◆[山形市]山形大花火大会 夜の街並みを散策がてら(2022令和4年8月14日撮影)

ザーザー降りだった雨が弱まり、
空がピンク色に染まり始めた。
霞城公園から上がる花火のカウントダウンが聞こえてくるようだ。

「おぅ、上がったどれぇ!」
「霞城セントラルさ隠っでよっくど見えねどれぇ」
「ただ花火ば撮んのは誰でもでぎるっだず」
確かに街の光景と組み合わせてこそ花火が生きる。

ダガダガ走って駅の東西通路を駆け抜け駅前のデッキに出る。
ダガダガ走ってといっても、カメラ二台・三脚・アクエリアス・レンズ・傘を背負って重たくて、
実際はピコタラ進んでいるようにしか他人には見えなかった事だろう。

駅前にはドーンドーンと花火の音が響き渡る。
「駅のこんな近くで花火が揚がるなんて凄いね」なんて声が聞こえてくる。
そこで思った。
日本一駅から近い花火大会と謳って、この大会をPRしてはどうか。

「五十番も休みだどれぇ」
「皆花火ば見に行ったのんねがよ」
シャッターの降りたビルには花火の音だけが反響する。

花笠ストリートをうろつくが、なかなか花火の見える場所が見つからない。
諦めてどさんこでラーメンを食いたいとも思うが、
強い意志で再びうろつき始める。(実際はすでにヘロヘロで余力が無くなってきている)

「この灯りはなんだっす?」
関係者に聞いてみる。
「鼻炎なれ?蓄膿症とは違うのが?」
「ビエンナーレです」
どうやら芸工大が主体で山形市街の様々なところでイベントをやっているらしい。

「ちっくしょー、いちゃいちゃしやがって」なんて思わない。
なんと良い被写体が現れたとほくそ笑む。

家並の上に花火が上がるのもなかなかいいもんだ。
男性が女性の腰と傘を離さないのも絵になる姿。

もうちょっと近づいて見てみたいと思い、
城南橋を目指す。
夜の街にはあちらこちらでくつろぎながら花火を見上げている姿が見つかる。

ようやく城南橋へたどり着く。
三脚を立てるのももどかしく花火を狙う。
電線と建物が邪魔していると考えず、コラボしていると考えれば、
こんな光景も面白いと一人ごちる。

ようやく霞城の杜が見えてきた。
まるで真っ黒い杜が、思いっきり息を上空へ噴き上げているようだ。

「立ち止まらずにご覧くださ〜い!」
「密にならずに離れてくださ〜い!」
城南橋へ鈴なりになっている観客へ向かい、
関係者スタッフが声を上げている。
その声は虚しく夜空へ吸い込まれ、観客は立ち去ろうとしない。
「こだい良い場所だもの、見んなったてそれは無理だべなぁ」

城南橋の下では、遊具に乗った子供たちが屯している。
雨の日には最高の場所。
みんな様々な自分なりの居所を探して花火を楽しんでいる。

「やっぱり街の真ん中で花火ば見るいのはいいずねぇ」
「んだず。自宅の二階からでも見るいもねぇ」
街の真ん中だからデカい花火は打ち上げられない。
デカい花火を見たければ、赤川や長岡や大曲に出かければいい。
山形には山形の街中花火の楽しみ方がある。

体はヘロヘロなのに、もっと花火へ近づきたいと体は霞城公園の南門を目指す。

今日に限っては花火はもちろん主役。
でも、山形の街並みと組み合わさってこその花火が山形らしさを醸し出す。

今日ばかりは「止まれ」なんて誰も見ない。
ま、車侵入禁止エリアだから「止まれ」は休みだな。

南門へようやくたどり着く。
「なんだてもの凄い人出だずねぇ、東大手門前から見んのど遜色ないんねがよ」

パラパラパラと降り注ぐ花火の欠片。
儚さと力強さに目が釘付けになる浴衣姿の乙女たち。

「ど〜れ終わたはぁ、帰っびゃあ」
人々は最後の花火を見納めて、冷めやらぬ興奮と一抹の寂しさを胸に、
名残惜し気に立ち上がり帰路につく。

「ちぇっとなに!この混雑は!」
「渋谷の交差点より凄いべな!」
南門から駅西へ向かう道は完全に人々から占拠された。

「ちゃっちゃど歩げず」
「ほだい急がんたていいべした」
「急がねど駐車場からいつまでも出らんねぐなっから」
モンテディオの試合が終わった後と同じで、
皆一斉に帰路につくから、なかなか駐車場から出られなくなる。

「一杯引っ掻げでいぐが」
おそらく今の若者はそんな言葉を使わない。

「ほれ、傘ば持てきてけだ」
「花火も終わたし、ほだないらねはぁ」
子供たちも夜遊びが許される唯一の一日。

花火を見終えた人々が駅や駐車場へ向かう。
みんな体から興奮の余韻を発している。

霞城セントラルから漏れ出る灯りは、
流れる水面へ緩やかに紗をかける。

「そういえば西口にも山交バス停が出来だんだずねぇ」
「信じらんねず、俺が中学生(三中)の頃は、闇と痴漢しかいねんだっけがら」

「さて健康に気を使うか、楽を選ぶか?」
へとへとの体を気遣ってエレベーターを選ぶことにした。
へとへとでなくてもエレベータば選んでいるんだげんとね。

闇に覆われた空に霞城セントラルが突っ立っている。
花火を見終えた人々の車は駐車場の出口でつっかえって数珠繋ぎ。
山形の夏がまたひとつ終わった。
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