[山形市]霞城公園 郷土館ナイトミュージアムに耽溺する(2023令和5年11月3日撮影)

県民広場という名の空地。
「米沢の伝国の杜みだいな造って人ば呼んだらいいべになぁ」
「なんにも出来ねのは、元あった県立中央病院の呪いだがもすんねずね」
夕日に照らされた桜並木の下で、ふと考える。

写真には映っていないけれど、プンプン虫が辺りにわんわん浮かんで舞っている。
プンプン虫は勝手につけた名前だけれど、本当はなんという?
春先に軒先にぶら下がるように舞っていたのは雪消し虫ていうっけなぁ。
「んだら雪待ち虫にしたらいいんねが?」

こんなに広がる赤い絨毯を踏みしめるなんて、そう滅多にできることじゃない。
しかもこの絨毯は踏めば踏むほど軽い乾いたカチャカチャという音をたてる。
鴬張りの廊下を歩くような高揚感と、まもなく雪かぁという寂寥感が交差する。

ベンチにたどり着いた落ち葉に、今日最後の光りが差し込んでいる。
明日もベンチの同じ位置に休んでいられるかの保証はまったくない。
風に身を任せた諦念と翳りが葉っぱたちの体を覆っている。

「なしてこだんどごさ自転車が居座っているんだ?」
「俺だて見でみっだいべず、国指定重要文化財だがらねぇ」
首を済生館へぐっと捻りながら、自転車は自分の意思を強く示す。

千日紅は既に翳りの中にある。
いまだに太陽の陽を受け止めているのは済生館のてっぺんだけだ。
千日紅は毎日あのてっぺんを眺めながら一日の終わりを見届ける。

「通り抜けでぎません!」
「お前はきつい言い方だずね、もっとやさしく言わんねの?」
「お前も禁煙!なてたった二文字でそっけなさすぎねが?」
落ち葉から突き出た看板はお互いを意識しながら、
お互いに心を許せるかもしれないと感じている。

もう何回も訪れてはいるけれど、再び見学コースの玄関に立つ。
「こごは国の重要文化財なんだずね?」
「重要文化財ったら品格も問われるし、威厳も大事なはずだよね」
確かに庶民に寄りすぎて、玄関はその辺の商店の入り口と変わらない雰囲気を醸す。

昔の人々にとって病院とはどんな存在だったのだろう?
きっと子供ならおっかなくて近づきたくない緊張する場所だったに違いない。
夕暮れの済生館内部も、心が波立つ様な緊張を強いる異空間だった。

何ともいえない三次元の極地のような空間。
どうしてもヒッチコックの映画が蘇る。
階上に立つ黒い影が階下を見下ろしている。
それに気づかぬ妙齢の女性がヒールを鳴らし上ってくる。
次の瞬間、ひえーっ!あてが。

窓の木枠はざらついて、人の指を寄せ付けない。
窓の外は急速に光りを失っていく。
わずかに空いた隙間からは冷気がこっそり忍び込んでくる。

「建物は外観も内観も撮影は大丈夫です」
「でも、展示品はご遠慮してけらっしゃい」
悩んだ末に真鍮の鍵を撮ってみた。
現代の鍵なのに、鈍い光りが歴史の雰囲気を盛り上げる。

光りが失われるに連れて、ドアの中からの灯りが際立ってくる。
やがて空は紺色に包まれて、灯りはより強く浮かび上がってくるのだろう。

「手摺もこだな塩梅だじゃあ」
「こんだ文翔館の前さ移築するったんねがよ」
「ほんどぎまでこのペンキのひび割れ具合ば時の流れとして楽しまんなねのっだな」

空は薄青から濃い青に変わりつつある。
済生館は直接声高には語ってこない。
その姿で幾星霜を語ってくるだけだ。

ドアの両側にくっついたドアノブは思う。
お互いが密やかに会話をすることはできるけれど、
お互いの顔を見たことがない。
いつの日か会いたいねと呟きながら夕闇をツルコッと照り返す。

最上階の灯りが柔らかい。
お城でいえば天守閣。
あそこからローレツ博士は暮れゆく明治の山形を眺めて何を思ったのだろうか。

「展示品は撮影してホームページさ上げでダメだったがらよ」
展示品とはいえベニバナならいがんべと、
ロビーの片隅で乾ききった花弁を収めてみる。

文翔館前の地方裁判所が移転すれば、そこへ済生館は移築されるという。
この威容と文翔館がセットになれば、きっと全国へ自慢できる空間になることだろう。
問題はもう一角を占める旧県民会館の跡地に市民会館ができること。
口を出すまでもないけれど、どうか文翔館や済生館と調和のとれた建物になるのを願う。

せっかくのライトアップだからと、
なんの芸もないが、とりあえず真正面からも撮っておく。
「なに?抹消面?済生館の威容ば見せるには真正面からも撮っておぐしかないべした」

「なえだて三脚がいうごど聞がねくてよ。んまぐ撮らんねんだ」
カメラのせいにせず、もちろん自分の技術のせいにもせず、三脚のせいにする手もあったか。

「あのおんちゃんの恰好ば見でっどおもしゃいずね」
カップルが背後でひそひそと喋っている。
その背後で思う。
自分もそんなふうに思われて撮影しているんだべなと。

「おんちゃん頑張れ。渾身の一枚ば撮るんだ!」
あまりに人を圧してくる済生館の重みに、
おっちゃんは押しつぶされずに踏ん張って撮っている。

街灯の灯りがバイクの影を伸ばしている。
伸びた影は落ち葉を密かに舐めてシャリシャリと味わっている。

県体育館の裏側に周って驚いた。
その巨大スクリーンと化した壁面へ、
街灯が樹木の呻きを見事に映し出している。

初冬の街並みに夜の帳が落ちてきた。
「ちょっと待って。いつもなら11月さ入たんだがら初冬だべげんと今年は違うべ」
夏が終わったばりだが、秋になたんだが、冬はいつ来るんだが分からね街並みに、
夜の帳が仕方なく降りてきた。

町のど真ん中にか弱い街灯しかない、暗闇の謳歌する霞城公園が広がる。
平城としては全国で五番目に広いらしい。
私が子供のころにはタヌキも生息していたというから、
小さな街の城跡としてはその広さは異様に広大だ。

街の真ん中だというのに真っ暗闇の土手を歩くのはかなり心細い。
霞城セントラルやその周辺に広がる灯りの中へ早く戻りたい
そんな小さな恐怖心を煽るように、真っ黒い樹木が悪意を持ってほくそ笑んでいるようだ。

ようやく東大手門へ戻ってくる。
山形駅前の灯りと列車の音が現実へ引き戻してくれたことにほっとする。
たとえ危険の文字が目の前に立ち塞がろうとも。

「どれ何が飲んで家さ帰っべやぁ」
闇に浮かんだ自販機の前を時たま人々が通り過ぎる。
ところでこの夏だか秋だか冬だか判然としない季節に、
みんなは暖かいの飲むんだが?冷たいの飲むんだが?
なんでも飲み込んでしまう寛大さも山形には必要だべ。(意味不明だげんと)
※今回の撮影は夜景が主なのに、三脚なしでオール手持ちで撮影しました。
一部ボケボケの画像もありますがご容赦願います。
こだい暗いのに手持ち撮影ではこれが限度なんだっす。
かといって三脚担ぐのは重だくてやんだのよっす。
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