◆[山形市]船町 秋去り冬の虎視眈々(2022令和4年11月19日撮影)

人の背丈ほどもない紅葉。
体も細くてか弱い紅葉。
船町集会所の紅葉はその小さな体で光を受け止め、大きく飛翔するように広がった。

傍らでは苔むした石ころが光っているじゃないか。
顔を近づけよくよく見れば、ぴょんぴょん突き出た妖精たちが歓喜の光の舞に酔いしれている。

「あどは雪降んのば待づだげっだなぁ」
綺麗に散髪の済んだ子供が正月を待つように。

異質だからこそ目につく。
「ま、船町は港町だがら進取の気風があんのっだべ」
「まさがバンクシーの絵んねべな」

正調田舎の風景。
「こいな光景は街中では絶対見らんねもなぁ」
思わず目を細め、小春日和の中深呼吸してみる。
「肥溜めの臭いすねが?」

干し柿に軽トラ。
「軽トラが綺麗すぎだべ。もっと泥なの付いでっどいいんだげんと」
「勝手に田舎ば定義づげんなず」
「んでも七日町さは絶対ない光景だべ」

構図の中に収まらないと見るや、
柿木はクキッと折れ曲がって写真内に収まってくれた。
「ほだなごどあるが?」
「ほごまで柿の木はお人好しんねがしたぁ」

晩秋の空を舞い降りた紅葉の葉っぱたち。
寒風の中に細い筋のような枝だけが残され震えている。

まだ舟運が交通のメインだったころ、船町は山形市の表玄関だった。
「んだがらこだい豪壮な建物があんのが?」
「しゃねげんと」
にわか知識じゃ船町の栄華を簡単に語れない。

「上物だじぇえ、透き通るみだいにキラキラ光ったもの」
「なえだて筋子みだいな表現だずね」

「いづバス来るんだよ?」
「13時45分だどれ」
「平日んねくて土曜日ば見っだがよ」
葉っぱ指先になって時刻表を指している。

須川の土手に上がってみた。
今まで気づかなかった寒風が体に吹き付けてくる。
足元には一心不乱に描かれたらしいチョークの落書き。
「この辺の子供だは、黒板なのないったて土手がキャンバスなんだなぁ」

須川の河川敷はススキの独壇場。
各々が好き勝手な方を向いて声を掛け合い、
いつ雪が降るのかとの噂があちこちで立ち登る。

日向では陽気に、日陰では陰気に、
性格をころころ変えるススキの穂。

ススキは遂に太陽の光を捕らえた。
それ光を離すまいと、穂はクルクルに丸まって抱きかかえるように包み込む。

穏やかな表情に隠された冬の兆しを感じ取れることはできるか?
須川の土手でボーッとしていると、スーッと競技用自転車が走り去る。

傾き始めた日差しは、トタンの表面を柔らかく撫でている。
その肌触りを感じながらトタンは反り返る。

あの山並みの形を見れば、ここが明らかに山形盆地だときづくだろう。
はるか遠くには県庁の白い建物さえが見えている。

須川に零れ落ちた光の中をカモがスイスイ泳いでいる。
テトラポットは無骨な体をオレンジ色に輝かせている。

もうちょっとでこの辺は真っ白になるのだろう。
そう思ってみると、この光景を目に焼き付けずにはいられない。
「今年はながなが降らねったよ」
「余計なごどいうなず、感傷に耽ったんだがら」

土手の淵から色褪せてゆくへばりついた草たち。
傾き始めた光に呼応して乾いた枯草色はオレンジ色に、
そして濃い朱色に変わり、やがて闇に沈んでいく。

「なんだて枝が多過ぎねが?」
「夏の間に蔓が絡みついだのんねがよ」
ポツポツと残った柿の実たちを尻目に、
枝に絡みついた蔓たちは柿の枝に同化する。

まるで自然に同化してしまったような民家。
その壁面を晩秋の影がゆっくりと滑っていく。

「薪だがっす?」
「んだぁ、おらいでは薪ストーブだがらて」
「あったかいべしたねぇ?」
「はえっずあんだっだな、石油ストーブど全然ちがうっだべ」
日差しは帽子の鍔や地面にまだまだ残っている。

小屋の角っこにスマホがぶら下がるのは現代的。
「薪なの来年分まであるんだはぁ」
奥さんは手の動きを止めずに話の相手をしてくれる。

いよいよ太陽は地球の影に吸い込まれる。
空は絹を刷いたような滑らかさを一面に拡げている。

地図で見ると道がカクッと直角に曲がる場所。
この場所にレトロな建物が残っているということは、この辺が船町の中心街だったのだろう。

なにかの視線を感じた。
ふと脇を見ると窓際から柿がジーっとこちらを見ている。
ガラスには夕方の電柱が映り込み、その奥に干し柿が鬱屈して垂れている。

「おらだ玉ねぎはこっだい膨らんだじゃあ」
「おらだも負けでいね。膨らみんねくて質で勝負だぁ」
玉ねぎとクルミのくだらない勝負に、大根はつまらなそうに萎れている。

日中に見た散髪を終えた枝たちは、
暮れ行く空に突き刺さり、なにかを訴えているようだ。

児童公園には落ち葉が敷き詰められ、
光が落ち葉一枚一枚の輪郭をなぞっている。

今日最後の光が今年最後の紅葉を照らしている。
光を受けた紅葉は夕陽へ感謝を込めて最後の力で四肢の先まで発光してみせる。
TOP