[山形市]駅西 暗闇の駅裏がキラキラの駅西へ格上げ(2024令和7年1月2日撮影)

白壁にあたった照明は、日暮れとともにオレンジ色を強めていく。
オレンジの明かりが壁面を支配できるのは明け方までの時間だけ。

「しぇっだずぅ」
「んだんだ、ほごさ行ぐべぇ」
「あそごの旨いんだどぅ」
白い息を吐きながら、三人は楽し気にすれ違って街並みに消えていった。

「普段は学校帰りの高校生だがワンワンたがてんのっだなねぇ」
どんどん焼き屋さんの空間には寒風が立ち寄っては去ってゆく。

「こだな暗ぐなてがら霞城公園の南門から人が出てきたじぇ」
「霞城公園なの夜でも人通っじぇ」
霞城公園は街の真ん中にあるために、市民の普通の通学路であり通勤路。
変な事を考えないで松の木はどっしりと立ち市民を見守って欲しい。

「ちっちゃいげんと、南門周辺の灯りば皆集めでるんだじぇ」
蛇口の先っぽは集まった街灯を誇るようにキラキラと光らせている。

笑顔が窓から覗く。暖かそうな光りも漏れてくる。
私は白い息をフーっと吐き出し、襟を掻き合わせる。
人の幸せそうな姿を見て悲しくなることもあるんだ。

「ヘーイ元気ィ!おいしいから食べていきなよ」
ビッグボーイは寒空の中半袖。
それでも肌艶はつるつる。
「なんでほだい明るく元気なのや?」
「生きるには割り切りが大切だってことさ」

ワイパーは雪の中で喘いでいる。
それでもまだまだ普段の雪にはほど遠い。
果たして今年はどんな真冬が待っているのか。

「こだな立派なモニュメントがあるなてしゃねっけぇ」
「どごが予算持つんだべね」
「ほだな無粋なごどば正月早々やねでよぅ」
モニュメントと親爺の会話を怪訝そうに見て女の子は首をすくめて通り過ぎた。

一握りの雪をペッと吐き出し、
夜の静寂に佇む滑り台。

滑って降りていくのは寒風だけ。
滑り台は遠くの灯りを眺めながらまだまだ先の春を待つ。

「フェンスさ吊るされんのは辛いずねぇ」
「んだず、風が吹き抜けっからねぇ」
二つの張り紙は向かい合いながらお互いを案じ合う。

落涙注意と読んでしまう。
「今の俺は心身ともに弱カスだがらてよぅ」
「お前は新しくてピンとしてえらいなぁ」
コーンへ話しかけても無意味だし無反応なのは百も承知。

「昔は目の前真っ暗だっけのになぁ」
小さな祠が呟く。
「いまじゃ山形で一番眩しい場所になたもなぁ」
パソコン教室が相槌を打つ。
「まなぐシカシカしてわがらね」
祠は感慨深げに目を瞬かせる。

さっきまでかろうじて我慢して降らずにいた雪が、遂に舞い降りてきた。
ガス灯をジーっと見つめていると、ガス灯自身がゆーっくり空へ登っていくようだ。

いまだにクリスマスの余韻を残す駅西。
いまでは暗闇の痴漢を恐れず安心して歩ける明るく立派な通りになってしまった。

「なんだて変な場所さJRの貨物があっずね?」
「ほだごどないんだ。昔はこの辺一帯さ国鉄の官舎ていうが、アパートが建ってだんだっけがら」
「三中時代は国鉄職員の子息がいっぱいいだっけがらて、
国鉄の人事異動によってクラスの人数が変わるっけがら三年ともクラス替えしたっけもなぁ」

昔は東洋曹達の暗い色のコンクリ壁だった。
今はスーパーの明るい色の壁。

去年はクリスマスを楽しむ時間も余裕もなかった。
ひと時だけでもイルミネーションの悲し気で儚げな光りに浸ってみるか。

霞城セントラルから出てくる人たちはみんなシルエットになっている。
「玉コン食だい」
「初詣で食たべぇ」
「あどはいづ食いの?」
「今度は初市んどぎっだなぁ」
シルエットの会話はそのまま山形人の誰にも当てはまる。

これを山形?と思った人は五十代以上。
若者たちにとってはこれが当たり前の光景。
こうやって街並みと人々は少しずつ入れ替わっていく。

冷え切った円形のベンチに座るのは小さな雪の子供たちだけ。
雪の子供たちは何グループかに分かれ、
イルミネーションの灯りを集める競争をする意欲もなく疲れているようだ。

「バスターミナルてゆたらダイエーが東北最大だっけげんとねぇ」
「屋根付きのバスターミナルが出来たときはたまげだっけぇ」
そして今、バスは駅西からも発着するようになった。

左から右側へ登る階段を踏みしめてみたい。
「んだて黄金色の光景を楽しめる最高の階段だべがら。」

「こっちで一緒に撮らない?」
甘い言葉を唇が発する。
「はぁ?なにゆったが聞こえねっけ」
少年は唇よりガチャガチャに夢中。

「早ぐ撮ってけろず退屈なんだずぅ」
「ちぇっと待ってぇ、いろんなアングルから撮らんなねがら」
待つ方は退屈で飲み物片手。
待たせるほうは夢中になってスマホを片手。
二人の微妙な空気感と距離感は果たして今年どうなっていくのか。

♪み〜あ〜げて〜ごらん〜夜の団子木を〜。
「若者だは荒野ば目指さず、何が旨いものさでも惹がっで、夜の街さ繰り出して行ぐんだべなこりゃ」

七夕の短冊の様に伸びたイルミの光りは水面で煌いている。
水面はいろんな光りを受け入れ、そして違う形に変えて再び光りを蘇らせる。

「そら」と読めばいいのか「あき」と読めばいいのか、それとも「くう」と読めばいいのか。
今の私には「くう」としか読めない。
「腹減ってっからんねがらね。心に空間がぽっかり空いたからだがらね」

だいぶ雪が強くなってきた。
早く帰って雑煮でも食ぇという天の促しに違いない。
指先は感覚がなくなりつつある。
ここは素直に天の促しに従うしかないようだ。
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