[山形市]六椹八幡宮例大祭 神輿の熱が雨空へ(2023令和5年9月15日撮影)

最初の写真が公衆トイレとはいかがなものかと・・・。
「ほだごどゆたてよ、まずは垂っで気合い入れで撮影さんなねべ」
「しかもこの頃近いしよぅ、いざていうどぎむぐしたらどうすんの」
トイレは目をまん丸にして私を六椹八幡宮へ送り出す。

雲行きが怪しいなと思っていたら突然の驟雨。
かといって六椹八幡宮のお祭りが怯むことはない。

石畳は濡れながら祭りの様子を漫然とぬめぬめした路面に映し出している。

「いやぁ、いがっただべぇ」
「んだずねぇ、雨も恵みの雨っだずぅ」
お神酒を後ろに従えて、おじさんたちの会話は弾む。

「雨で濡れでるんだが、キンキンの水が入ってで結露しったんだが自分でもわがらねはぁ」
「ただの冷や汗んねがよ」

「雨降って大変だげんと、みんな足元に気ぃ付けでなぁ!」
子供神輿は雨の中を町へ繰り出した。

田楽のおいしさは言わずもがなだが、
「このルーレットさ、子供の頃はどれだげ投資したんだが」
盤面の擦り切れ具合が子供たちの興奮と落胆を如実に現わしている。

簾が灯りを和らげる。
雨が降っているからといって食欲がなくなるわけもなし。

果たして玉コンを渡したのが先か、お金を受け取ったのが先か。
これはビデオ判定に持ち込まなければならない微妙なタイミング。

社殿の脇にビニールを被せられた神輿がじっと佇んでいる。
「頭の上邪魔なのよねぇ」
鳥の飾りは頭のビニールに押されて首を下げてしまう。

「危ないず!ひころんだら怪我すっべな!」
雨の日の板ぱんこはとにかく滑る。
「ずんつぁん、ばんつぁんだごんたら骨折するんだはぁ」

雨が降ろうが槍が降ろうが、六椹八幡宮の例大祭は大盛況。
八日町という場所を考えると、やはり高校生は西高・日大・中央あたりが多いようだ。

雨宿りをしながら口に何か頬張り世間話をするのは人生の中の小さな出来事だけれど、
それが後になっていい思い出になる。

「夜遊びするいなてお祭りの時ぐらいしかないんだがら」
放射状に伸びたブランコの影を踏みながら子供たちは興奮気味に走り回る。

こんな雨降りに鉄棒などには誰も近づかない。
これ幸いと水滴たちは鉄棒にまとわりつき、
祭りの明かりを膨らんだ体内にため込んでいる。

「お前もほだんどごさいねで上がてきたらいいべ」
提灯は水面に映る提灯へ声をかける。
「俺が水面から出るいのは、あんたの灯りが消さっで片づけられるどぎなのよ」

蠟燭は疲れ果てていた。
それはその体を見れば誰でもわかる。
蕩けた体はぐんにゃりと垂れさがり、それでも灯りを消すまいと支えている。

さながら誘蛾灯。
八幡様のお祭りへ誘われるように、
長い影を引きずって人々はまだまだ集まってくる。

「あたしの皮の張り具合は凄く艶やかで美しいべ?」
「どご見でんの、こっちだず」
太鼓のささやきは祭りのざわめきの中では子供に届かない。

傘が水滴だらけになろうとも、
それを凌駕する祭り熱が八幡様には充満している。

「神輿が還ってきたぞぅ」
「こごは威勢よぐ太鼓で迎えらんなね」
緊張にバチを突き出す握りこぶしに力が入る。

さあ神輿のご帰還だぁ。
本殿の前には緊張と興奮が漲り、
その空気を打ち破るように太鼓の音が響き渡る。

神輿が還ってきた。
かといってすぐ本殿に戻れるわけじゃない。
神輿と本殿と神様の呼吸がピタッと合わなければ、
何度でも神輿はやり直しの行き返りを繰り返さなければならない。

神輿は本殿に突き進む。
マスコミさんがベストショットを狙っている。
「ていうがお祭りどがイベント撮っどぎて、
いっつもマスコミさんだげが当然の権利みだいして人の前で撮ってんのてどうなのや?」
「この頃撮り鉄がマナー悪れてよぐ批判されっげんと、マスコミの撮り方のマナーは問題ならねもね」
「んだっだな、マスコミは問題ば報道する側だもの、自分だの事はいわねっだな」
ぐずぐず愚痴をこぼしている間にベストショットを逃がしてしまった。

仁王立ちの男は言った。
「まだダメだ。もう一回!」
神輿は再び本殿近くから戻って来なければならなくなった。

何度も繰り返す神輿の行き来に担ぎ手たちは疲弊しながらもゾーンに入る。
それを見ている観客たちは、それ頑張れと拍手を絶え間なく送っている。

担ぎ手たちと観客の間には濛々と熱気が溢れ、雨空に立ち上っていく。
「そろそろ神様ばご帰還させでもいいのんねがい」
「神輿の中の神様はどう思ていっかしゃねげんとよ」
「神様て神輿の中で酔わねんだべがね?」
「余計なごど考えねでクライマックスばよっくど見でろ」

遂に神様は本殿へ還って来られた。
皆、雨に濡れた頭を平身低頭し、神主の声は朗々と境内に響き渡る。

ご神体が本殿に還られるところは、
誰も見てはいけない。すべてが白い幕で隠され、
神主は神輿の中から本殿へと、それこそダッシュするようにして足早にご神体を運ぶ。

何百年の歴史を誇る儀式は幕を閉じた。
世は令和。社殿の脇で子供がゲームをする姿は平和そのもの。

「なんぼ写りたいったて写す訳にいがねのよ」
「今はよ、個人情報どが肖像権どが面倒くさいごどばりだがら」
「顔写さねどいいんだべ?」
「んだらよ、後ろ向ぐがら撮ってけろぅ」

「誰がけっつ向げろてゆたのや!」
おもしゃい子供たちだなあと思いつつ、六小かと聞いてみる。
やっぱり後輩だ。しかも約60年も下の後輩だ。
「よし、校歌ば一緒に歌うべ」
♪千歳の緑、草の青~
10歳前後の小学生と60をとうにすぎた過ぎたおじさんが一緒に歌を歌えるなんて。
校歌の大合唱は年齢差を超えた。
そして祭りのさんざめきに混じって大合唱は雨空へ上っていった。

興奮状態を雨に流して駐車場へたどり着く。
ボンネットには欅の葉が一葉だけ乗り、
水滴が膨らんでは流れていった。
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