◆[山形市]霞城公園 花は散る散る艶やか満ちる(2023令和5年4月15日撮影)

「近頃の門番は髪の毛金髪なんだどれはぁ」
「しょうないっだべ時代だものよ」
「あ、ほれ、ほだごどゆてかっら横笛の舟行ってしまたどりゃあ」
シャッターチャンスを逃し呆然とするおじさんたち。

あんなに遠くからなのに、花筏の上を滑るように横笛の音が流れてくる。
失礼、スピーカの大音響が花びらを蹴散らして耳をつんざいてくる。

南氷洋の砕氷船の様に、
筏は花筏を切り裂いて霞城のお堀を北進してくる。

北進してきた筏は急旋回し、今度は北門方面へ西へ向かっていく。
「いったいどさ行ぐんだべ」
「どごがで一旦舟降りでお昼ばさんなねべ」
それが知りたくて、お堀端を追いかけることにした。

舟は水面の花びらを巻き込み、
撹拌してお堀の水に混ぜ込んでしまう。

二の丸北側には観光客はいない。
おかげで地元の人々が悠々と横笛を堪能し、
舟の人々もホッとしたのか、手を振ってくれたりする。

観光客用の横笛演奏も終え、気分はお昼。
横笛は地元の人用にお堅い雅楽みたいな音色から、軽快なルパン三世のテーマに変わった。

北門に着いた一行はホッと一息をつき、
おそらくこの後は午後の部に備えてお昼なのだろう。
トラックの荷台でポツネンと佇む箒がみんなの会話を聞いている。

「しぇがったねぇ、観客なのおらだしかいねみだいだっけどれやぁ」
「んだのよ。皆東大手門で鈴なりなて見でっからねぇ」
北門の前で山形弁の世間話に花が咲く。

張り紙はたばこの吸い過ぎか、ザラザラ声になり、
錆びたオロナミンCの崑ちゃんなんか、
いつの間にか眉毛も目玉も黒かった眼鏡の縁も白くなってしまった。

「はい、渡てけらっしゃい。今度からはヘルメット被ってな」
「花びらが頭さくっつがねようにが」
「ま、それもあっげんと」
花びらたちのくすくす笑いが聞こえてきそうな北門付近。

「あらぁ、なえだて懐かしいったら公衆電話だどれぇ」
「ほっちんねず。枝垂桜ば見でけろず」
電話ボックスはこちょぐったいような気分を押さえて桜の脇に立つ。

撮る人を撮る。被写体と撮る人二人の三角関係。
人間は面倒くさいなと思いながらも枝垂桜は口を閉ざす。

「あらららぁ、思わず後ろばついで行ぐっきゃあ」
「はえずぁんだべぇ、あの艶やかさだものぉ」
舞子さんが通った後には色香がほんのり漂っている。

「緊張するぅ」
「んねの。観客が見っだがらんねくて師匠が見詰めでいっから」

「ぎっつくて早ぐ着物なの脱ぐだいはぁ」
「こだんどごでやめでけろねぇ」
演奏が終わりホッとしたひと時を枝垂桜は覗いてみてる。

「早ぐまま食ぇはぁ、まだ午後の部が始まっから」
「どだな弁当だが楽しみだずねぇ」
でもみんなそんなはしたない声を発せず、手だけがダンボールの弁当へ伸びていく。

「早ぐ沸がねんだがねぇ」
「お客さんだが一杯待ってだじゃあ」
シュンシュンと薬缶たちは頑張って湯気を吐く。

「はいはい、舞子さんたちの登場だよぅ〜!」
拡声器からの案内がないので私が大声で言ってあげようか。

「ほごの兄ちゃん、後ろば舞子さんが通っていぐの気づがねんだべ」
「花より舞子だぞー」

「舞子さんば近ぐで見っだいげんと、石段ば降りらんねはぁ」
とにかく足をもつれさせて転ばないように。

散った花びらたちは皆隅っこに集まってくる。
そしてわが身の来し方を振り返る。

目は口程に物をいうけれど、
口元の紅は物もいわずに見るものの心を浮き立たせる。

視線の先にあるものは一片の花びらか。
足袋に穴が開いていないか気になるのか。

このうなじの紋様をなんと例えたらいいのだろう?
あんまりジーっと見詰めたら怒られそうだし。
でもやっぱり、まあるい襟に囲まれた白粉のラインは目を引き付ける。

町民や旅の者たちも一緒に記念撮影。
舞子さんの艶やかさはいつの時代も変わらない。

視線の先に駄々をこねる赤ちゃん。
目元は微かに緩んでしまいそうになり、
気を引き締めて平静を保つのが難しそう。

無謀なカメラマンたちに周囲を囲まれ、
あらゆる注文に答える舞子さん。
カメラマンに告ぐ。
「このずさまだ!勝手にポーズ取らせておもしゃぐもなんともない写真なの撮んな」
「何にもいわねで黙って舞子さんの自然な所作ば撮れ」

人々のふやけた行動を見るのも疲れたころ、
花びらはどんよりした大気の中から小粒の雨を感じ、プルンと震える。

漆黒の髪が流麗なラインを描く。
唇からホッと笑顔のため息が漏れて大気の中へ消えていく。
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