◆[山形市]熊野神社・四小・文翔館・旧県民会館 開花と解体(2023令和5年4月1日撮影)

県立図書館の屋根に乗っかるのは雁戸山。
雁戸山には雪があるのに、歩道を歩く人は日傘を差す陽気。

「なえだて勢いよぐ出っだんねがぁ」
「んだて春だものぉ」
熊野神社の手水舎から境内へ、水音が軽やかにこぼれ出る。

「ばっちゃんが池の鯉ば育でっだのがぁ」
エサを撒く度、肥えた鯉が寄ってきて水しぶきが上がる。
呼応した水面の光があちこちで煌めく。

鯉は奇異な目で水仙を眺める。
水仙もなんじゃこいつと疑わし気な目を向ける。
お互いに今年初めての対面だもの。

水仙は何を勘違いしたか、
水面の光の粒に触れようと首を伸ばしている。
その度、光の粒はスイスイと滑るように逃げ回る。

「あんまり太陽と仲良くし過ぎでよぅ」
看板は行き止まりとと言いたいのだろうが、
看板の文字がカパカパなて行き詰まり。

タイヤに挟まれてペットボトルが小さな体で訴える。
空だと軽く見られると思ったのか、ちゃんと体内に水を入れて、
軽くあしらわれないようにしているのがいじらしい。

「春なたんだじゃあ」
冬の殻に閉じこもっているのが心地いいのか、
うんともすんとも返事がない。

「おらも外さ出でみっだいぃ」
「外は暖かいんだがぁ?」
窓際の花たちが盛んに聞いてくる。
防犯連絡所の看板の後ろで、たばこの文字が後ずさりする。

街は冬の陰鬱さを取り払い、すっかり明るさを取り戻す。
一つ一つの壁や電柱や看板たちが喜び浮かれているようだ。

四小脇の地面から数センチの処に紫色のムスカリが連なる。
みんな上昇志向で俯いている者などいないじゃないか。

四小の入り口には粋な文言が貼ってある。
「止まって確認、咲き具合」
いやいや、残念ながら桜の意志は張り紙には反映されなかった。

「夏草も枯れて乾燥してっから、抜け出すなら今がチャンスだべな」
それでも自転車は逃げ出さずにじっとしている。
その勇気がないからか、この場所の居心地がいいからか。

鳥居の列を興味深げに見詰める水仙。
見るもの聞くものすべてに興味津々。

四小は山形の都会の真ん中にある。
その校庭の端に立つシンボルの銀杏の木が、青空へ枝を張る。

「タンポポんね?」
「んだがよ、どれぇ」
そんな会話が聞こえそうな四小の校舎前。

「この光景何だが違和感があっど思わね?」
「なんだが今までと違うていうが、何かが物足んねていうが・・・」
「あの子供の顔の看板か?」
「ほだなんねず。あるはずの場所さ無ぐなったどれ」
この位置からなら地方裁判所の向こうに県民会館が見えたはずなのに、
その位置には春風が漂っているだけだった。

「山形人は真面目だもなぁ」
「んだて今日から自転車に乗る人もヘルメット被らんなねんだじぇ」
山新ビル前をヘルメットの親子が春風を巻いてスイッと走り去る。

青空は綺麗だ。文翔館が見えて山形らしい。
でも心の中にはぽっかりと穴が開いた。
昭和を席巻した県民会館は更地となり、重機の雄たけびだけが響いている。

昭和生まれの山形県民でこの場所に思い出のない人はいないんじゃないか。
そう確信するほど、県民会館は県民に親しまれてきた。
未来のために、県民を失望させないために、また新たに県民に愛される施設が出来てほしい。

これでもかというほどにグッチャグチャに解体される県民会館。
もし重機を運転する人が県民なら、泣きながら操作しているに違いない。

「悲しくなるので見てはいけません」。
あ、んねっけ。「あぶないから、はいってはいけません」だっけ。
昭和に県民会館にお世話になった人々は、みんな読み違えるに決まっている。

ビルは青空を映しながら、文翔館も微かに映しながら、
じっと解体の様子を見守っている。

「うわぁ!昭和の思い出が溢れ出で埃と共に辺りへ舞い上がるぅ」
放水された水が高ぶった気持ちを宥めるように降りかかる。

「こだい早ぐ咲ぐなて、最近の桜はせかせかて待ってらんねぐなたんだが?」
時の過ぎるのが早く感じられる年になり、
それに覆いかぶさるように桜の花も早く咲く。

「なんだかんだゆてもよぅ、やっぱり青い空さ映えるずねぇ」
「桜だがら映えるんであって、俺の頭なの光るだけで映えもすね」
「映えもすねんねくて、生えもすねだべ」

何はなくともとりあえずスマホで撮りまくる。
これが今の日本中で北上中なのだから、
日本中のスマホの中には桜が牛ぎゅう詰めだろう。

「なして顔隠すのやぁ」
「んだてなんぼ笑顔になたて、桜には叶わねもの」
「はえずぁんだっだ」心の中で思わず呟いてしまった。
「いやいやほだごどないよぅ。桜よりめんごいよぅ」

マスクは取らずに桜撮る。

♪辛夷(こぶし)咲くあの街山形さ〜帰〜えろうかなぁ。
口ずさみながら、腹の鳴る音を押さえつつ帰路に就く。
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