◆[山形市]Q1・木の実町・本町 旧一小の残り香(2022令和4年10月15日撮影)

「大沼本館は閉店したげんとよ、この辺さ大沼別館てないっけがず」
道路拡張につき、本館と共に別館も去りぬ。

「早ぐ日陰さあべ」
「今日は少し暑いま」
日陰で道路のひび割れは際立ち、
人の影も伸びる。

「昭和の頃、スロープ階段みだいなおもちゃあっけずね。」
「玉ころば転がしながら、上の段から玉ころば下まで転がすやづが?」
「この道路のヘンテコな形ば見で思い出したのよぅ」
「んだら玉ころはあの車っだな」

立体駐車場の壁面には鉄骨が組まれている。
太陽はその鉄骨に斜線を描き、単調な柄に変化を与えている。

「おらだより早ぐ赤ぐなたどりゃあ」
壁の蔦は横たわった赤白のコーンバーを見下ろして、
早ぐ赤くならないと季節に遅れると焦っている。

「働きすぎんねが?」
「あど使い物にならねて捨てらっだぁ」
雪と戦ったダンプへの仕打ちがこれか。

フロントガラスに青空が広がるころ、
洗濯物が背後で翻る。

山形市内の至る所が令和に向けて変化を遂げているとき、
木の実町の裏通りでは、ハナトラノオがのんびりと道端に咲く。

「ユトリロの絵のような白い壁の味のある店舗の背後は一小が?」
「んね。いまではQ1ていうんだはぁ」

サンザシの実は赤さを極める。
私は東北大を目指す振りをして、
その脇道からQ1という、古くて新しい旧一小を目指す。

「釘差すのは、何がば口止めでもさせっどぎんねがよ?」
釘は黙して語らず、なんのために刺さっているのかを思い出せないほど錆びている。

「もう間に合わねべな、秋なたもはぁ」
ネットに這う蔓は毎年空を目指すが、届いたためしがない。

「ほだな格好だどスマホっ首なっからな」
「んだて夏は終わたしはぁ」
ヒマワリは頭をがっくりと垂れ、ただじっと足元を見つめている。

黄花コスモスの花びらは優雅な曲線を描いて、
秋を我が世の春と堪能している。

「ほっだな壁際で何背負らせらっでだのや?」
「傘三本、雪掻き一本、スコップ一本、バケツ一個」
「ほだいたががさっで重だぐないがや?」
「はぐっだパイロンが支えでけっから大丈夫なんだぁ」
何をされても、友達がいれば耐えられる。

Q1(旧一小)の敷地はお祭り騒ぎ。
いや、騒いでいる人はいないが、色彩はお祭りムード。

「青い空広がっていがったねぇ」
地味な色の堅物っぽい頑固そうな建物だけに、
三角旗や青い空が盛り上げないと色彩に乏しく、「おもしゃぐない」といわれてしまう。

「昔々あっけどぅ」
「はぁ?」
「昭和の初めに一小が会場で全国博覧会ていうのがあるんだっけど」
「俺も母親から聞いだ話だがらよっく分がらねげんとよ」
「ほれだげ立派な建物だっけのっだなね」
そのままの形で令和に蘇える威容。

「この学校ではこだい良い机で、しかも外で勉強すんのが?」
「んだがらよぅ、Q1てなたんだず」
「Q1て学校んねのよ」
「お化けの?」
「Q太郎」
「んねず、Q一郎。あれ?」

「なんだが懐がすいいぼこだぁ」
「このでっぱりて、俺の母校六小さもあっけ気がするんだず」
「六小自慢で悪れげんと、六小さはスロープ階段があっけがらね」
同じ山形で異母校対決が。

令和の化粧を施したQ1には、三々五々人々が訪れる。
電球は黙って静かに見下ろしている。

木の実町・本町界隈もなにやら令和の変化に飲み込まれている。
街並みに変化が生じている中、昔のまんまに令和の色を加えたのがQ1。
そのシンボル「Q」の形に人が寄る。

Qの影からVサイン。
「Qの前さいだんだがら、Qサインさんなねべした」
誰か簡単に出来るQサインを考えてくれないだろうか?

Q1広場がリラックスできる空間になったのは理解できる。
でもなしてQ1の建物が南側から太陽を遮っているのに日差しが差し込むんだ?
道路を挟んだ向こうのビルの窓や壁に太陽が強くぶつかり、
その跳ね返された光がQ1広場に注いでいるらしい。

これはヒッチコックの恐怖に満ちた映画の一場面だ。
そういわれて信じてしまう雰囲気のある空間。

「おらだはわざどつるこっとならねで、ザラザラの雰囲気でいるんだじぇ」
壁はバケツを見下ろして見下すようにいう。
「バケツがザラザラだったら使い辛くてしょうがないべした」
壁に向かってバケツは大口からつるこっと反駁の言葉を吐いた。

午後の廊下に鋭角的な光の矩形が伸びてくる。
その光の切っ先は足元にまで届こうとする。

「帰たらまだ晩御飯は芋煮がぁ」
「んだだっだべ。それ以外なにあるや」
「芋煮は好ぎだがら毎日でもいいげんとよぅ」
歯に何か挟まったような言い方のお父さん。
気づきつつも知らんぷりのお母さん。

建物は全景をまず見てみる。
それから微に入り細に入り見ようとする。
微の部分、廊下の電球の眩しいことといったら。

建物正面玄関は本館から出っ張っている。
おそらく雪国のコンビニはこれを参考にして、
店から出っ張った二重ドアの風除室を造ったに違いない。

「日中は暇だべ?」
電球へ失礼な言葉を投げつける。
そ知らぬ顔で電球は、まあるいガラスに辺りの木々や青空を映しこんでいた。

Qの形が凛々しく見える。
「ちぇっと待って、あっちから見だら、あのチョンは反対向ぎにならね?」
「ちぇっと180度舞ってみだらいいのっだな」

Q1を離れ帰路に就く。
振り返れば、やっぱり市民はQのモニュメントを目の端に入れていく。

「漢字の旧一小から横文字のQ1てなたていうごどは、進駐軍から摂取さっだがらが?」
「進駐軍が摂取したのんね。リニューアルしただげだぁ」
「リニューアルてなんだ?横文字使うなぁ」
やけに漢字にこだわる青い篭はロープで括り付けられ、黄色いネットで口も塞がれた。
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