[中山町]金沢・羽前金沢駅 里に西日が当たるころは(2024令和6年11月9日撮影)

陰と陽。
小路を挟んで日向の家は笑い日陰は家は俯く。
今からは山形のすべてに陰の季節が訪れる

「紅葉はどさがないんだがず」
「ほだいんまぐいがねっだず。観光地さ来たわげんねんだがら」
「あ、紅葉が歩いていぐ」
確かに紅葉を求めすぎて、真っ赤なカーディガンの紅葉が坂道を下ってゆくように見えた。

「なして俺さ懐ぐのや?」
消火栓は風車に何気なく聞いた。
「風除けの変わり」
風車はぼそりと疲れたようにいう。
消火栓は期待した答えと違っていたことに肩を落とす。
風車は好意を抱いたなんて恥ずかしくてとてもいえない。

長い石段を登り始めると傍らに小さな公園があった。
眼下に山形盆地が見えそうな位置に公園はこじんまりとしていた。
まあるい宇宙船を縦にしたような滑り台の窓。
そこには晩秋の光景がまあるく収められている。

落ち葉は明るく発色して人々の目を喜ばせる余裕もない。
積み重なっては湿気を含み黒ずんでいく。
その地面にギッコンバッタンは片側だけ地面に埋もれる。

「じっとぶら下てんのも退屈だずね」
「ほんで同じ事いうの十回目」
「同じこどば何回もしゃべんなず」
「しゃべらねど時間が過ぎでいがねんだも」
スコップたちはそうやってヘラカラと言い合いながら止まった時間を巻き上げる。

山際の村には光りが届かなくなってきた。
光り輝いていた花たちは空の青に染められて、
やがて闇に蹲る。

「ほっだいキロキロて太ってはぁ」
「今年はよぅ、皆栄養過多で太りすぎて農家のおばちゃんがゆったっけ」
枝に重みを預けながら、悠然と山形盆地を眺める柿の実たちは悠々自適。

「染み出だどれはぁ」
「ゆうなず」
「皺寄ってきたどれはぁ」
「ゆうなてゆたべ」
「んだて俺ど同じ仲間みだいなんだも」
皮膚の色は違えど、どうしても自分の顔と比べてしまうおじさん悲し。

雪の降る前にプンプン虫が舞っている。
この穏やかな瞬間がとっても愛おしいと思うのは山形人だから。

「なえだて立派に実たずねぇ」
「んだぁ、見事なもんだぁ」
リンゴは照れ隠しに微笑んで見せる。
柿の実は焼きもちを焼き、壁の蔦はちらちらと視線を向ける。

紫から朱色へのグラデーション。
辺り一面が晩秋の色に覆われて、
あっちにもこっちにもグラデーションが多彩に広がる金沢の里。

「あだい丸まて、体でも痒いくて掻ぐだいのが?」
「なんだがよっくど見っど、虫たがたみだいだなぁ」
虫に体を丸められても秋空は穏やかに過ぎるだけ。

上から青い葉とオレンジの干し柿と黒い車が重なりあう三者三様。

「シャキシャキて、んまいもねぇ」
菊の花はピンピンと花びらを開き、新鮮さをアピールする。
「ネトーっとして甘いもねぇ」
干し柿は皺を寄せあって縮んでいき、熟成さを誇る。

屋根の端に引っ掛かった太陽が消えてゆく。
もうすぐ壁を覆う蔦も闇に飲み込まれる。

「庇だが?暖簾だが?」
太陽はいじめるつもりもないけれど、
その光に何年も晒されたビニールはビリビリに裂け、隙間だらけの暖簾のよう。

田んぼのど真ん中にポコンと立つ羽前金沢駅舎。
赤い部分が展望台ならば、山形盆地を360度見渡せるだろうに。

プラットフォームにぺたりと張り付いた乗車口。
何人もの人々に踏まれても屈しないし痛くもない。
ただ一つの願いは、起き上がれないので周りの青々とした田んぼや黄金色の稲や、
真っ白な雪原を見てみたいこと。

ススキの穂を揺らして山形方面から電車がゆったりとやってくる。
線路は電車へこっちだと指針を示すように、西日を受けて光り輝いている。

西日が電車に跳ね返る。
誰か使ってくれないかと毎回期待しながら、
よく来たなぁと公衆電話が出迎える。

ぴょとっと出す顔にも夕日が当たる。
電車の窓にも夕日が反射する。
週末の駅には長閑さと穏やかさと安心感が交じり合う。

寒河江方面へと電車はゆっくりと走り去った。
驚いた鳥たちが空へワッと舞い上がり、黒い斑点となって静穏を破り騒ぎ立てている。

「今日もいい天気だっけねぇ」
「んだずねぇ。明日もこうだどいいんだげんとねぇ」
プラットフォームに残された花たちは口々に言い合い、
そして毎日がこんなに穏やかではないことを知っている。

山際に近づいた太陽は、花たちの産毛までもを浮き上がらせる。
「なんだがこちょびたぐなっず」
あんまり陽が当たると恥ずかしいけれど、
そうはいわずにこちょびたいと誤魔化しているのは知っている。

みーんなが夕日で赤っぽくなれば怖くない。
草も土も屋並みも、みーんな赤く染まったお互いを見つめ合って安堵感に浸るひと時。

羽前金沢駅前には水たまりが横たわっていた。
山の向こうへ沈もうとする太陽へ少しでも近づきたいと願う水たまりに浮かぶ太陽。
その願いは叶わずに、光りは寸前に力尽きて消えてゆく。

「お前誰どしゃべったの?」
「お前こそ誰どしゃべったのや?」
自転車とその影はお互いへ思いやりを見せつつも、
いつまでたっても自分へ自分がしゃべっていると気づかない。

今度は電車が寒河江方面から山形方面へ向かってゆく。
「今から山形さ行ぐなて酒飲みに決まてっべ」
「ほだな分がんねべした」
「分がっず。んだて駅前どが鈴蘭街さ飲み屋がいっぱいあんもの」
確かに山形駅前は日中静かで夜は賑やか。
でも帰りの電車はあるんだろうかと心配になる。

長く伸びた筋雲の隙間に月が顔を出した。
日が暮れた羽前金沢駅には青い闇と冷たくなった微風が訪れる。
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