◆[山形市]十日町・本町・Q1・市民会館 寒波の狭間(2023令和5年1月14日撮影)

寒気が居ぬ間に雪は大分溶け、その上へ薄く闇が被さってくる。

夕焼けの残りが水たまりに滞る。
水たまりもやがて闇に飲み込まれる。

「入んなよ、絶対入んなよ」
なにをそんなに拒絶してるのか分からない。
なにか嫌な事でもあったのだろうか。

前にもこの場を撮ったけれど、
あれから何にも動いていない。
動いているのは季節だけ。

ショーウインドウがパッと目立ち始め、白壁が薄墨色に沈んでいく宵。
黒い影が時たま通り過ぎるゆったりした時間。

「今はスマホの地図があっから道に迷うごどはあんまりないのんねが?」
「んでも、スマホのグルメサイトがあっからかえって何食たらいいが迷うんだべが?」

赤い袋がスススッと通り過ぎる。
謹厳実直そうな醫院はじいっと闇から通りを眺めている。

「町さ行ぐなて久しぶりだずねぇ」
「久しぶりだがらねぇ」
町とは七日町。
山形市で町といえば七日町の事だった。

視線を下ろすと夕暮れのテールランプの流れを睨んでいるのはミーだった。

壁の奥の空は濃紺に染まってきた。
壁に当たるライトが虚しく伝い這う。

「紫は高くて買わんねっけぇ」
高校時代に絵の具を買いに何度出かけた事だろう。
油絵の絵の具は色によって値段が全然違う。
「彩画堂ありがどさま。あ、移転しただげなんだっけなぁ」

「バァ〜!」
狸は物陰に隠れて、人が通った時に突然目の前に現れびっくりさせていた。
ある日狸は罰として店の隅に追いやられ、棚に括り付けられてしまったそうだ。
しゃねげんと。

伸びやかに空へ伸びるとかなんとかいう事を表現したモニュメントなんだろう。
その滑らかで冷たそうな肌をぬめッと流れていくのは青や赤の信号の光や車のテールランプたち。

「このごろ真っ暗いどごで蝋燭の明かり一本で本ば読む必要もなぐなたまぁ」
旧一小がQ1となり、辺りは俄然明るくなった。
二宮金次郎さんの目の負担もだいぶ減ったことだろう。

「毎日お祭りみだいだずねぇ」
「はえずぁおまえの頭の中身だべぇ」
両脇に立つ自転車は主を待つ間に世間話で寒さを紛らわせる。

「夜のQ1もいいがもすんねね」
「んだて光が当たって、建物の輪郭が物凄くくっきりして見えっじぇ」
正門は北側を向いていて太陽を背後にするから常に建物の立体感が分からない。
こんなにくっきりとした立体感を味わえるのは夜だけかもしれないな。

夜に飛び立ったジェット機が、
徐々に空高く登っていくのをイメージしたに違いないイルミ。

ある時は赤く、そして青く、いつの間にか白く、Qのモニュメントの色が変わっていく。

お祭り気分の灯りたちは、雪解けの水たまりにも助けを得て、
益々その灯りを増していく。

「誰の尻尾が一番長い?」
「ドングリの背比べだべぇ」
「おらだはドングリなのんね」
灯りの影の伸び方を比べ合う、退屈な自転車たち。

「なえだてたまげだなぁ、凄い五線譜の音符だぁ!」
「五線譜なのんねし、音符でもない!」
とにかくやかましいムクドリたち。
Q1の上品な雰囲気にギャーギャーとクレームを付けているようだ。

車たちはQ1の灯りで煌めいている。
フロントガラスにその建物を張り付かせたまま。

「ん?なんだが焦げ臭いんだげんと?」
Q1の上に闇夜が広がり、その中を白い煙が悠々と立ち上っていく。
「風呂でも焚いっだんだべな、近ぐの煙突から煙が出っだもの」

一昔前ならベンチさなの座らんないくらいバス待ちの客がいだっけずね」
灯りはベンチを照らし、周りを闇がゆっくりと包んでくる。

「市民会館も無ぐなるんだどはぁ」
「どさ行ぐの?」
「旧県民会館の後釜ったんねがよ」
「あたしだはどうなるんだべ?」
三姉妹は建物よりも自分たちの処遇が気になる。

「元々附属小と附属中が移転して、ほごさ保健所と市民会館が出来たんだべした」
「んだら市民会館が移転したら、今度も市民のために利用さんなねっだずねぇ」
「今、中心部さ住んでいる人は、皆郊外のスーパーさ車で買い物だどぉ」
「んだら決まり。スーパーば造るしかないべした」
駅前と七日町の間に挟まれ、立地条件は満点。
しかも市民会館と保健所の敷地は広い。

「公務員みだいだずねぇ。表現が堅苦しくてわがらね」
「ウイットもユーモアの一つもないがらよぅ」
「しかも、皆ダメダメて否定するものばりだどれ」
確かに責任逃れのための画一的な文言ばかり。
「段差があります。何センチだと思いますか?」
「市民会館ではスケートボードの演技の評価はしておりません」
「この水は液体です。寒いと個体になって出てきません」
「やっぱり堅苦しく表現するしかないがしたぁ」

栄町通りは南進一方通行。
七日町方面からヘッドライトが押し寄せ、
ガードレールに放射状の影を何度も造らせる。

細道の奥を望めば霞城セントラルが小さく見える。
闇は霧雨に濡れた路面を益々黒く塗り込める。

人々に週末が訪れる。
人々にはそれぞれの暮らしがある。
週末の夕方には皆何を考え、どんな夜を迎えるのだろうか。

山形市の街の真ん中で三の丸跡地の杜が、夜の迫った空よりも濃く黒い枝で空を凌駕する。
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