[山形市]山形大花火大会 花火の見える街並み(2023令和5年8月14日撮影)

西の空に傾いてきた太陽が、東の空の雲を照らしている。
その雲を眺めながらファミリーボールのデカピンは花火大会を心待ちにしている。

「なえだず、音もすねのになにが上がったどれ」
「「蛍舞え」ていう今年のテーマの文字が反転しったんだどれ」
「「えまるたほ」が?」
「それは下から読んだ場合だべな」
ファミリーボールの立体駐車は意外な花火鑑賞スポットだった。

ドローンアートが夜空にくっきり映える。
でも、あくまでも駅西の県民会館前広場の観客を前提にしているらしく、
霞城公園の北にあるファミリーボールからはすべての文字が反転して見える。
ちなみに反転文字「ATAGAMAY SNEZITIC」をグーグルで翻訳してみた。
なんと「通行不能」だど。
調子に乗って「SNEZITIC」を翻訳したら「くしゃみ症」だっけ。

「あ〜、ベニちゃ〜ん」
思わず声が出た。
ベニちゃんはドローンの集合体。
やがてぽろぽろと崩れて闇に紛れて消え去った。

「今日は観覧スポットば提供してもらてありがどさまなファミリーボールさん」
「んだら今から街のなかさ入り込んで撮ってくっからぁ」
この段階ではまだ体に元気は溜まっているが、
三脚・カメラ二台・ペットボトル・その他を担いでの撮影行は、
あの西の空の怪しげな雲行きにも似て、難行苦行になることを暗示している。

「坂本龍馬のまねしったのが?」
闇の中で風に向かい髪の毛をたなびかせている姿は坂本龍馬を思わせる。

暗闇の中でも花火以上に目を引くひまわり。
ただ残念ながら浴衣姿の若い子たちは目もくれず歩み去る。

北駅西口にたどり着いたけれど、早くて花火上がったどりゃあ。
「こだな調子じゃろぐなもの撮らんねべなはぁ」
「だいたい花火ずぁ、一か所さ三脚ばでーんて据えで撮るもんだべ」
そんな圧倒的な花火撮りたちの声に抗いながら、三脚担いで夜の街へ再び彷徨いだす。

闇を切っ先鋭い刃物で切り裂くように電車が滑っていく。
赤信号と車のテールランプは、付近の壁へ真っ赤な色を塗りたくる。

三脚位置を決める余裕もなく花火は上がる。
闇に浮かんだ雲は、小さな人間たちの愚かな行為をじっと眺めているようだ。

どちらも譲らない。
蔵の意匠と花火の華麗さのぶつかり合い。

左折禁止は蔓に雁字搦め。
花火を見ようにもそっちに首を向けることもできない。
つくづく歩ける人間がうらやましい。

「みごどだずねぇ」
「今年も見るいくていがったぁ」
椅子に座った人々の影さえも一緒に花火に見入っている。

花火の煙逃がしの時間帯には列車が現れ、
かろうじて間つなぎに徹して走り去る。

「ああ、いいよ撮ってけろぉ」
にこやかにおじさんがいう。
和やかな雰囲気と建物の味わいは、花火を撮ることも忘れさせた。
こんな家族や親戚知り合いの集まりのなんとも羨ましいことか。

「来年も見るいどいいねぇ」
「んだなぁ。しぇできてもらてありがどさまなぁ」
そんな会話があったかなかったか。
それでも人々が花火を見る姿にストーリーを想ってしまう。

北駅の渡り通路は高い位置にあり、
周りには高い建物もないとグーグルマップでチェック済みなのっだなねぇ。
思惑通りに霞城セントラルも花火も丸見えだ。

常日頃人々に見上げられている霞城セントラルが、
花火を見上げている。
花火の一輪一輪は、細い針を四方八方へ放つ。
その針は闇夜へスイっと突き刺さり消えていく。

また煙逃がしの時間か。
そう思った矢先、今度は左沢線の列車が山形駅へ向かい、
テールライトを伸ばして行った。

煙逃がしの間、北駅の通路から北側を眺めてみた。
電車は花火の上がる時間を想定して停まっていてくれるのだろうか?
「んだて花見のころは霞城公園の桜の前ばわざどゆっくり走てけっどれ」

花火大会も終わり、北山形駅前に疲れた足を向ける。
「なえだて小便小僧の池さパックマンがパクパク浮いっだどれ」
「まあ仕方なぐ強いていえば、水面の花火てゆてもいいがもすんねな」

「小便小僧はいったい何時まで垂っでんのや?」
「俺はこの頃近くてよぅ。どさ行ぐにもまずトイレば確認しておがんなねず」
小便小僧にはトイレの心配がない。
円形の大型水洗トイレに常に囲まれているんだから。

闇の中にカチャカチャ、トントントンとどこかの窓から音が漏れてくる。
台所の音は人に安息と郷愁と母親を思い起こさせる。

北山形駅東口からファミリーボールへ行くには、
薄暗くて妖気の漂うような奥羽本線のガード下をくぐらなければならない。
怯える人々にちょっかいをだそうと、コンクリのふづりからは蔓が伸びる。

「痴漢だぞう!」
鉄骨に絡まった夏草たちは両手を広げ、痴漢注意の看板をも包み込んで威嚇してくる。
「痴漢?俺は歩き過ぎでくたびっで体中が弛緩しったはぁ」

「公園だげは昔のまんまだずねぇ」
この辺りで仕事をしていたことがあり、辺りの光景が一変したことに驚きを隠せない。
「あの頃、しょっちゅう公園でいちゃついていた高校生のカップルも40代のおじさんとおばさんだべなはぁ」

「なにしたらいいが分がんね」
「灯りば消すだいげんとやり方わがんね」
「なしてこだな人も通らなね夜に道路脇さ明るい笑顔で立ってらんなねんだず」
自販機はじっと耐え、一人だげんねくていがったぁと内心想いながら、
一ミリも動かずに呼吸を潜めている。

ああ、やっと帰ってきた。
花火撮りに出かけるときは満車だったのに、今は自分の車だけポツンと待っている。
あんまり暇なのできっとボンネットに映ったボーリングのピンと親交していたに違いない。
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