[山形市]気仙沼さんま祭りin山形 煙も人々もなびく霞城の杜(2023令和5年10月8日撮影)

「火を放てぇ!」最上義光の檄に、さんま軍団から鬨の声が上がる。
「何さ火ば付けんのや?」
「さんまに決まてっべな」
青空にはすでにさんまの香りが縦横に広がっている。。

東大手門の石垣の陰に一叢の彼岸花。
日の光に選ばれた幾輪かだけが、その濃い赤を輝かせることができる。

緑色に淀んだ霞城のお濠。
そのうたた寝をするような動きの鈍い水面へ、刺激を与えようと彼岸花はチクチク突っつく。

太陽にも恵まれ、暑さも和らぎ、絶好のさんま日和となった。
盆地の真ん中に大漁旗が翻り、はじめはびっくりしたけれど、
この景色も市民に受け入れられ、恒例の行事となってきた。

「ほれ、あんたの良心が試されるっだべ」
財布の中で百円玉をまさぐっていた指が突然お札に触れ、
その指は躊躇いながらいつまでも財布の中を泳ぎ回る。

さんまの匂いが充満する霞城の杜。
その杜も、激暑を経ていくらか秋の色に変わりつつある。

「ヤマザワで見だら、ちっちゃなさんま一尾が二百円以上だっけ」
「んだのよ。その隣さ三倍もでかいニシンが安っすぐ売ってんのよねぇ」
だから霞城公園へ来てしまったというのは、時間と労力を考えれば正解か?

「大根おろしふだふだへっでけろな」
「ほだなちゃっこなスプーンでんねくてよぅ」
「他のお客さんもいるんだがらて、恥ずかしい事ゆてんなず」
大根おろし・カボス・醤油を渡す場所では、
そんな文句を言う客はいない。
んだて、大人しい山形市民だもの。

「お前は右の人から食われんのが」
「おれは左の人から食われるみだいだ」
お互いに反対方向を向き、お互いまた骨となって会おうと固い約束を交わす。

「むむっ、なんじゃこの旗は」
今日ばかりは目立ちたくても目立てない最上義光。

「かえずば失くしたら泣ぐはぁ」
「絶対離さんねっだな」
やがてチケットは旨そうなさんまとなり、骨と頭だけになり、満足感と変わっていく。

「どご向いであおいっだんだず。火弱いず」
「さんまと人のどっちが多いがど思てよぅ」
さんまは二千匹強、訪れた人は数え切れず。

「こちらへお進みくださ〜い」
「まだまだあるので焦らずにどうぞー」
よだれを垂らした市民たちは外見は大人しく、
腹の中はグーグーとなりながら黙々とさんまを求める。

「詰め放題なんだどぅ」
「あたし力ないがらなぁ」
そういいながら渾身の力を込めて若芽を詰め込む。
ビニール袋は悲鳴を上げるほど膨らみ、はばげる寸前。

テントには秋に目覚めた光りが柔らかく降り注ぐ。
まもなく色づくだろう葉っぱたちが、オレンジのテントに影を広げる。

このあとどうなるか見定めたい。
カメラマンは果たして撮影後に食べるのか、それとも主催者に返すのか。

優し気にはためく大漁旗。
すっかり柔らかくなった太陽の元でさんまを頬張る。
こんな幸せなひと時がこれからも毎年続いてほしい。

「どれ食たがら、あどあべはぁ」
「食ってすぐ帰るのも悲しいんねがい」
マツヨイグサは、秋の日をもっと楽しんでほしいと弱弱しく呼びかける。

「さんまだげんねんだどれぇ」
さんまだけで物足りない人用に、他にも様々なブースが食欲をそそってくる。

「あたしば撮ってだの?千日紅ば撮ってだの?どっち?」
トンボはポーズをとりながら聞いてくる。
「すっかり柔らかくなった秋の気雰囲気ば撮ってだの」
トンボは首を傾げ、不満げに飛び去った。

「千日紅の大群だどりゃあ!」
「わんわんて、これが蚊や蜂だごんたら、あわでで逃げでいがんなねなぁ」

タバコば吸う人のために、こだいでかいスペースが設けられている。
なえだて愛煙家には嬉しい配慮。
「んでも赤い灰皿がポツンと暇そうだずね」

「えっと、最後尾の人は何時何分に食いべがなぁ?」
「この位置ならあと二時間は待だんなねべな」
何時間待ってもただなら我慢できる。
でももちろん寄付も忘れずに。

「「最後尾」ていうのはその名の通り、最後の人は尾っぽしか食わんねていうごどだがらな。」
「農協帽子のおんちゃん、それはないべぇ」
「しゃねげんとよ。おれだてまだ食てねんだがら」

郷土館を抱えるように咲く彼岸花。
なにがあるんだべがと郷土館の入り口へ向かう二人には、
秋の日差しがふんわりとかぶさっている。

彼岸花もあっという間に終わりを迎えようとしている。
ピンと張っていた雄しべもくちゃくちゃに萎れて下を向く。
郷土館はまだまだここでドンと立つ?
「文翔館前さ移転するなていう噂も聞ぐがらよぅ」

胸にネジをしっかり握り、人形はピクリとも動かない。

少年は気持ちを込めてチャリンと缶に気持ちを入れた。
人形はおもむろにぎくしゃくと動き出し、少年と握手した。
お互いの気持ちが通じた一瞬。

「あたしなんぼしても勝だんねも」
じゃんけんに勝てない女の子はいつまでも石段を登れない。
上ではお母さんとお兄ちゃんが待っている。
おそらく少女の顔はべそをかいている。

博物館の前に大海牛のあばら骨。
その向こうにはさんまをあばら骨だけにしてしまおうと人々が押し寄せる。
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