[山形市]木の実町・桜町 公園通りに短冊吹き渡る(2024令和6年7月6日撮影)

ずらっと並んだアイスが秋波を送ってくるのに、すり抜けなければならない辛さ。
「ていうがよ、日陰もないどさ、上向いでよぐじっとしているいずね白い椅子よ」

「靴はどさあるんだぁ〜!」
チベットの雪男の足音が雪原からドスンドスンと響いてくるような形の足跡だ。
こんな力強い足跡を見せられたら、土も痛くて踏めないようなか弱い私は恥ずかしくなる。

「下駄ば履いだどぎあるんだが?」
「ほっだなものないっだベアーッ」
「ないごんたらダメだべしたぁ。売る側がぁ」
この際下駄をはいた熊を是非見てみたいものだ。

「さかさまに吊るさっでよう、滴の一滴も出ねずぁ」
花たちは暑さの中で嘆き合う。
「ほごはほれ、ビールっだずねぇ。逆さお姉さんたちよぅ」
そういう幟もやや色褪せている。

「三対一、ん〜ちと分が悪い」
三対のバス停に対しておじさん一人じゃ歯が立たない。
バス停たちはジリジリとしながら、おじさんの視線が上がるのを待ち構えている。

「なえだてたまげだぁ!細谷牛肉店がないじゃあ!」
正直いって買ったことはない。でも何回もこの位置から写真を撮って、
そのほれぼれとするアンティークな建築美に目が釘付けになっていた。

そのぽっかり空いた場所は更地になって、やがて片側二車線の通りになるのだろう。
赤信号へ同意を得ようと、まだ立ち退かない家は赤黒い壁面へ哀愁を漂わせイヤイヤをする。

栄町通りは今こんな状態。
ある意味生みの苦しみを味わっているということか。
「いやあの、この地面の凸凹は決して妊娠線だといっているわけではなくて・・・」
山形市を南北に貫く通りは体でいえば背骨のようなもの。
この通りが片側二車線の通りとして完全に出来上がれば、
山形市内の車の流れは大きく変わる。

「おらぁ、毎日こごで車の流れば見っだのっだず」
「いずのこめが左から右さしか車が走らねぐなたもなぁ」
「それは昭和のころに一方通行になたがらでして・・・」
新聞受けのガムテープは暑さで粘着力も根性もなくなっている。

「今日は休みだげんと、それでもオラだは日陰さも行がんねんだぁ」
「まずほいにやねでゆっくり休んでけろぉ」

「明日の山形はどだごどなるんだべね」
「明日の山形より、お昼何喰うがんね?」
「はえずぁんだな」
頼むから明日の山形を若者に背負ってほしい。(重だいべげんと)

「旧一小なの通りから丸見えだじゃあ」
「今は電線と山盛りの掘り返した土と資材どがで見苦しいげんと、将来は綺麗になるんだべね」
「見苦しいとはなんだ!オラだがいねごんたら山形は成り立たねんだぞ」
あらゆる方向から総スカンを食らい、這う這う(ほうほう)の体でこの場を逃げ出すことにした。

車たちがみんなギラリと光りを反射させてくるものだから、
眩しくて夾竹桃(キョウチクトウ)の反感を買う。

「赤いリボンくっ付いっだんだねぇ」
「はぁ?白いマスクはしったげんと赤いリボンはしてねよ」
上を見ていったら、下の人が答えた。

昭和風街並みが山形の中心部に残っている。
なんと七日町と駅前に挟まれているという最高の立地条件に。
そんな街の傍らに儚げな花が咲くのを終えようとしている。

ちょっと見は紫陽花かと思って再び振り返って見る。
「なえだて繊細な花だんねが?」
「お名前は?」
「源平シモツケ」
「はぁ?男の子だっけのが?」
「んね、源平シモツケていう名前は変えようもないの」
「ピンクの花弁は赤ちゃんか?」
「んね、ピンクほど年寄なの」
なんとも不思議な花が咲いている木の実町。

東京には空がないという。
山形には「空あり」が何か所もある。

「いつもと違って、すっごぐ歩きづらいんだげんと」
信号おじさんは戸惑いながらも短冊の隙間から青い体をしゃしゃりだす。
「あれ?ところで青い信号おじさんはほんてん地面ば歩いだごどあるんだが?」

「ほっだな当たり前っだずねぇ」
「路上禁煙なて今更な感じがすっげんと、たまにはほいな不埒な輩がいっからなぁ」
「こだんどごで一服なのしたら、笹から短冊さ燃え広がっじゃあ」

それにしても今日は蒸し暑い。
でも風が強くてそれを追い払ってくれる。
短冊もキラキラの飾りも、その風に翻弄されてくたくたになるまで舞い踊る。

同じ大気の中で三者三様の空気をまとう。
ある鳥はジーっと空を伺い、
ある親子は短冊の文字を見つめ、
商店の方は夏物バッグの選定だ。

「ないずねぇ、どさいったんだべ?」
「んだねぇ、どさ飾てけだんだべ?」
それぞれが短冊を探しながらも固く握る手は離れない。

一陣の風が公園通りを吹き渡る。
笹の葉は風にシャーッと悲鳴を上げ、短冊は風に錐もみ状態。
それでも一点を強い意志で見つめていたのは今やミスターモンテといってもおかしくない山田さんだった。

「なんだが同じ匂いがする」
赤いキラキラ輪っかがいう。
確かに赤い車が近づいてくる。
同系色というだけで同類じゃないかと思ってしまうことには頷くものがある。

「調子こいでこのぉ」
風に吹かれた振りをして短冊はバス停の顔をペロッと舐めた。
バス停は怒りながらもまんざらではない様子。

中央公園の像は噴水の飛沫にあきらかに戸惑っている。
肌に水滴が付く度に右腕を上げキャッと唇から小さく声が漏れている。

「おじさん遊ぼ」
「はぁ?今どっから聞こえだんだ?」
「おじさん遊ぶべてゆったんだず!」
「なんだがごしゃいっだみだいな声がどっからが聞こえるんだげんと」
いつまでも二人は通じ合えない。

「お前だ綺麗な青でいがったなぁ」
「んだず。こんで黒どが茶色だごんたら誰も愛でてけねべがらなぁ」
ガクアジサイも生きていくために様々な工夫をして咲いている。

真上から見たから今度は真横から。
「ゴマ塩みだいなツンツンがおもしゃいずね」
梅雨の季節にはあまりにも人々がカメラやスマホを向けるので紫陽花は辟易している。
もちろん私がゴマ塩とかいってもめんどくさそうに一言。
「なんぼ撮ったて、梅雨が開けだらきれいさっぱり忘れ去られるんだべど」
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