飛ぶ(2024令和7年2月2日撮影)

「今日はなえだて寒いのに人がごちゃごちゃいるんねがい」
青い空を突き欅は境内を見渡している。

「まだぁ?」
「夕ご飯には早いべ」
「んねず、豆まきだずぅ」
牧野パチパチはぜる音に、子供の声が吹き飛ばされる。

「なえだてしぇえ天気になたもなれぇ」
「んだず、時間も早ぐなたしなぁ」
「な〜に、みんな待ってらんねがらが?」
「平日と違って休日だがらっだなぁ」

木漏れ日に腹を温める一輪車。

テロテロに光る太鼓には、
青空と豆まきを待つ人々と雪原とがうねうねと映っている。

中をのぞいたらろうそくの灯がともっていた。
まだまだ陽が強いので中の灯りは見えず、伸びる影に負けている。

「なんだて凄い数だずねぇ」
狛犬はたまげて吠えようとしている。
「祈祷した人の数だげあんのっだな」
傾いた光は袋を透かして繊細な模様を放っている。

「おらだの役割はなんだ?」
「清めでけるごどっだな」
簡易トイレの脇で二つの柄杓は使命感に燃えている?

「くたびっだのんねがぁ?」
「んね、仕事ば放棄しったんだぁ」
おみくじたちは紐にたづいで箒について語り合う。

「誰か裸足の人はいませんかぁ?」
んねっけ。
「誰か人の靴を履いて気づかない人はいませんかぁ?」
どうやら祈祷後に間違って人の靴を履いてしまった人がいるらしい。

今年も来てくれたね六小太鼓。
先輩として鼻が高いよ。

女の子は頭に天使の輪ができている。
でも緊張と寒さでそれどころではないだろう。

寒さでバチが冷たい。
それでも手袋なんかしたらスポーンとふ飛んでいぐがら素手で握るしかない。
それこそバチを落としたらバチあたり。
辛いけどこのために練習してきたんだなぁ。

西日が太鼓衆を照らし、長く伸びる影を作っている。
太鼓の響きは観衆の人々の心に響き、
本番を待つ豆たちもカチカチ触れ合って緊張感が走る。

大人たちは無言で手を体の後ろに回し、
暖かなまなざしを向けている。

時代が変わったのか?
鬼が改心したのか?
近頃の豆まきでは鬼たちが裏方から司会までなんでもするようになった。

遂に宮司さんが空へ豆を放った。
「本番だぁ。みなあっぱ口ば開げで見でる場合んねぞーッ」

豆は四方八方へ散っていく。
でも皆の期待する豆はこれじゃない。
ビニール袋に入った当たりくじ入りの豆が目当てなんだ。

豆をまく人、豆を掴もうとする人が向かい合って対峙する。

子供たちは背が小さい分必死。
袋を大きく広げて最前列で豆を待つ。

「空さ向がてあやとりがぁ?」
とにかく袋が落ちないように、そしてなるべく袋が広がるように。
これが袋を持つ極意なんだな。

遂に鬼が現れた。
鬼は子供たちの頭を思いっきりくらすけで周る。(うそ)
そしてあらゆる方向からスマホを向けられる。

「泣いた〜」

「笑った〜」

「ごしゃいだ〜」

あちこちから手が伸びる。
老境に入った私には、なえだてみなすべすべした綺麗な指だなあと感じ入ってしまう。

「ハイ三等。はえぬき5キロだがらな。重だいぞ気ぃつけでたがげよ」
三等ではえぬき五キロなて太っ腹な六椹八幡宮。

「これが一等賞のはえぬき三十キロ。片手でたがぐいがらねぇ」
みんなびっくりして見ていると、小さな声で「ダミーだっす」だど。

緊張と歓声と喜びの豆まきが終わり、後片付けが始まる。
藁の坂には脚立を持つ姿が西日で貼り付けられる。

舞台をしつらえられたトラックの背面には、ご神木の枝模様が映りこむ。

「よっこらしょっと。腰さくんまねぇ」
紅白幕は折りたたまれ次のめでたい日まで仕舞われる。

夢の跡に残ったのは雪解け水と土とが交じり合った、
グジャグジャの泥だった。
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