◆[山形市]市スポセン・きらスタ 暑熱順化が間に合わない(2023令和5年4月29日撮影)

「暑くてしゃますさんなね。まだ四月だじぇえ」
山形市スポーツセンターの時計塔は、
空を仰ぎながら心の内を吐露している。

「時計塔が何が呟いっだば」
「しゃますするだど」
「体が金属だがらねぇ」
タンポポは日陰で種を風に乗せながら涼しい顔。

陽光を受けながらハナミズキ輝く。
ん?ちょっと待て。まだ四月だげんと陽光てゆていいんだべがね?

パンパーンというテニスボールを弾く音が辺りに木霊する。
ツツジの雌しべは、その波動を敏感に感じている。

「こだい暑いどごでよぐすっずねぇ」
「あんたど年齢も気力も違うがらぁ」
若々しい若葉に言われ体があっという間に萎えてくる。

「こだんどぎ飲まずにいられっかず」
木陰に隠れて体へ大量に流し込み、大量の汗をかく。
「年とっど、この汗ばかぐのが出ぎねぐなて、体さ熱溜まて熱中症になんのっだなね」

「地面さ置がねでけろぉ」
「火傷すっからよぅ」
ボールたちの懇願は聞き入れられそうにない。

「泣ぐ子はいねがぁ!」
「僕が打ってけるぅ!」
とにかく何かを叫びながらバットを手に通路を走る。
だから子供の行動は想定外で分からないし面白い。

敢えて陽にあたりながら通路を避けて一緒に歩いてきた。
突き当りに来て四人は迷う。
その突き当りの先は自分で決断して将来へ進んでいかなければならない。
てがぁ。

「自転車だ、みなギラギラだねぇ」
「ただ待ってらんなねくて、その若さば何したらいいが分がらねんだべな」
キチンと帽子をかぶりマスクをしている親子は、
日焼け対策万全で自転車の脇を通り過ぎる。

強烈な日差しが降り注いでくる「きらスタ」のスタンド脇。
「ありゃ?照明鉄塔の右下根元付近さ蚊止まったんねが?」
「お父さんが子供ば高い高いしてけっだんだどれやぁ」
「あんまりちちゃこくて、蚊と人間の区別もつがねなて暑さのせいなんだべがなぁ」

ギラっと目を射るのは太陽だけではなく、真っ白な日傘もだった。

春の高校野球が始まった。
冬来たりなば春遠からず。
春来たりなば甲子園遠からず。

「密んねんだがなぁ、んでも密ていいずねぇ」
審判は青春の密を、自分の若い頃のことと重ね合わせやや離れて見詰めている。

力を込めて、本気で投げ込む姿は美しいし感動を呼ぶ。
大人になると何処かで手加減したり、本気になれない部分を持ったりするからねぇ。

熱で温まったグラウンドに、
メガホンで追い打ちをかけるように熱気を吹き込む。

負けじとメガホンを振り、喉の奥から若さを迸らせる。

父兄も付きっきりで応援。
いつのころからだろう?父兄の方が一生懸命みたいな姿になったのは。

陽光の元、ネットに括り付けられてはためく横断幕。
「鯉のぼりみだいだずねぇ」
「ネットさ縛らっで窮屈そうだげんとなぁ」
「大空さ飛んで行って完全燃焼してみっだいんだべなぁ」

風を孕んで横断幕が膨らむ。
食物をはらんでおじさんの腹も膨らむ。

「汗が止まらねはぁ」
首筋も真っ赤。
それでも高校野球は人々を引き付けて離さない。

「ほだいくっ付いで話したら、昨日の味噌ラーメンのニンニクが臭うべな」
「ほういうごどんねくてよ、くっ付いて話すいぐなたごどば喜ばんなねんだべず」
頭のタオル同士も太陽を浴びながら、久しぶりに白く輝いている。

「ちょっとちょっとぉ、人目もはばからずくっついでぇ」
メガホンは熱い言葉をその口から吐き出し合っている。

「水虫は何類だ?足さはマスクさんたていいんだが?」
水虫とコロナを同類に考えるほど、暑さで頭が朦朧としてきている。

「暑っぢい。こっちさ光ば反射すねでけね?」
「ほだごどゆたて俺は自分で動がんねものぉ」
ドラムの反射にメガホンたちは総ブーイング。

竜山の左側に白い筋のついた蔵王が見える。
「こりゃやんばいだ、いい試合すろよぅ」
麦わら帽子のおじさんは、何処へ座るか物色する。

試合の終わった選手たちはそれぞれの家へ帰っていく。
父兄は我が子へねぎらいの言葉を掛けようと歩を進める。
球場の周りにはホッと気の抜けたような空気が漂よっている。

球場の歓声を聞きながら、ハナミズキは咲いた喜びを満喫している。

「スケボーの文字の下さはなんて書がった?」
「どうせいいごどんねべぇ」
「ていうが俺自転車だがら、関係ないし」
「お笑いとスケボーは滑ってはいけません」くらいのユーモアある看板はないもんだがねぇ。

やる気をなくして倒れたのか、
おまえなんか倒れてしまえと誰かが押したのか?
スケート場の案内看板は足を虚空へ投げ出して倒れている。

「♪青春は密、花も蜜」
「んまいごどいうんねがい」
ハナミズキから微かに鼻歌が聞こえたような気がした。

急な暑さに暑熱順化ができずグッタリしてしまった体を引きずる。
どうれ帰るかと車に乗り、ふとミラーを見る。
ゴミ篭がシートで口をふさがれ、悲し気な姿をこちらへ向けている。
タンポポが慰めてくれるだろうと勝手に解釈し、
一瞬心に揺らぎが走ったけれどアクセルを踏んだ。
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