[山形市]西部工業団地 マジックアワーの工業団地(2024令和6年5月25日撮影)

日没も近づき、霞城セントラルのような高層ビルにだけ陽が当たる。
狐越え街道には既に闇が忍び込もうとしている。

沼木から須川を渡り、右手(北側)には西公園。左手(南側)には西部工業団地がある。
週末となり、一週間働いた充足感を胸に重機は疲れを癒すように長い鼻をグダーッと下げる。

怖い闇が迫るのを気にしているのか、
葉っぱたちはこごまって樹木にしがみつく。

「俺の姿はやっぱりかっこいいずねぇ。まんず堂々としてんま」
田植えの終わったばかりの水面に映る自分の姿を眺め、鉄塔は悦に入る。

鉄塔同士は見るからに細い線で結ばれている。
(近くで見れば太いのだろうが)
その細い絆が供給するものは、市民にとって太い信頼感を得ているはずだ。

西部工業団地内の走る幹線の両脇は田植えが終わった。
「みんな行儀いいぐ並んでっずねぇ」
水面を見下ろしながら並木たちはいう。
「おらだが行儀いいぐ並んでっから水面の並木も行儀いいのっだず」
並木は自分たちの整然とした生き様を誇らしく思っている。

日も暮れ、空に濃い青みが増してくる。
鉄塔や工場にも闇が這い上がってくる。

「暗ぐなてきたねはぁ」
「だんだんおらだが目立ってくる時間だべした」
「んだて皆仕事ば終えで帰っていったじゃあ」
「んだらおらだの明るさの意味はなんなのや?」
「しゃねっだなぁ。んでも何の意味もない灯りなてないのんねがよ」
電話ボックスと自販機は一晩中その意義を考えることになりそうだ。

山形に住んでいて、山形にこんな工業地帯のような建造物がドンと構えているなんて知らなかった。
這い上る闇を纏ながら、おらだがいっから山形が成り立っているんだという矜持を建物から感じる。

「山形はラーメン県だどが蕎麦んまいどが、果物王国だどがていうげんとよ」
間髪を入れず工場が声を上げ始めた。
「んだず、誰も山形ば工業県なていわねもねぇ」
「んでも物によっては意外と工業出荷額が多いのもあるんだじぇ」
山形を農業県としてアピールしたい県知事の方針は理解すっげんとも、それはあくまで観光客を狙ってのこと。
統計上の数値をきっちり確かめれば本当の山形県の姿が浮かび上がるはず。

工場はいいたいことが山積みだったようだ。
「山形県の産業ばみっど、出荷額は上位から情報通信機械・電子部品・デバイス、そして食料品なんだがらね」
闇夜に浮かぶ鉄骨は強い意志で工業の大切さを述べ立てる。

「タコだが?」
「ごしゃぐぞ!」
「んだてなんだが分がらねんだも」
「金属の強い意思ば現わしったんだず」
「んだっけのがぁ。頭さ鉢巻巻いでタコ踊りしったど思たっきゃぁ」
その面白さを表現したい気持と、それを理解する気持が人間には必要だとオブジェから教わった。

「お前はほごまでして人さ媚びば売っだいのが?」
暗い自販機がつまらなそうにいう。
「お前も明るぐ電気付けだらいいべした」
白く輝く自販機が反駁する。
「俺、目立つの嫌いだがら・・・んだがら目立ちたがり屋も嫌いよぅ」
お互い背を向けながら、仲直りの言葉をいつ発するか長い夜の時間を逡巡する。

週末の日没後とあって、辺りは静まり返り闇だけが跋扈する。
たまに通る車は闇から追われて逃げるように去っていく。

「こだい暗ぐなても立入禁止だなて律儀だずねぇ。やんだぐならねが?」
「なにゆてんの。闇に乗じて誰がが入ってくっかもすんねべず。例えばおだぐみだいな不審者がよぅ」
「はぁ?確かにどさ行っても俺は不審者扱いだげんとも、不審者イコール悪者んねがら」
「はえずぁんだげんとよ」立入禁止は譲歩する。
「どごの馬の骨だが、んね。どこの誰だが素性が分がらねていうだげで悪者扱いするこの社会がおがすいんだず」
ちょっと興奮してきたので深呼吸を六回繰り返し落ち着いてから、
工場地帯へのカスハラにならないようにその場を後にする。

いよいよ闇は山形を制圧し始めた。
それにつれて私もいよいよ闇夜を徘徊する不審者だ。
陽が暮れてからは急激に気温も下がり始めている。
そろそろ今日の撮影も終わらなければならない。
「どうれ何回もロケハンしたメインイベントの工場さレッツゴー」

「おお、田植えの終わったばかりの水面さ工場の全景が映りこんでだどれ」
この時期にしか絶対撮れない水田に映る工場に興奮する。
綺麗な花やペットやグルメや孫を撮ってはインスタにアップする人々のなんと愚かなことか。
その自己満足の写真を見せられて、義理の「いいね」をしなくちゃならない人々は疲れ果て辟易してるんだぞ。
「おらぁ、スマホがこの世に生まれるずーっと前から撮ってるんだがらね」(←これこそ自己満足の極地)
水田の真ん中で我田引水の自画自賛をする。

山形さもこいな光景があるなてしゃねっけべ?」
「はえずぁ四日市のコンビナートどなの比べだら桁違いの小ささなんだべげんとよぅ」
とにかく山形は自然豊かな果物王国というイメージだけが独り歩きするのを払拭したかった。
とはいえ、手前の田んぼは「はえぬき」か「艶姫」かも気になっている。
※5月27日夜11時過ぎに撮影

結局のところ、山形県は世界に誇るカシオのGショックも造っているし、
サクランボも日本一の生産量。
ただ農業県という偏見をみんなに持たないようにして欲しかっただけなんだ。
闇夜に浮かぶ工場は自信をもって屹立し、
それを見上げる山形米は、おいしくなるぞと誓っている。
※5月27日夜11時過ぎに撮影

5月25日(土)に撮った写真にどうしても納得がいかず、
再び27日(月)に仕事が終わってから西部工業団地へ出かけた。
ようやく撮り終え、背後を見れば無数の苗が工場の灯りに煌き、
夜空をたなびく雲が、「早ぐ帰れはぁ」と導いているようだった。
※5月27日夜11時過ぎに撮影
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