◆[山形市]文翔館前庭 PINK PUBLIC PROJECT(2022令和4年9月25日撮影)

「ありゃりゃあ、一時半なっどりゃあ」
「早ぐあべず。場所取りさんなねがらよぅ」
文翔館の時計台は山形市民に無言で時を教えている。

整然と並び、緊張の面持ちでその時を待つデッキブラシたち。

「百人越えの大パフォーマンスは三時からだがらね」
「それまではほの辺でうろうろしてでけろ」
二時からだど思たのに、マイクから告げられ、一時間の時間のつぶし方を考える。

とりあえず日差しを避けて文翔館の中へ。
「今からなにすんだべねぇ」
「みなピンクだじぇ」
窓から見る光景に戸惑いを見せる二人。

「お、掃除始またりゃ。そろそろなのんねがい」
パフォーマンスの場所を事前に掃除するなんて、なんと心がけのいいことか。

ブラシは文翔館前庭という山形で最高の場所で天日干し。

「なんだずなんだず〜、撮ってけんのが?」
ブラシは主役でもないのに撮ってもらえるのかとにじり寄ってくる。

「頭出すなよ、写ってしまうがら」
「はいずばもっとあっちゃやれ」
「もっとちゃっちゃど動げず」
カメラの責任者はあらゆるところに目を配りごしゃいでいる。
そりゃそうだ。それだけの責任を負っているのだから。

「何はじまるんだべねぇ」
「しゃねげんと、こごさいっど見るいんね?」
パンフを開きながら、よくわからずにその時を待つ。

その瞳をよく見てほしい。
「文翔館が写り込んでいねが?」

「お父さんの背中はあったかいていうより熱い」
それでも居心地のいいちゃんころまい。

見よ、黒山の人だかり。
最近は白いマスクの人だかりともいうらしい。

パフォーマーたちの渾身の動きから熱気が迸る。
観客たちのカメラもスマホもフル稼働。

「ピンクってグレーさ合うずねぇ」
「グレーって何や?」
「文翔館だべず」
山形最高のロケーションで山形で一番熱いパフォーマンスが始まった。

人の目をくぎ付けにさせるには、中途半端な演技はできない。
指先も、髪の毛の先も、視線の先までも全神経を集中させて舞う。

観衆が固唾をのんで見守る中、
髪の毛が空に舞う。光が髪の毛に絡みつく。

汗などかいている暇はない。
とにかく自分の最高の姿を表現して、
ピンクを目に焼き付けてもらうしかないという意志を感じる。

「人間ドリルがぁ〜!」
「石畳が凹んでいぐのが先が、頭がすり減っていぐのが先がぁ!」


人は一人でも演
技は出来る。
でも迫力を出すならやっぱり大集団。
その熱気たるや文翔館も怖気づき、観客の脳みそを沸騰させ、
周りの大気までも味方につけてしまった。

「おんちゃん頑張れぇ。若いのさ負げんなよぅ」
おんちゃんて言われるほど年取っていねし、年齢で区別する演技でもないし。

「さっきはブラシで掃除しったっけのに、今度ははたき掛けがぁ」
「空気中のほごりば取ってだのっだなねぇ」
なんとクリーンなパフォーマンスなんだ。

「今度はブラシがヌンチャクがわりになたじゃあ」
「それがパフォーマンスなのっだな」
全く世代の違うおじさんが見てても楽しいんだがら、ほんでいいのっだず。

文翔館が斜めに見える。
いやいや、これがパフォーマーのパワー。
周りの大気や建物までも揺るがせてしまい、
何が現実なのか惑わせる力が溢れ出る。

本気の演技には人々の目も吸いついていく。
観客の心を鷲掴みした瞬間だ。

フッと息を吐き、緊張を緩める。
観客へありがとうと両手を広げる。
観客とパフォーマーが一体化した瞬間。

時計台が隠れるほどの大勢のパフォーマンスに文翔館もタジタジ。

「気温が30度なの越えっだら大変だっけべなぁ」
「んだず。汗ダラダラだっけべなぁ」
舞う人々の心配までしたくなる激しくも華麗なパフォーマンス。

額にうっすらと汗が滲んでいる。
きっと満足感が汗になって現れたに違いない。

みんな地球から一瞬離れた。
離れないのはその影だけ。

指先までピンと力が入る。
次の瞬間を想起させて見るものを緊張させる。

「いぎなり俺ば指差したじゃあ!たまげだぁ!」
目力に圧倒され、カメラを持つ手が震えてしまうべな。

「いがった、いがったバンザーイ!」
「今日のパフォーマンスは大成功でしたぁ!」
影たちものびやかに石畳の上へ広がってゆく。

「やり切ったがぁ!」
「うおーッ!」
「まだすっだいがぁ!」
「うおーッ!」
そういったかどうかはともかく、脚立に上がった総監督はみんなの気持ちをがっちり掴んだ。

手のひらで太陽の光を掴み、みんなで喜びを分かち合う。
フィナーレを迎え、明るい未来を確信するように手のひらが舞う。
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