◆[山形市]お薬師祭・植木市 祭りは高校生の夜の社交場(2023令和5年5月9日撮影)

薬師堂のさんざめきを背中に受けて、市営グラウンドに明かりが灯る。

「ちぇっと待ってけろな。車がうがくてよぅ」
河川敷の駐車場から植木市へ行くには道路を渡らなければならない。
そこではやる気持ちを一旦落ち着ける。
「んだらいってらっしゃい楽しんでぇ」と警備員さん。

「物凄い植木市だずね。家ごど植木だどりゃあ」
緑に覆われた家の前にまた植木。

「なんだが植木市の店が減った気がすね?」
「んだずね空き地も目立つしなぁ」
太陽が西の空から消えて間もなく。
植木市の通りには大きなぼんぼりが灯り地面や人々を照らし、空き地には暗がりが淀んでいる。

「見ているだげでも楽しいよ」
「無理すんな。本当は欲しいんだべ?」
少年は帽子のつばを下げ、ただじいっと見入るだけで我慢する。

夕焼けが少しずつ青い闇に飲まれていく。
それと共に露店の灯りが際立ってくる。

「なんだずこの人ゴミは!」
「人ばゴミ呼ばわりすんなず」
「なんだが大半が高校生みだいだげんと」
「昼はずんつぁばんつぁの時間。夕方以降は学校帰りの高校生の時間なんだべ」

その色合いや灯りに高校生は目を奪われる。
心のタガが外れ、もはや買わずにはいられない。

「おまえは門番か?」
「門番なのんね。アンパンマンだ」
バナナは甘い装飾を施され、人々の目を引き付ける。

闇夜に浮かぶ狐面。
めんごいお面が並ぶ中、狐面だけはちょっと離れた位置から睨みを利かす。

「その持ち方は金管楽器の演奏みだいだずね」
横笛式と縦笛式の食べ方があるようだ。

「お姉ちゃん、頬っぺたさ櫛が刺さっどれはぁ」
頬っぺたの痛みよりも、ポテトの旨さが上回る瞬間。

「今日は無礼講だがらよ」
「先輩後輩もないってごどが?」
授業から解放された高校生たちは地面に座り、焼きそばを貪り食って憂さを晴らす。

闇はいよいよ空を覆い始めた。
微かに残った山際の夕焼けまで、そぞろ歩く人々の波が伸びているようだ。

定番のお化け屋敷。
定番とはいってもコロナで中断した期間もある。
定番とは普段通りにあるべきなんだなと、復活を安堵する。

光の当たらない石碑の周りには高校生が群がっている。
なに面白いわけでもない。
かといって面白くない訳でもない。
ただ、こうやって群がることに意味がある青春。

薬師堂に並ぶ列は引きも切らない。
こんな光景がこれからも毎年ずーっと続いてほしい。

ざわめき、足音、木々の葉擦れの音、匂い。
様々なものが入り混じって、お薬師様の夜はまだまだ続く。

簾から笑い声と食べ物の匂いと灯りがすり抜けてくる。
「俺も腹減ったなぁ。グゥ」

いつまでもそぞろ歩く人並み。
「不夜城が?」
「いや夜九時までだっす」
「ほだいきっぱりど辞めるいんだがよ」
この雰囲気の余韻を噛みしめる時間がちょっとは欲しい。

行列には慣れている日本人。
もちろんその人たちの影もみんな従順に並んでいる。

藤棚が闇夜に浮かび上がる。
と思ったら、その下にはやはり高校生。
最早薬師祭りは高校生で持っていると言っても過言ではない。

この後、でーんと地面に顔面をぶつけ、
泣き声が辺りに響いたのは言うまでもない。
「おまえ、すぐ近ぐでカメラたがてで助ける気もないっけのが?」
どこかで自分を責める声がした。

「なえだて今日は夜まで騒々しいねぇ」
夜のアヤメはその葉をピンと立て、騒々しさの中でも輪と咲く。

「そろそろ店じまいんねがずぁ」
「いづまでも口ば空さ向けで立ってんのくたびっだずぁ」
ダンボールたちは闇を口へ吸い込みながらしびれを切らす。

市営グラウンドの灯りが瞬いている。
ツツジの白さは一層浮き立つ。
その花びらの一枚一枚を風に乗った柔らかいざわめきがくるんでいる。

「くたびっで座っだいはぁ」
「座ったどれ」
「おら何十年とみんなのケッツば支えできたんだじぇ。なにその失礼な言葉」
確かに座面の板は皴皴だし、支える鉄棒も錆が目立つ。
もっと頑張れとも言いづらくなる。

「市営グラウンドではサッカーしったみだいだね」
ツツジたちは灯りの向こうが気になって仕方がない。
その灯りの手前を、植木市から帰る人、植木市へ向かう人が交差する。

「おもしゃいっけねぇ」
「おもしゃいっけ」
帰り道、河川敷の階段を登りながら、親子はギュッと握った手を離さない。

「しゃますするほど車が一杯だずねぇ」
帰る車もあるけれど、まだまだ車は押し寄せ、
灯りに照らされた車の影は河川敷にいつまでも伸びるばかり。

★ちぇっとんまぐないのんねが?と思ったこと。
植木市撮影の帰りに買い物をしようとヤマザワ宮町店に寄ろうとした。
今日は10倍ポイントも無い平日。
なのに満車で停めるところなどさっぱりない。
ヤマザワ宮町店の駐車場は、植木市の駐車場になってしまっているのだ。
山形人のモラルの低さが見えてがっかり。
停めた人へ告ぐ。帰りにはヤマザワでちゃんと買い物していげよ。
※あくまでも個人的感想です。
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