◆[山形市]まるごとマラソン・千歳橋界隈 颯爽と秋へ(2022令和4年10月2日撮影)

「ほれ、頑張れぇ」
「ところでおらいの孫どさいだんだ?」
前座の3キロコースにも声援が飛ぶ。

いかめしい面構えのパトカーが来た。
遂に久しぶりのハーフマラソンが始まる。

やっぱり先頭集団を走る選手たちは体形が違う。
「違うて誰ど?」
「俺ど」
同じ人間とは思えないほど鍛え抜かれている。

こんな快晴の日に山形を駆け抜けるなんて、
幸福度がマックスになるべな。

馬見ヶ崎川の千歳橋を渡って、山形市内へみんな吸収されていく。
これからの苦難は満足と隣り合わせ。

朝九時の陽光が選手一人一人を区別するように影を這わせる。

まだまだみんな気力十分。
秋とはいえ天気が良すぎて暑さとの戦いになるかもしれない。

「筋肉まる出しだどりゃあ!」
スタート前はユニフォームを着ていた。
スタート直後に脱げた。
走り始めたら皮膚が剥がれてきた。
ゴールする頃は骸骨になっているだろう。

胸で気持ちの高鳴りがきらりと光る。

太陽は容赦なく光を放つ。
それでもまだまだ足取りは軽い。

一塊となった集団は銅町から宮町へかけて伸びてゆく。

ゴーっと金属音が迫ってきたと振り返れば、
揺れる花びらの向こうを新幹線が走っていく。

千歳橋の土手には秋を満喫するコスモスが花開き、
太陽とひと時の交信をしているようだ。

銅町の芋の、あ、んねっけ。
鋳物の取っ手から光が激しく注ぐ。
ランナーたちにそれを見る余裕はあっただろうか。

バス停さえも応援するんだから、
山形が一体化して応援してるといっても過言ではない。

この看板を何日も前から見なかった市民はいないだろう。
ランナーたちが走り去り、やっとお役目御免となる交通規制看板。

「あど交通規制も終わりだどはぁ」
「んだら俺もこだんどごさ座てらんねっだなねぇ」
「んだよ。不審者が具合の悪れ人に思われっべな」

信号も通常通りに設定を戻される。
どだごど操作するんだが見でみっだいげんと、
そこはちょっと遠慮する。

千歳橋を渡る人は、このノッカーをコンコンとしてから渡る。
「ていうが、橋のたもとで竜だがの口が輪っかば咥えでいるなてしゃねっけぇ」

「天気もいいし、んだらば馬見ヶ崎の土手ば東小さ向がて散歩がぁ」
河原沿いは夏とは全く違う秋の始まりを感じる空気の色合いになっている。

あちこちを飛び回るトンボたち。
人間慣れしてかなり近づいても逃げようとしない。
「んね、んね。あんたが甘ぐ見らっでんの」

東小の近くまでゆっくりと土手を歩いてきた。
今頃ランナーたちは山形の街並みを楽しみながら?ヒーヒーいって走っていることだろう。

「そろそろ来っじゃあ」
アクエリアスをコップへ注ぐ作業も急がなければならない。

女の子へちょっかいを出したら、いきなりポーズをとってくれた。
おじさんはニンマリだが、女の子たちはサボていねで早ぐすろと注意を受けていたかもしれない。

「〇〇さんは来ねなが?」
「今日は体調いいがら病院さ散歩しに行ったのんねがよ」
「あれ日曜だじぇ」
「しゃねげんとよぅ」
ランナーを待つ時間に心地いい友人同士の会話が続く。

「マラソンのある日でも練習があるんだがしたぁ」
自転車たちは日陰から子供たちの練習を見守っている。

空が抜けるほど青い。
映画のワンシーンのようなロケーション。
馬見ヶ崎川の土手は市民の宝物。

土手の屋根付きベンチに陣取ったおじさん三人。
「マラソン見るにはこごが最高の場所よぅ」
確かにラストスパートのランナーたちをコースの先まで見通せる場所だ。
コスモスたちも頷いている。

すでに疎らになってしまったランナーたちが最後の走りを見せている。
彼岸花は我関せずと光を浴びている。

「はえずは水んねくてアクエリアスだがら頭から被んなよぅ」
「被っどペタペタすっからなぁ」
ランナーは速度を緩めることもなく、聞く耳持たず走り去る。

「ほれ、頑張れぇ」
「どっちさ応援しったのや?」
「ダンボールば運ぶ人は選手んねんだがしたぁ」

「あの選手は走り方が違うま」
「あいずぁ今年伸びだまなぁ」
言葉が只者ではない。
選手を見る目が違うおじさん。

土手をゆっくりと帰路に就く。
放たれた動物たちは体中に光を浴びて、のびのびと秋の一日を満喫している。

「んだら、バイバイ」
「今回はあどおしまいだがら」
誰かの帽子を片目に引っかけてカエルが口走る。
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