◆[山形市]稲荷角・諏訪神社・第二公園 寒波の居座り(2023令和5年1月28日撮影)

大沼で働き、十字屋で買い物をし、キャッスルに結婚式で呼ばれた。
嗚呼、思い出しか残らない。
しかも稲荷角という名称も十日町角という名称に、いつの間にか変わっている。

シャーベット状の茶色い雪が迫っている。
自転車たちはどん詰まりで逃げ場を失っている。

「なえだてふっくらした良いマフラーしったごどぉ」
「んでも頭は寒いのよぅ」
「あ、失礼。彫刻家で有名な新海竹太郎さんなんだっけどれぇ」
しかも十日町生まれ。

雲間から光が伸びてきて、ビルの壁面をギラギラと這いまわる。

「キョエちゃんが襲ってくんのが?」
襲って来るのを警戒するには空を見上げて歩かなければならない。
空を見上げて歩くのは涙がこぼれないようにする時だけじゃなかった。

鈍色(にびいろ)の空が割れ、光が顔を出す。
それでも街の冷気を降り解くほどの力は備えていない。

「揃って添い寝しったんだどりゃあ」
「地面は冷たくても暖かいっだなねぇ」

諏訪神社前のケヤキは大通りにはみ出してはいるけれど、
味気ない通りの中で、ちょっとした癒しの空間にもなっている。
「はみ出したのんね。後から道が広がってケヤキだげが残さっだんだぁ」

時折人々が訪れては拝礼していく。
若い子も来るということは進学の願い事も叶えてくれる神社なんだろうか?
モンテディオの必勝祈願が行われる神社なので、勝負事の神様だと思っていた。
「あ、試験も勝負っだべずねぇ」

「雪ダルマ造りがっす?」
「雪は息子ど仲良いぐなる格好のツールだまぁ」

お母さんは娘を雪ダルマにしてしまおうと、スコップで雪をすくう。
娘はなんで?という目であらぬ方を見ている。
でも娘さんがそれ以上に心配しているのは、不審なおじさんが突然カメラ片手に目の前へ現れたこと。

「首ばねっづぐ固めらんなねっだな」
「なして?」
「もげだら困っべぇ」
「もげだらおもしゃいだげだげんと」
お父さんは息子との絆をぎっつぐ固めるように上下の雪玉をくっつける。

「這い上がってきたどりゃあ」
「振り払う術がないものぉ」
「箒は振り払うのが仕事んねがよ」
「雪ば払うのは無理だぁ」

「口先ば伸ばしてなにがば伺がったのが?」
ネコヤナギの芽は雪綿の目となって雪を支えている。

「ただきます。ってタダで来るていうごどが?」
雪国の看板は、雪を被ってしまい本来の意味と違う言葉を発することがしょっちゅう。

「なんだて頭いいずねぇ」
「頭いいのんね、頭が寒いんだず」
雪を防ぐには何でも利用する蛇口。

「風でマフラーがほどげでしまたはぁ」
それは男の子にマフラーを巻いて欲しいという、女の子の遠回しの願い事。

「鼻水垂れっだどりゃあ、風邪なのひぐなよ」
鼻水は花水となったあとに氷柱に変わる。

「寒ぐないんだがよ、ほだな笑顔でぇ」
「寒いったて仲間と一緒に同じ方向ば見でっど、ほだなごど忘っでしまうのよぅ」

「寒すぎて口が回らないみたいだねっす」
男の子は看板をチラッと見て、
しょうがないといった顔で第二公園の脇を滑らないように気を付けて通り過ぎる。

寒さにもがいてこんなにネジくれてしまった。
そんなことはないだろうが、どうして素直に真っすぐ育たなかったのだろう。

滑らないように、でも急いで歩く。
第二公園のSLは歩くことすら忘れてしまったか。
「エコノミー症候群になっど悪れがら、たまには動いだほうがいいんだべげんとねぇ」

滑らないように雪の階段を登り、機関車の中へ入り込む。
圧倒的な存在感で迫ってくるのは、触れたら冷たすぎて指がくっついてしまいそうな金属群。

外は未だに零下のまんま。
窓際の扇風機は窓の外に背を向けて頑なに動かない。

トタンから鼻水が垂れる。
それも日中のわずかな時間。
夕方以降寒気はそれすらも許さず、滴の音をも凍らせてしまうのだろう。

「目ん玉突っついたろか」
雨樋の氷柱が威嚇してくる。
「おかないおかない。氷柱は真下から見っだらダメっだなねぇ」

「おお、氷の芸術だどれぇ」
「なにゆてんの、このおんちゃん。あたしだの事ばさっぱり心配してねべ」
閉じ込められた葉っぱは、なんぼ憤慨しても圧倒的な寒気になす術のもない。

夜に花開くイルミの花びらは、
だらんと垂れて時間が止まったようにピクリとも動かない。

雪を這い、藤棚へ昇りつめた太い幹。
誰に見られるでもなく、凍えながら垂れ下がるイルミを支えている。

「あっちもこっちも空き地になていぐずねぇ」
「空き地が出来だら、その後に出来る三大施設ってなんだが知ってだ?」
「ツルハ・マンション・駐車場」
「んだのよぅ。いづのこめが必ずほいになっずねぇ」

「マスクは外さんねぇ」
「んだて口元が暖かくて冬の必需品だべはぁ」
山形のような寒冷地ではウイルス防御よりも寒さ対策のマスク。
そういう山形は寒気という巨大なマスクに蓋をされている。

「バスなの次々来てよぅ。
待ってだお客さんだも次々と乗り口さ我先に集まって乗り込んでだっけ」
とにかく凄い賑わいていうが、人だかりだっけなぁ、昭和の頃のバスターミナルは。
「ちょっと待って、みんな並んでいねっけの?バスば待つどぎ」
あの頃の山形では並ぶという習慣はなかった。
バスの入り口が開けば、皆バッと集まりぎゅうぎゅうと乗り込んだ。
「バスに乗るときは並びましょうなてなたのは平成になてがらんねが?」
暗いターミナルに昔日の賑わいがダブって見えた。
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