[山形市]長源寺通り・県民会館跡地 夜だけ見せる街の顔(2024令和6年9月7日撮影)

山形市の王道の光景といえばこの光景。
でも県民会館がなくなり、すぽっと奥歯が抜けたようになっている。
その奥歯が親知らずのようにずっとなくなるのではなく、今度は市民会館ができる。
この光景はそれまでの仮初(かりそめ)の姿だ。

これも今しか見られない光景。
山銀が完成すれば旭銀座は見えなくなる。
旭銀座は見えなくなるのであって、消えるのではないと信じたい。

信号機や車の前照灯が塀に光りを散らしている。
「一番左側の文字がそくっと見えなくなっているっす。果たしてなんて書いでべっす?」
知りたい方は山銀前へ。

「これはのど自慢の「の」の字んねんだが?」
「似っだげんとんね。シネマ通りの巨大塔の一番上だべした」
よーく見れば山銀の工事の模様や、車の行き来を映している。

身障者の方も利用できるでっかな公衆電話ボックス。
「なんだが居心地よさそうだがら、受話器ばたがて歌の一曲も歌いそうだじゃあ」

旭銀座はすっかり寂れてしまったと思っていた。
ところが女子高生がわんさかとたがている場所があった。
寂れていた場所にも次世代の新たな芽がでてきているんだべずなぁ。

左右に明と暗の美が並んでいる。
明にも暗にも味わいがあり甲乙つけがたい。
「んでもほごまで分がてける人いっべがねぇ」
「分がてける人は必ずいっべ」
「これも旭銀座の楽しみなのっだなねぇ」

お客さんを乗せたタクシーの灯りがスーッと過ぎ去る。
夕方降った雨が滴になって花びらにしがみついている。
♪夢は夜開くぅ〜。こんな宵闇には思わず口ずさんでしまうのっだずねぇ。

映画館が何軒も軒を連ねるころ、
「このあだりはものすごい人出だっけっだなぁ」
「映画館がなぐなて寂しぐなたもなぁ」
それでもあのころと変わらず軒を連ねる昭和の香り漂う通り。

「ほだい見んなず、恥ずかしいべな」
「んだてキラキラ輝いでいるんだもの」
タヌキは羨望の眼差しを向け、
黄金のカップはなんだか体がくすぐったい。

ボトルの向こうにキラキラと蛍のように舞う光り。
ボトルたちはその光りを追うように視線を向ける。

ネオンの瞬きが恋しくなるころ、
歩道にはみ出した花は眠りにつく。
ネオンが眩しくて寝らんねべげんと。
そして長源寺通りにはアルコールを求める人々が訪れ始める。

長源寺通りというからにはその名の元となった長源寺へ寄らなくてはならない。
門を過ぎ真っ暗い中へ入り込んでいくと、息苦しいほどの闇の圧が襲ってくる。
戦(おのの)く心を沈めさせ、いち早く通りの灯りへ逃げ出した。

さっきまでの雨はどうやら止んだようだ。
テルテル坊主には笑顔が戻ってきた。
「テルテル坊主はなして髪の毛ないんだ?」
「風情が壊れっから余計な事いうな」

ネジのような、座金のような目が言ってくる。
「こごはお前のような不審者が来っどごんね。あっちゃ行げ」
むっとして「その鼻ばへし折ってけっか」と言おうとしたら既に折れている。
鼻がへし折られるほどの何かを心に抱えて生きてきたんだな。

通りをプラプラ歩いて気づいた。
なんと夜目にも赤い百日紅の木じゃないか。
長源寺通りは百日紅通りと名を変えてもいいんじゃないかと一人得心する。

ネオンが百日紅の薄い花びらを透かしている。
夜が更けるにつれ、益々ネオンは煌きを増す。

屋並みの隙間に入ってみた。
壁は各種パイプや配線と蔦が自分の場所を得ようと激しく争っている。

雨の乾いた車の屋根にはパーキングの灯りが我が物顔で居座っている。
車は主が戻ってくるまで無言で頭をなでられ続ける。

「お、やっぱりいだが」
車のヘッドランプやテールランプに時折照らされて、
ナショナル坊やは道端に頭を下げ続けている。

「いづまでほいにしているつもりや?」
声をかけても答えはない。
でも目だけはきらりと輝いた。
いや、輝いたのではなくて車のライトの反射だった。

「ほっだい感謝して車さお辞儀なのする必要ないんだがらな」
もう何回も撮ったナショナル坊や。
いつ来てもそこにいてじっとしている。
「誰か彼の心ば開いでけねが」

雨の残り香があたりに漂い、
コンビニの灯りがくっきりと地面に残っている。
夏の雨後の宵は心のきつい結び目をほどいてしまう妙薬か?

テールランプは気性が激しく強引だ。
辺りのシャッターや雨樋にまで自分の色を押し付けてくる。

板塀には七日町地区の地図が自信をもって張られ、
その脇には何を表現する当てもない掲示板が手持無沙汰に、辺りの灯りと戯れている。

「こっから入てダメだがら」
杭はロープをピンと張り、新市民会館の土地だぞと強調する。

「なんだが文翔館がヨレヨレなんだげんと・・・」
「んだっだず。新市民会館ができる予定の空地ば挟んで向いのビルさ映っただげだもの」
「ていうごどは、新市民会館が出来だら見えねぐなんのがぁ」
「見えねぐなんのやんだが?」
「別にいいげんとよ」

新市民会館は旧弊を取っ払った斬新な建物になるらしい。
「ジブリの杜みだいになるったんねがよ」
そんなことを頭の中でぐるぐる考えていると、山交バスが宵の闇を突っ切っていった。

「なえだず俺のバスはいづくるんだず」
ジイッとバス時刻表を見入っているおじさんを、
退屈に飽かした市営駐車場の様々な看板が見入っている。

県民会館が移転して文翔館がスカッと見える。
この光景もあと数年。
今度はシン山形を担う市民会館が新しい山形の顔になってくれる。
「ほだごどゆなず。何が出来だて文翔館が山形の顔だべぇ」
「まあまあ興奮すねで。今度の市民会館は全米が涙した。
いや、日本の一部で話題になていで度肝抜くほど興味深い建物らしいんだず」
「んだら早ぐ地方裁判所も移転してもらて、このあたり一帯ばおもしゃい山形にしていがんなねっだな」
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