[山形市]前明石・富の中　風に立つ草花たち（2024令和6年3月30日撮影)

広がりを目いっぱい楽しむ様にイヌノフグリが咲き誇る。 「咲き誇るたって、わずか数ミリのちっちゃな花弁なんだげんともねぇ」

「ありゃ南イオンさ行ぐの真ん中さ小屋建ってだどれ」 「イオンさ行ぐの邪魔しったのが？」 「邪魔もすっだぐなっず。あだい周り中渋滞だものぉ」 中心街は渋滞という言葉を忘れてしまったかのように車はスイスイだ。

「なえだて立派なサインポールだごど」 青空に狙いをつけて、ドカンと今にも発射しそうだ。

「これが当たり前の前明石の光景だっけのっだなねぇ」 今、背後からは大挙してイオンに行こうとする車の排気音が背中を押し乗り越え、 春を迎える田畑を覆いつくす。

「風強くて髪の毛が乱れでしょうがないのよぅ」 一冬を乗り越えて枯れ果てたつる草でさえ髪型だけは気になるらしい。

光りのおこぼれをすくい取るように、 小さなイヌノフグリはおっきく花弁を開いている。

「ヌオーッ！おっきぐなり過ぎだがら食んねよぅ」 フキ味噌にしてご飯に掛けるとんまいんだこれが。

溜めていた雪が溶けて鏡のような水面をつくり、 そこには青空が映り雲が流れている。 壊れて取っ手のなくなったダンプは、 どうしたらいいか分からず無口になっている。

「今日は風強くて大変だま」 かっこいいバイクにまたがったおじさんはマスクを鼻の下に下げて犬川の土手を走り去る。

「元々よ、こごが長谷堂さ行ぐ街道だっけのっだな」 遠く瀬の原山は白く輝きながら山形を見下ろしている。

「随分早ぐおがたごどぉ」 「おまえも早ぐおがれなぁ」 大小の花弁たちはお互いを励まし合っているようだ。

ちょろちょろと流れ落ちて春の音を奏でているホース。 その音に聞き耳を立てながら光りを浴びて喜び合う、 土手のヒメオドリコソウやイヌノフグリたち。

「なえだてパンパンだどりゃあ」 「寒いど萎むんだげんと、この光りだも、そりゃあ身も心も膨らむっだず」 とはいえ、これが何かの農業用の道具なのかも分からない。

彩の消えて久しい山形にも、やっと色彩が戻ってきた。 冬の絵は黒と灰色と白い絵の具だけあれば描ける。 やっと赤い絵の具が使えるようになった春が来た。

漆喰は剝がれても春は来る。 枯れたように見える黒い老木にもピンクの花弁が付く。

「早ぐ遊びに行ぐだくてたまらねぇ。土の上も歩いでみっだいしぃ」 「お前が土の上ば歩ぐいのは散ったどぎなんだぁ」 はしゃぐ花弁を見つめながら、世の切なさをちょっとばかり感じてしまう。

「寝でばりいねで早ぐ起ぎろ」 進入禁止の看板が、倒れた看板へ辛く当たる。 「ほだごどゆたて風は強いし、おらだみだいに壁さくくりつけらっでいる訳んねがらぁ」 脚立は助け舟の言葉を発するけれど、自分で助けに行くことはできない。

「大股開いで気持ちよさそうだんねがい」 「形悪れくて置き去りにさっだんだぁ」 大根は向こうの杉木立から見つめられながらも、 恥ずかしげもなく足を開いて春を一人満喫する。

ベニちゃんがいっぱい。しかも皆バダバダてうるさい。 「ちぇっとちょどしてろ」 「ちょどしてろったて、風のせいで体がいうごど聞がねんだも」と微笑んでくる。

「空ばずーっと見でっどよぅ、自分がすーっと流れでいぐ気分になっずねぇ」 「んだっだ。それにしても天気いいくて気持ぢいいずねぇ」 「んでもこの風で黄砂も来ったったんねがよ」 「黄砂よりもおらだのホイルの錆のほうがずっとしんどいがら気にすんなぁ」

世の中エコバック全盛。 壁にはいくつもエコバックがぶら下がり、その彩を競っている。 そんな中でヤマザワのビニール袋は居心地が悪かろう。

「どさ行ぐの？走っどどだな気持ちなんだ？」 春に芽吹いた草たちは、バイクへ盛んに声をかける。 「あんまりうるさくて耳ふたがんなねどりゃあ」 バイクは呟きつつもエールを送られているような気分になってきた。

「おらだより先っぽさ出でんのは誰だぁ？」 サンシュユの黄色い花たちは不思議そうにくるくる巻きの枝を見つめる。

春とは立つことだ。 そう信じて疑わない梅の枝は、強風に打ち勝つべく青空に突き刺さる。

はしゃぎまわる土筆の子たち。 これだけ晴れりゃあその気持ちもわかる。 「んでも土筆はおがっどやっかいな雑草のスギナになんのっだなねぇ」 「んだらスギナになる前に茹でで食てしまうどいいのっだなぁ」

「こごは田植え前？んねな、セリの摘み取りが終わった跡だがもすんね」 前明石は冬の味覚セリの一大産地。 「堀米セリていう名でスーパーさ行ぐどいっぱい売ってだっけべぇ」

春になれば出てくるのが水仙とバイク。 「バイクも水仙も雪の期間は我慢しったっけべがらなぁ」 「んだらバイクていう名詞も春の季語なんだべがねえ？」

「最近ポイント、ポイントて、なんでもポイント付ぐがらて勧誘すっずねぇ」 「んだがらよぅ、なんでもポイントの時代だがらて当然パスワードが必要だべしたぁ。 んだどよ、何がどいずのポイントだが頭がこんがらがて分がらねぐなんのよねぇ」 確かにポイントが溢れる世界となって、IDやパスワードを忘れて困ることはしょっちゅうだ。 「赤い幟も、訳分がんねぐなてポールさたづいでこごらげっだどりゃあ」

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