◆[山形市]下条 雪溶けて春と去年が顔を出す(2023令和5年3月4日撮影)

早春の日差しの中でダンボールが飲み込まれていく。
分別は人間の義務。
春が来るのは自然の必然。

「なに、ほっだいびっくりしったのや?」
「こっだい空が青いなてしゃねがったものぉ」
冬に慣れた目には青空がまぶし過ぎる。

ビニールハウスを寒風がなぶっていく。
太陽が出ていても風は冷たい。
まだまだ枝もハウスの梁も身を縮こまらせている。

「空はいいずね、自由そうだものぉ」
ジョウロの顔には空の雲や青空が映りこんでいる。

「動ぐなよ、絶対動ぐなよ!」
鎌がその切っ先を動かしたら、ビニール袋から溢れ出ててしまう。

まだまだ街にも畑にも彩はない。
その枯れた色合いの中で、ネギたちは春を迎えるダンスをしているようだ。

「誰だエイリアンなてゆてんのは!」
大根は空に向かって葉を広げていたが、
冬の力に屈して放射状にクターっと力尽きた姿を晒している。

「加茂水族館のくらげんねがら」
「いやいやイカの足でもないず」
早春の畑には冬に痛めつけられた野菜と、
春に向けた希望が入り混じる。

「ほんてん下条て分がらねずね」
大通り沿いにはヨークやサイゼリヤが立地し、左沢線も通っている。
でも、ちょいと深入りすると、あっという間に畑地と農家。

「ぼだ雪がぞぐぞぐど降ってきたぁ!」
「分がてっくせに、ネコヤナギだどれやぁ」
あまりにも密にぎっしりと芽が連なり重なり合っている姿に圧倒される。

その一粒一粒がでん六豆より大きい。
春は勢いよく進んでいる。

「どごがおどがいだ?どごさこのげある?」
「ちょっと待ってけろ。おどがいてなんだ?このげてなんだ?」
「なんだずほごから説明さんなねのが。おどがいは顎でこのげは眉毛っだず」
一冬でメロっとなってしまった白菜は、お互いの顔を見比べながら何も言えなくなっている。

深い影の中から一輪一輪と顔を出す小さな花びら。
街中から少しずつ色彩が生まれだす。

白い壁の前にも色彩が浮き出ている。
早春は儚げだが芯は強い。

「おだぐフライングしたべ」
先に咲いてしまった花びらを横目に、
蕾三兄弟は空中へ弾けそうな勢いでぱんぱんに膨らんでいる。

柿の木は枝の置き場所に困り、
その影を塀にもたせかけている。

旧街道は忘れ去られたように静まり返っている。
たまに走り去る車は、乾いた春の空気をかき乱していく。

「専用集積所の文字が諦めっだどりゃあ」
冬の間に疲れてしまったのか、看板は逆さになってぶら下がる。

「じいちゃん、そっちは行き止まりだば」
「いいなだ。行ぐいどごまで行ぐのっだな」
砂利を踏む足音がゆっくりゆっくりと遠ざかる。

左沢線のガード下は一輪車の休憩場所。
斜めに差す日差しは45度。

街はあちこちで道路工事の真っ最中。
ふと見れば、左沢線の乗客がマスクをしている。
マスクは顔を隠し、やる気まで隠してしまった。
今年の春は何もかも隠さずに咲き誇って欲しい。

「真似すんなず」
「おまえこそ同じ格好で働くなず」
似たような軽トラの中で同じ格好でスコップを振るって並んでる。

「本当はオレンジ色でぱんぱんに膨らんでだんだっけじぇ」
背後の黄色と青の標識に挟まれて、烏瓜は今の姿に悲しそうに嘆いている。

「ほんてんここが山形市なんだが分がらねて疑う人がいっべがら証拠ば見せるっだな」
まだまだ青白い竜山が山形の街並みを見下ろしている。

アルミの脚立を隅に追いやって、
杭たちはこごまってトタンにくるまれている。
「寒い時は身ば寄せ合っていねど耐えらんねべがらねぇ」

「掘り返す気満々だんねがぁ?」
「早ぐ春ば見っだくてよぅ」
「焦らんたて春は確実に来るっだべ」

「そろそろ近づいでもいいんねの?」
バス停とベンチはお互いを伺うように離れている。
離れていることに慣れてしまったんだろうから、
その距離を近づけるには少し時間が必要かもしれない。

地面の色合い、樹木の影、乾燥したアスファルト。
綺麗でも何でもないけれど、この光景を見て山形人は春の足音を感じてしまう。

「ぼっろぼろだどりゃあ」
「んだぁ、保湿クリームなの塗ったて手遅れだぁ」
消火栓は車が風を巻き起こそうが、肌がボロボロになろうが、
春が来ると思えば耐えられる。

人待ち顔のバス停。
本来はバス停が人を待つんじゃなくて、
人がバス停で待つものなんだげんとな。
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