◆[山辺町]根際・源長寺沼 盆地の際で花競う(2023令和5年5月27日撮影)

山形盆地の西端へ向かう途中「星降る道」を通った。
その道の途中、田んぼの真ん中に杉の大木がドーンと立っている。
周りにこの大木を遮るものはない。
その空へ広げた枝でいったいどれだけの降り注ぐ星を受け止めてきたのだろう。

「やまべ牛乳んねどれ」
「山辺町民はみんなやまべ牛乳で育ったのんねのが?」
「やまべ牛乳んねがら、鉄の棒さ刺していたぶったのんねがよ」
山辺町民はそんなに排他的じゃない。

ひなげしが風に揺れては、光がチカチカと花びらの隙間から目を射ってくる。

スマホの植物判定アプリで撮影して花の名を知る。
「ハラホロヒレハレだど」
「暑くて脳みそがいかれてるんだべな。ヒレハリソウていうんだず」

「どさ行っても花ばっかりだずねぇ」
「いいばんだべず」
「花の名前しゃねどイライラしてきてよぅ」
アヤメは背後で真っ白い雲のように浮いている。
ツボサンゴは赤い模様を大気の中へ散りばめている。

「づぐづぐて空ば挑発しったみだいに伸びでっずね」
今からはおらだの咲ぐ番だと言わんばかりに空を突くジギタリス。

みんな明るいところが好き。
デージーも我先にと屋根の先へ首伸ばす。

「なんだてレンズば挑発してくるんねが?」
「珍しいものが近づいできたがらなんだどもて覗いでみっだのっだな」
ルピナスはレンズへ興味を示し、くっつきそうなほどに近づいてくる。

「周りは花盛りだていうのになして憂いを含んだ目なんだ?」
「花は綺麗に咲いて散るげんと、あたしは綺麗に塗られてもひび割れていぐだげなんだもの」
「ほだごどない。頑張ってる姿ばみんなが見でっから」
容姿には触れず、なんのフォローもできない自分の言葉が歯がゆいばかり。

「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花てよぐいうずね」
「んだべ。んだがらあたしはきちんと立って太陽ばみっだのよ」
「ところが牡丹は座てっか?百合は歩いでっか?納得いがねのよねあたし」
どうやら芍薬はその意味を取り違えているらしい。

真っ青な空に映える西洋カンボク。
花びらは雪が降った後のように地面を覆う。
寄り添う消火栓には気に入った場所なのだろう。
ぴったりくっついてというか、めり込んで離れようともしない。

「SDGsだがなんだがしゃねげんとよ、遂に車の屋根でも植物ば育でるようになたがはぁ」
「排気ガスば多く出す車ほど、屋根さ一杯植物ば植えらんなねどいいのんねが?」

その車の屋根は凹んで、いつの間にか落ち葉や木くずが溜まり、
それで植物がちゃっかり生えてしまったようだ。
もっとちゃっかりしている人間はズックを乗せて干している。
車内ではフロントガラスに葉っぱが顔をペタッとくっつけてもがいているというのに。

根際は山形盆地西端の際にある集落。
坂道を登れば遠く雁戸山。そして山形市の街並みが青みがかって見える。

ひなげしたちは何故か壁にかかって真横になっている梯子が気にかかる。
梯子に付着した赤いペンキの跡が、
自分たちの仲間の残渣(ざんさ)と思って気に病んでいるのかも知れない。

まだ苗のない水田は鏡の様に凪ぎ竜山が遠慮気味に映り込む。
大空の雲は水面に映った自分たちをおおらかな気持ちで見下ろしている。

根際の里は左から右へ傾斜して下っている。
いやいやそれは北を見ながら考えること。
南を見ながらだと、右から左へ下っているように見える。
要するに西高東低。
「なんだが天気予報みだいだな」

さっき坂を上ったばかりなのに今度は白山神社へ行くために再度坂を上る。
拝礼し日陰の階段へ座り、携帯してきたペットボトルに口をつける。
目の前には穏やかに広がる山形盆地。
その向こうは奥羽の山並み。
山に囲まれている光景に、安心感が心の底から白い雲のように沸き上がる。

「金属は錆び付くものよ」
プラスチックのコップがいう。
「プラスチックは染みだらけになてボロボロなていぐのよ」
金属のコップがいう。
それでも離れたがらず、くっつき合う二つのコップ。

グワンと抉るようにガードレールがタイヤへ一突き。
タイヤは体にひび割れを作りながらも受け止める。
いやいや、タイヤは退屈してガードレールにぶら下がっているだけ。
ガードレールは錆び付きながらも重いタイヤを支えている。

「ハイ、右見て左見て薔薇見てぇ」
三面鏡みたいなミラーはそれぞれを見る。
消火栓は「なんじゃこりゃあ」と戸惑うばかり。

ちっちゃなちっちゃなザクロの実。
ぷっくり膨らむまでには、まだまだ世間に揉まれて経験を積まなくてはならない。

「なんだが背中が痒ぐなてくっずね」
「背中が痒いど思ったら、ほいずはこの花が入り込んでいっからだべな」
チクチク痒さを誘うこの花はシモツケというらしい。

「花ば愛でる暇あったら、おればなんとがしてケロォ」
自販機の脇で暑熱順化ができず、
体の中に熱を溜め込んだペットボトルが苦し気に顔を出す。

「開く前の姿はチョコレートのアポロみだいだずね」
このおじさんは何をいっているのかと首を傾げつつ、
カルミアは一輪だけがパッと開いて、その姿を見せつける。

「こだな場所で咲ぐのやんだべぇ?」
「おらだは咲く位置ば選ばんねのよぅ」
アヤメは消防のホース入れの前で、しおらしく咲いている。

「藪から棒になにや?びっくりさせなず。雨後の筍じゃあんまいし」
孟宗竹は戯言に見向きもせず、せっせと空に向かうだけ。

「んだがらよぅ」
「んだべぇ、ゆたどれ」
源長寺沼の畔で水面にゆらりと二人の会話が浮き沈み。

「何釣れるんだっす?」
「ほだななんでもよぅ」
おじさんたちは手作りのウキを見せあいながら、心ははやってウキウキしてる。

源長寺沼の脇にはきちんと整備された駐車場があり、
その縁には何故かサクランボが植えられている。
「まだまだ小指の先っぽみだいにちゃっこいんだぁ」
それでも実たちはすでに色で個性を放っている。
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