[山形市]谷柏ハス 梅雨明けて雨はやんでも暑さはやんだ(2024令和6年8月3日撮影)

「なえだて綺麗な看板だごどぉ」
「看板ば見に来たのんねんだべ?ちゃっちゃど見に行げちゃ」
消火栓は暑さを紛らすためにちょっかいを出してくる。

オニユリは鬼の形相?
「鬼ていうよりも、あの雄しべの形はカマキリが鎌首ばもたげっだみだいだずね」

汗がぽたぽたと道に落ち、じゅっと儚く消え去った。
梅雨が明けるのは嬉しいけれど、いきなりのこの暑さには体がついていけない。
樹木や草たちは燃えるような深い緑色で真夏に対処しているようだ。

思わず小屋の陰を覗き込めば、玉ねぎが濃い陰のまま吊るされ、
その向こうには奥羽の山並みと山形の市街地が広がっている。

一言も発さない玉ねぎたちの視線を感じつつ、
「どーれんだら水分補給にちぇっと日陰ば拝借してが」
喉を鳴らしたあとは、♪夏が過ぎぃ風あざみぃ♪なぞと口ずさみながら再び日差しへ入り込む。

さっきまで黙って見つめていた玉ねぎたちは、追いかける素振りを見せる。
しかも自転車に乗って。
これは暑さのせいの幻覚に違いないと目をこする。

真っ黒に焼けたタイヤはパンパンで破裂しそうだ。
「タイヤは元々黒いんだっす」
暑さにやられて萎びれ黄色くなったゴーヤが、すかさず人の言葉を訂正してきた。

「出してけろー!」
どこかからざわめきが聞こえてくる。
シャッターの下には玉ねぎの群れ。
さっきの小屋の玉ねぎといい、やっぱり暑さで玉ねぎに取り憑かれてしまったのか。
なるほど、玉ねぎを食べて、こういう時こそ血液をサラサラにしろというご託宣に違いない。

「「踊る電線」はテレビで視聴率高いっけずねぇ」
「はえずぁ「踊る捜査線」捜査線と電線ではえらぐ違うべな」
あんまり暑くて手足をただバタつかせているのかも知れない電線。

開きかけた芙蓉の花は、あまりの暑さに再び口をすぼめたのかも。
「いやいや、芙蓉は真夏の花だがらほだなごどあんまいず。
ほれ、次々と新たな初心者マークの蕾が咲ぐ準備しったどれ」

アスファルトの照り返しが体を炙る。
炙られた体に走り去る車の起した熱風が覆いかぶさる。

「すっぱーい事したい?」
「なにゆてんだず。ほだごどいわれる前から口の中さ唾が湧いできたずぁ」
時代は進化した。アルミの脚立に梅干しが載せられる時代なんだなぁ。

「ああ、梨と蔵のどっちば撮ればいいんだぁ」
迷っている間にもぷっくり膨らんだ梨からはなんの助言もなく、
なしのつぶてだった。。

「こだんどぎおだぐだも大変だずねぇ」
ぶよぶよに膨らんだ袋は、その夏負けの体形から気持まで透けて見えるようだった。

熱々になったブロック塀にキキョウはしな垂れかかった。
「ほだんどごさおっかがったら火傷すんべな」
「すでに終わった身。何があろうともういいのです」
キキョウは鮮やかな紫が褪せてゆくのを怖いとも思わないのか。

♪手のひらを太陽に透かしてみればぁ♪
♪真っ黒に汚れたぁ、土と埃ぃ♪
軍手には真っ赤な血潮が流れていなくても、
その汚れはどんな物より美しい、てがぁ。

太陽に容赦という心はないのか。
ハスの花を見る前に、足取りは重くなり靴底がすでに熱くなっている。
「なんのために谷柏さ来たんだず、しっかりすろず」
「こだんどぎ外さ出るのが間違いだもな」
心の声は右往左往するけれど、確実にハスへ近づいている。

「気ぃつけで見でござっしゃい」
真っ白な芙蓉の花から囁かれ、幾分体はクールダウンしたようだ。
それにしてもこんな暑さで涼し気に振舞っている芙蓉の気持が分からない。

「ムクゲが咲いっだんだどりゃあ。暑い訳だぁ」
上から目線の火の見櫓から声が滑り降りてくる。
「あたしだが暑ぐしたのんねの。暑いがらあたしだが咲いだの」
そこんところを勘違いされては困るとムクゲはむくれる。

様々な道具たちに日差しが斜めに被さる午後。
一見人々の営みを感じられる穏やかな一コマ。
でも、酷暑の逃げ出したい場面になり果てた。
「みんな早ぐ風呂さ入ってさっぱりすっだいべげんとなぁ」

「早ぐ行げ、暑くてわがらねがら」
そんなことをいって急かしているような案内板。
書いてある字も矢印も、焦って急いで書かれたような名残が看板にある。

神社の裏手にハスは鎮座している。
いや、花開いていると聞いてやってきた。
ちゃんと神社には拝礼した。
きっと麗しいほどに綺麗な花が咲いていてくれるだろうと期待が高まる。

「ほっだいおかがてくんなず、重だいったらぁ」
盛りを過ぎた紫陽花は、疲れた体でドラム缶へのしかかる。

神社とハス畑の間に小さな水面が見え、
その上を滑るように雲がゆったりと流れてゆく。

甲箭(こうせん)神社の裏手に広がるハス。
寝坊助の私は午後遅くに来たもんだから、すっかり花は閉じていた。

「あの一片に私もなりたい」
何のことかと花びらに聞いてみた。
私もあの雲の中の一片になって、遠くへ飛んでいってみたいという叶わぬ夢だった。

「大空よ、私が受け止めてあげよう」
「なに、つかしておっきなごどゆてんのや?」
花びらは手を広げ、空となんらかの交信をしているのだろうか。

茹であがたみだいだどれはぁ」
ハスの下に広がる水面で、ザリガニは熱い風呂へ入ったようにのぼせてしまった。

「あの目はミャクミャクが?大阪万博のPRが?」
「ハスの実っだず。塩茹ですっどんまいんだどぅ」
「ハスの目が実になんのが?」
「最初から目なのんねず、実なんだず」
ハスの実に目を奪われている間に、
生まれたばかりのちっちゃな指先ほどのカマキリは微動だにしなかった。
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