◆[山辺町]まんだらの里・作谷沢 スカイランタンに酔う夕べ(2023令和5年2月11日撮影)

「いやぁ、通行止めの道路があるなてしゃねっけし、しゃますしたぁ」
山辺町作谷沢の集落へようやく着いた頃には、青空に薄墨色が交じっていた。

「雪なの売るほどあるっだず」
「ほだな誰も買わね」
昨夜もかなり降ったし、山形市内とは比べるべくもない山の中。

「やっぱり腹ごしらえすねどランタンも見だかいないっだなねぇ」
なんでもまずは腹を満足させてから物事は始まる。

「おだぐもなんた?」
「車なもんで」
「んだらちぇっとだげが」
「いやいや車だがら」
私の後から来ていいちこの隣に座ったおじさんは地元の人だった。
ちびちびやりながら口も滑らかになり、様々な作谷沢の地元ネタを話をしてくれた。

しつらえられたステージでは淡々と偉い方々の挨拶や子供たちの発表などが続く。
その間にも闇は地面にゆっくりと落ちてくる。

ゆるりと炎がなびく。
「この風向きだどランタンは北西の方向さ飛ぶな」
そうかそこまで考えて炎を見るべきなんだな。

「気持ちいぃ、ちょー気持ちいぃ」
誰の足跡もない新雪にバタッと後ろ向きに倒れてみる醍醐味は、
雪国の人にしか分からない。

まだまだランタンは上がらない。
会場は踏み固められ、その表面には光の断片が敷き詰められている。

影の中心に集まった人々が世間話で時間をつぶす。
否、そこに人が集まったから影が放射状に伸びている。

「どんどん焼のないお祭りなて、クリープを入れないコーヒーみだいなもんだべした」
「そのコマーシャルば知ってる人は昭和世代っだべ」
人々の暮らしは昭和・平成・令和と劇的に変わった。
でも、どんどん焼文化だけは変わらない。

いよいよ篝火の炎が目立ってきた。
でも篝火は目立つ存在であってはならない。
篝火はその矛盾にいっつも悩んでいる。

人々が灯りの前を通り過ぎる度、
影同士が地面で交差する。

会場へ着いた時に人々は余りいなかった。
でも一番ランタンの見えそうな位置にはカメラの三脚がズラッと並んで場所取りをして立っていた。
同じアマチュアカメラマンとしてなんだか恥ずかしい。
ズラッと同じ位置に三脚が並んでいるということは、撮られる画像も似たり寄ったりだろう。
もっと創意工夫をして自分なりの個性を出した写真を撮ろうとは思わないのだろうか?
しかも一般客もランタンを良い位置で見たいということなど考えてもいない。
いっつもイベントやお祭りで不愉快になるのは、私と同じカメラマンたちの身勝手な行動。

「なえだてでっかな歯が生えっだごどぉ」
「んだら歯の脇さ座った人は、隙間さ挟まった食べかすが?」

演舞は続く。
いっちゃったような(失礼)舞に、炎も一体化していくようだ。

演舞や歌のクライマックスが近づいてきた。
その後には花火が上がり、そして本番のスカイランタン。
人々は演舞をジーっと見詰めながら寒さに足踏みする。

「熱いんだが寒いんだがわがんねぐなる」
長靴は火かき棒を持った人が履いている。
だから炎へ近づいたり離れたりする長靴は冷たい雪を踏みしめつつ炎の熱も感じてる。。

「焦るぅ。ドギドギしてきたはぁ」
「不整脈んねがよ」
「ランタン上げまで間もなぐだがらだず」
写真コンテスト狙いのおじさんたちは不整脈と興奮とで寿命が縮む思いで待っている。

「火事なのなたら大変だがらよ」
「カメラマンだは心の埋火が爆発しそうだじゃあ」
「んだが?おらしゃねっだなぁ」
焚火担当のおじさんはスコップ片手に煙と格闘する。

「おおっ!上がたどりゃあ!」
焚火の煙が浮力を無くし盆地の底へ溜まっている。
その煙った淀みの底辺から思いっきり花火が夜空へ打ちあがった。

ランタンを上げようと集まった人々も、
ランタン用チャッカマンを手に握りしめ、いっとき空を見上げて心を整える。

「カウントダウン始またじゃあ、どうする?どうする?」
「まず落ぢ着げ。どだなごど写ても、今はパソコンでどいにでも綺麗に補正でぎるんだがら」
確かにこの頃、映えを気にしてあり得ない色彩の鮮やかな写真が増えている。

ステージの演舞や歌は終わりに近づいた。
ほぼ大半の人々は既にランタン会場の方を向いている。
一部の人々だけが、ライトを背にステージを最後まで暖かく見守っている。

「足滑ってひころんでしまたはぁ」
カメラマンは転んでもただでは起きなかった。
「丁度ローアングルから撮っだいて思ったどごだっけのよ」

遂にランタンが夜空に放たれた。
カメラマンたちも我先にレンズの中へランタンを捕まえようとシャッターを切る。

篝火の遥か後方を、火の粉のようにランタンが北西の方向へ流されていく。

「しぇえ塩梅だなぁ」
「来ていがったねぇ」
「こいな非現実感もたまにはいいのっだずねぇ」
人は時に非現実を体感するから日常を頑張れる。

「ほれ早ぐすろ。他のさ遅れでしまうはぁ」
急かされながらもパッと手を離した瞬間、
ランタンは解き放たれた気持ちを溜め込んで大空へ向かっていった。

イベントも終わり、皆足元を見ながら駐車場へ向かう。
会場を照らすライトは誰に見られるでもなく黙って木の枝の隙間から夜空を照らしている。

「終わったなぁ、こりゃあ」
焚火に当たる手のひらは、充実した後の安堵感を湛えながら赤々と輝いている。
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