[山形市]六椹八幡宮例大祭 熱した大地を冷ます雨(2024令和6年9月15日撮影)

「待ちきれねくて来てしまたどれはぁ」
もちろん誰もいず、静寂だけが我が物顔で漂っている。
※9月13日深夜撮影

「この紋所が目に入らんか!」
「そりゃあ、痛くて入らねべぇ」
と思ってしまった御神燈。
その迫力は闇夜の中でいやが上にも増している。
※9月13日深夜撮影

屋台はわずかな明かりの中で心細げに本番を待っている。
わんわん人が訪れることを期待しながら、そのワクワクは心にしまう。
※9月13日深夜撮影

遂に15日の本番当日。
「なんだずこの水浸しは!」
雨水は本殿から地面を伝い、石の土手を超えて溢れてくる。
まさに溢れる期待に水を差す雨だ。

「ちぇっとちぇっと、毎年撮影しにきてける方んねがっす?」
突然声を掛けられとまどっていると、
「今日は神輿担ぎ中止なてよぅ、皆飲んだくれっだがら直会(なおらい)撮ってけねが?」
神輿担ぎが中止になったのは雨のせいではなく雷のせいだという。
なるほど雨でびしょ濡れの担ぎ手を撮ってみたかったが、
飲んだくれている担ぎ手を撮るのも一興かと気を取り直す。

「なえだて俺のためにこだい通路ば開けでもらてがぁ」
「いやいや直会も佳境に入り、帰る方々ば見送りすんのっだず」
確かにアマチュアカメラマンのためにこんな歓待はあり得ない。

整然と並んだアルコールの缶たち。
でっかい氷が隊列を乱さぬように、上からしっかりと押さえつけている。

乱れまくった玄関口の靴たち。
「おまえだもアルコール入てんのんねべね?」
「アルコール缶の整然と並んだ姿と真逆だどりゃあ」

社務所の中におずおずと入ってびっくりした。
外観とは裏腹に、結婚式の披露宴ができるほど広い。
そして誰かれ構わず飲んだくれたちがアルコールを浴びている。

どんどん減っていくアルコールに紙コップたちは戦々恐々。
社務所内に屯(たむろ)す酔っぱらいの一オクターブ高い話し声と、
アルコールの匂いと、お祭りの高揚感が交じり合う異空間。

扇風機の風はこの広さの中では無力だった。
ただ話し声やアルコールの匂いを撹拌している。
でも、その中に芋煮のかぐわしい香りも漂っている。

ひと際凛とした空気の一角がある。
ここだけは別格の空間。神主様のテーブルだ。
酔っ払いがくだを巻いている大広間の中で、この一角だけは神々しい。

「あの白いのは襦袢だが?」
「一反もめんんねがよ」
「ゲゲゲの鬼太郎んねんだがら」
誰の視線にも入らず寂し気にぶら下がっている姿が気になった。

「俺の口べろはビールば吸い込むためにあんのよ」
最後の一滴まで啜る。そしてまた注ぐ。また飲み込むを繰り返す。
ぐでんぐでんになって寝込むまで。

アルコール度数の高い社務所を後にする。
風鈴の音色が酔っぱらったような気分をしゃきっとさせる。

雨は訪れる人々も社殿も映しこむ。
そんな水面を長靴が踏んづけていく。

傘二つに小さな青い合羽が挟まれている。
その三角形が社殿へ向かう。
これが親子の美しい理想形。

社殿に縦線を描き、驟雨が我が物顔に落ちてくる。
それでも人々は熱い思いを抱いて拝礼する。

「なえだて散々だっけ」
「人は来ねし、そろそろ引き上げ時だべなぁ」
せっかく膨らんだ綿あめは雨に濡れ、
水面を照らす灯りには無情の波紋が広がっていく。

山形人に問う!
「玉コンとどんどん焼きのどっちば選ぶていわっだらどうする?」
「玉コンの辛子ふだふだば選ぶ」ブブー。
「どんどん焼きのソースふだふだば選ぶ」ブブー。
「玉コンもどんどん焼きも両方選ぶ」大正解!
すばらしい山形の割りばし文化。

あらためて葉っぱを眺めると、雨のために日頃の埃が払われて、
瑞々しい若葉のように見えてきた。
おみくじが並ぶその屋根は、ひと夏の間にカサカサに乾いていたけれど、
ペンキ塗りたてのようにテラテラぬめぬめと潤っている。

「二礼二拍手一礼ば忘れんなよ」
「ほだごど言わっでも、傘持ったし、お賽銭持ったし、どうすっどいいのや?」
「確かに人間には手が四本もないしなぁ」

「あたしたちどんどん焼き三兄弟」
もちろん思わずカメラを落としそうになって、垂涎の体で眺めたことはいうまでもない。

「んだのよんだのよ、このソースふだふだがいいのよ」
てらてら光ったタレがたまらなく山形人の食欲をそそる。

「やじゃがねやろこの頃、この田楽ルーレットさなんぼ投資したんだが」
「あの針金の先が8ばなの指したら狂喜乱舞。3なの指したら肩ががっくり下がたもんだ」
「んでもよ、お店のおばちゃんが何本かサービスしてけだもんだま」

「この雨だじぇ、あど何する?」
「うっちゃ帰ってひっぱりでも食うがなぁ」
「あたしはひょう干しがくきな煮食うはぁ」

紅葉は雨の打ち付ける仕打ちに、
枝を垂らしてじっと耐えるしかない。

ぽっぽっぽっ。花開く前の蕾から赤い光りがぽろぽろと吐き出される。
「ほだな、ほいなアングルで撮っただげだどれ」
「夢がないずねぇ。花の名前もしゃねくせしてよぅ」
「なんていう花なのや?」
「しゃね」

「なんぼ雨降ったてよぅ。子供のためなら買ってけらんなねっだず」
膨らんだ袋を二つ抱えて、傘を前向きにして足早に立ち去る親心。

「お前が雨宿りしてどうすんの?」
「今日の雨は強くて打だれっど痛いんだも」
近頃の傘は甘やかされている?

「足、足がぁ!」
神輿が悲痛な声を上げている。
「なんとがしてけっだいげんとどうしようもないもなぁ」
一面沼と化し、細い足元にも溜まった雨がひたひたと迫っている。

雨のおかげか、緑が一層濃く瑞々しく見える。
おかげで提灯の陰が薄くなってしまった。

なんと豪壮で力強い看板か。
北の両所宮、南の六椹八幡宮は常に山形で覇を競うライバルだ。

雨は社殿の屋根からも容赦なく滴り落ちる。
拝礼に訪れる人々はこの雨に打たれても、心新たにして帰っていく。

雨に打たれながらの撮影を終え、家の窓から外を見る。
「なんなんだず、雨のなの止んだどれはぁ。ごしゃげるったら」
いや、ごしゃぐ必要なの一つもない。
どんな天候であれ、お祭りに行ってきて、少しばかりのお賽銭を入れ、
お決まりの二礼二拍手一礼をしたことに意義がある。
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