[山形市]薬師公園・五中界隈 植木市が終わって花満ちる(2024令和6年5月18日撮影)

「てっぺん目指すそぅ」
黄菖蒲は人差し指を空に突き立てるほど元気だ。

ギラギラの光りが渦巻く通りに、熱中症寸前の鎖がぶら下がる。

「フェンスさ熱くて触らんねぇ」
フェンスの隙間から顔を覗かせる花びらは、
人間の軟弱さをあざ笑うような顔をする。

「血糖値どが脂質どが気にならねが?」
「ほの言葉ばそのまんま返す」
タヌキはニヤッと笑い、その腹を波打たせる。

交通安全のために据え付けられたミラーは、
雑草にとっては自分たちのおがり具合を確認する鏡に過ぎない。

「見ろほれ。おらだど同じぐ立ださっでんのいだじぇ」
「ちょっとちょっかいだしてみっか」
「それにしてもおらだどそっくりだずねぇ」
イソップ寓話の犬の話を思い出す。

「ちぇっと落雪注意はないべぇ」
「んだず緑がこぼれっから注意ていうのがほんてんなんだべなぁ」

「この間、テレビ局で植木市ば生放送しったっけげんと、どの局もこの建物の前からだっけずねぇ」
「んだのよ。この建物は植木市のために緑に覆わっでる訳んねんだべげんとねぇ」
「絵的にいいんだっけがもすんねな」

その建物を道路を挟んでやや離れた位置から見てみる。
「やっぱり絵になるがもすんねなぁ」
「んだず。映画のロケ地に最高だべな」

五中に残ったのは巨木と門柱だけだった。
「ほだごどゆうなぁ、五中精神だげは残てるんだがらぁ」

これが山里の一角だったらなにも思わない。
なんと薬師町の大通りの十字路にこの姿が現存することに感動を覚える。
もちろん貴重な蔵だから、郵便ポストと白樫の木が護衛として守っている。

「どごでもツツジが満開だずねぇ」
「んだず。どごでもツツジ祭りなてしてっどれぇ」
この時期だけはうんざりするほど生える雑草よりもツツジのほうが映えて山盛りだ。

幅の広い片側二車線の通りを轟音の塊が飛んでいく。
五中のバス停は風圧に屈することなく凛と立つ。

厳しい日差しに辟易し、大通りから小路へ入り込む。
ふれあい公園という小さな公園で、触れ合っているのは木々と遊具だけ。
しかもぬめぬめしたラミネートの張り紙はたばこポイ捨てはダメっだずと辺りを見回している。

公園と人家の境にはブロック塀。
強烈な日差しはそのブロック塀を直撃し、
勢いよく滑って暗がりへ割って入ろうとする。

思いっきり真っ青な羽を羽ばたかせ目の前に現れた。
びっくりして思わず手で振り払おうとした。
改めてよく見直すと矢車草じゃないか。

「暑すぎで枯れっだのが?」
「ほだなごどよりよぅ、この枯草ば支えでいるおらほば支えでけろず」
確かに鉄柱のフェンスは青息吐息でふーふーいっている。

青ざめた瞬間。
「ポスターどが印刷物て、光りさ長ぐさらされっど色が褪(あ)せんのよねぇ」
「目の前で見だこっちは焦たじぇえ」

まだ書かれたばかりの商品名が季節を現わしている。
その張り紙を押さえつけているセロテープが右に左に踊っている。

町は様々なもので出来ており、その集合体で成り立っている。
しかも「お口の恋人ロッテ」はその街並みに彩を添える。
まさに昭和の奥地から、お口の恋人が蘇った。

内向きの性格なのか?
自分を眺めて悦に入っているナルシストなのか?
オダマキは何があっても指先を内側へ向けている。

「なんだて仲良しだずね。しかも可愛らしいし、こっちまで思わず微笑んでしまうべな」
「お名前はなんていうの?」
二人ははにかみながらウキツリボクとハモって答えた。

「イソギンチャクんねがら。テッセンだがら」
あんまり近づいて観察するものだから、
その意図を読み取ったテッセンは先手に出た。

フェンスの陰が地面に伸びている。
伸びているその先には猫が影の中に潜んでくつろいでいた。

五中界隈を巡り、再び薬師公園へ戻ってきた。
青々とした八つ手の葉と真っ赤な鳥居がお帰りといってくれたような気がする。
おそらく暑さのせいでそう思ったに相違ないけれど。

「ザリガニがぁ?」
「んねぇ、魚」
「魚てなにや?」
「・・・」
本人にも何が釣れるか分からないようだ。
それとも五月の陽気を体中で満喫したいだけなのかもしれない。

「若いころはいろんなどごさ行ぐだいっけずねぇ」
「おらだは行ぐに行がんねっけっだず」
「今はどさも行がねで、こさ二人でいんのが一番幸せだもなぁ」
背後で黄菖蒲が頷いている。

湖面を光の粒が滑っている。
黄菖蒲は、その光りをついばむ様に首を伸ばしている。

咲き終えた花弁は自分の終活法を知っている。
くるくると花弁を巻きながら縮んでゆき、人知れずポタっと地面へ還っていく。

あまりの光りの強烈さに、黄菖蒲はその舌をくるっと巻いた。
「なんだて巻き舌みだいだんねが?」
「巻き舌は舌のストレッチだがらて聞いだごどあっじぇ」
確かにボイストレーニングでは巻き舌が必須らしい。
しゃねげんと。
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