[山形市]七日町界隈 味覚・視覚・触覚・聴覚・嗅覚が奏であう(2024令和6年10月12日撮影)

こんなに晴れていいのか?というくらいの快晴でベランダのタイルが輝いている。
「この格子模様でオセロでもしたらいいんねがよ」
「こだいマスあって日も差してるし、試合終わる前に熱中症なてしまうはぁ」
その前に警備の人に注意される。

「あたしもあいになっだい」
「どいになっだいのや?」
「太陽の光りば浴びるような人」
「観客の拍手も浴びでが」

太陽が強すぎて人々は逆光で真っ黒になっている。
でも、それよりも演舞演奏者への観客の感動の視線が強い。

「なえだてじょんだごど」
日傘にマスクのおばさんがなにげなく呟く。
演奏者の子供たちにそんな声は聞こえるはずもなく、
ただただ観客へ向け空へ向け、透き通った音を響かせる。

日差しで頭が熱い。気持も熱い。
そんな姿を、文翔館と一緒に映しこむトロンボーンの口先。

「影まで立ち上がって演奏始めだどれ」
いやいや、地面の影を撮って、逆さまにしてみましたぁ。
そしたら影たちも命を得たように演奏し始めたんだっす。

周りの木々やビルがいきなり背伸びし始めた。
太陽が空に光りのひび割れを広げ始めた。
管楽器だけの驚きの世界。

「道路の真ん中さ遮蔽物が並んでなんだが変だど思わねが?」
「しゃねのが。道路のこっち側が通行止めになたんだじゃあ」
「んだがら人がベンチさ座ったりして寛いっだのがぁ」
「将来どいになっか分がらねげんと実験なんだど」

「あれ?バス時刻表が皆塞がっでだ」
「んだらなんぼ待ってもバスは来ねってごど?」
「んだのよねぇ。道路の南進部分ば通行止めしたがら、
南進用バス停は余計な事いうなて塞がっでしまたのよ」

太陽は三連休に、これ以上ないご褒美をくれた。
この天気じゃとても家の中に籠っていられない。

夏から秋へのあまりに急激な気温の変化で、人々は面喰い、
一刻も早く食欲の秋を満喫しようと七日町へ繰り出した。
葉っぱたちはいつも静かな七日町のあまりの人出に面喰う。

「これだげ天気いいど、50円引きなのすねでも皆買うんねがよ」
「ほごはほれ、商売の駆け引きっだず」
そんな間にもラミネートフィルムの反射光がソフトクリームの体を垂れ落ちる。

「冷たい玉コンだど。山形の冷たい文化も行くどごまでいったて感じだねぇ」
「冷たい玉コンば混ぜだシャンプーで髪の毛ばごにょごにょしてけだらなんたべ」
「それごそ客との間が冷たい関係になてしまうべな」

人々は日傘で行き交う。
日傘のない私は木陰で一息。
そしていつも思う。
「昭和はイベントなの無くても人が一杯だっけなぁ」

「ありゃりゃあ!タワーリングインフェルノば思い出すんだげんと」
「それこそ昭和の映画だべ」
「ああ牛串の煙が目にしみるぅ」
「煙が目にしみるも昭和の名曲っだず」
いずれにしても昭和から抜け出すのは容易ではない。

煙を煽って、人々の食欲を煽る。
「ちょっと煽り過ぎなのんねんだが?行列が十日町まで続いっだどりゃあ」

「♪ワインのなぁかぁをぉ〜山形弁が流れるぅ〜♪」
「はえずぁ荒井由美の♪ソーダ水の中を 貨物船がとおる♪に匹敵する名歌詞だな」

ホッとなる広場は立錐の余地もない。
そしてその空間をメロディが隙間なく飛び交う。
大沼の看板が未だに見下ろしているのが悲しい。

楽器を操れない者は思った。
「あれだど指がこごらげでしまうべな」

「頭ぺんぺん」
「ほだごどしてダメ、撫ででけらんなね」
艶々の赤リンゴは思った。
どっちでもいいげんと、指紋を付けないで欲しいと。

「ほっとなるビジョンてなんだ?」
「前さいだ人がバチみだいなので頭叩がれそうだじぇ」

「ごしゃがっで堰の上さ座ってろていわっでるみだいだ」
「ほだごどゆうもんでない。足痺れでも我慢しったんだがら」

川床の茶席を茶化した私は大いに反省した。
そして思い出す。
上流で立ちションし、中流で洗濯し、下流で野菜を洗っていた昭和30年代。

「カップルていうんだが?アベックていうんだが?」
ススキの向こうを二人連れが歩いていく。
郵便ポストは帽子の庇を下げ、
一緒に並んだ灰色の箱は目を四角にして見入っている。

映画を見るためワクワクして歩いた旭銀座。
映画を見終わり余韻に浸って歩いた旭銀座。
そのシネマ通りに大音響と大興奮が蘇った。

旭銀座の旧丸久松坂屋と工事中の山銀本店に挟まれた一角に、
これ以上ない清々しく清浄な声が流れる。
この爽快で明るい声は大気の中に撒かれ、親爺たちの心を穢れのない子供に還らせる。

心地よい音とともに食欲もいや増して箸が止まらない。
芋煮のお椀には清々しい歌声が降り注いでいる。

犬も歩けば棒にあたる。
私も歩けば昭和の知人に会ってしまう。
ビールをかざされても私の手にはカメラしかない。
「なんだず俺だて飲むだいっだずぅ」

体から色が抜け落ちるほど旨そうに飲む。
白黒だけが残り、ビールの味と人となりだけが浮かび上がってくる。

「いやぁ、やんばいだねぇ」
満面の笑みを浮かべるこの方は、知る人ぞ知るプロカメラマンであり、
山形人なら誰しもがどこかでこの方の写真を見ているはず。
そんなカメラマンをアマチュアの私が撮っている。
なんと恐れ多いことか。
そして忘れてならないのは、実はこの人こそ「山形すっぽこ」の元祖研究者でもあるのだ。

「どれ腹くっつぐなたし帰っべはぁ」
そんな会話を交わしているのか、山銀の工事現場脇を二人がゆったりと通り過ぎてゆく。

文翔館はどっちが本物かすぐにわかるが、
黒い車はどっちが前か後ろか分からない。
「どっちも前だて?なんだてまんず」

七日町の喧騒を離れて文翔館の前庭に身を寄せる。
秋を迎えて水面は優し気な光りを浮かべ、
その光りをじっと見つめていると、七日町で沸騰した心が静かに落ち着いていく。

トンボと間近でお見合いだ。
何を考えているのかなんぼ見つめ合ってもわからない。
ただ、トンボの羽根を透かしている柔らかくなった光りから、秋がもっと深くなることだけは感じ取れた。
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