◆[山形市]花笠まつり 山形さこだい人いだっけのが?(2022令和4年8月7日撮影)

太陽が傾いてきた。
文翔館の時計台も前庭の人々もムワッとする空気に包まれている。

影を伸ばしながら七日町へ向かう人々、その辺をうろつく若者。

この日とばかりに浴衣を着て夏の光景を盛り上げる。
日本人だなぁと思うひと時を感じる間にも、刻々と日は傾き花笠まつりのスタート時間が近づいてくる。

「昔はほごから真正面さ見えるパレードば撮っかどもったら、ごしゃがっだけぞ」
コロナへの対応も緩み、文翔館二階バルコニーでの見学も緩んできたのか。

邪魔臭い市役所のビルを避けるように、沈みゆく光が差し込んできた。
花笠名物のイルミも負けじと、その灯りの粒が少しずつ目立ってきた。

「文翔館ば背景にして撮ってけっから」
「文翔館ば見んなず、こっち向げ」
唐揚げはしっかり離さず、子供への視線も離さない。

「どーれ、パレードが来るまで新聞でも読んでが」
昔ならこんな光景は何処でも見られた。
今は昔。スマホばっかりの中で新聞姿を見つけるとホッとする。

「何人だっけぇ、椅子の数足りっべねぇ」
「はえずより時間さ間に合うがだずぅ」
簡易椅子は、まだ暖かいアスファルトの上でじいっとこちらを見つめてくる。

「ちぇっと右、あ、んね左」
「手挟むなよぅ」
「ちゃんとたがげず」
これから始まる祭りに、興奮が声になって吐き出される。

周りのざわめきが聞こえなくなる。
パレードのスタート地点へ目を向ける。
一旦スッと肩の力を抜き、そして深呼吸をする。
再び周りのざわめきが耳に入ってくる。
よし、これで気持ちも体もキリリと引き締まった。

夏の祭り姿に魅了され、高ぶってくる気持ち。
山大のグループ「四面楚歌」は今や山形の無形文化財といっても過言ではない。

白足袋に足を通したとき、気持ちが引き締まった。
そして今、カウントダウンが始まり腰の鈴が微かに揺れる。

本町をスタートした踊り子たちが来るまでの間、
ここ文翔館前では山大「四面楚歌」が踊りを披露する。
どこにも負けない若々しさと、独創的な舞いと、前面へ出るやる気が魅力だ。

山大「四面楚歌」の舞を見るだけでも腹いっぱいになる。
でもこれからがパレードの本番だなんて、なんと贅沢な祭りだろう。

「山形のどごさこだい人がいだっけの?」
「ほんてん人口が減ってるんだが?」
そんな疑問を持つのは花笠と芋煮会と初市の時くらいか。

「渋谷の交差点くらい混雑しったんねがよ!」
「四面楚歌」に見とれる者、屋台の食べ物へ向かう者、見やすい場所を探す者。
皆市役所前を右往左往する。

「四面楚歌」の舞は佳境へ入ってきた。
力強くもスピード感のある舞いは、瞬きしたら見逃してしまう。

山大「四面楚歌」の舞があっという間に終わり、
程よい汗と疲れを体にまといながら、
踊り手たちは市役所の前でお互いを称え合う。

いよいよ踊り手の集団が近づいてきた。
太鼓の音が辺りに響き渡る。
腕から体から熱気が溢れてくる。

市役所の壁にぶつかって反響する太鼓の音が体を震わす。
バチの動きがいよいよ激しくなってくる。

額やうなじや肩に汗が光るころ、
踊り手の集団がやって来た。
人々の目はその舞いにくぎ付けとなり、心は花笠音頭に酔っている。

イルミのアーチを次々と集団がくぐっていく。
文翔館はその受け入れのために懐深く待っている。

艶やかな踊りの波が夏の夜を眩しく彩る。
まだまだその熱気は揺らめきながら続いてゆく。

強烈なライトに照らされて、アスファルトの影も右に左に前に後ろに忙しい。

ゆったりと見えて、実は素早さもある花笠踊り。
人々は見逃すまいと目を凝らしても、
アスファルトの矢印に沿って、あっという間に踊り手は進んでいく。

「昔はおばちゃんばっかりんねっけがずぅ」
「今は若い子がうがくて嬉しいずねぇ」
「ほだごどゆてっから、としょんのっだなぁ」
「そういえばよ、昔はやんだみだいして踊てんのもいだっけずねぇ」
「今の子は本気で笑顔で踊てからね。ほいな姿ば見でっど気持ちいいず」
花笠は時代を経て確実にバージョンアップしているし、若者にも受け入れられている。

石畳の片方だけに人々が偏っている。
石畳はいつもと違う踏まれ方に、今日はよっぽどのことがあるんだと気づいている。

「この景色もあど見らんねんだじゃあ」
「なしてや?」
「んだて文翔館は来年もあっべげんと、県民会館は無くなるんだじゃあ」
解体工事も始まり、思い出の詰まった旧県民会館が、最後の光を浴びている。

七日町や旅籠町の街並みはいつの間にか光景が変わっていく。
その間に挟まれながら、踊り手の列が時代の流れに乗って進んでいくようだ。

「ばんげだどりゃあ」
「夏のばんげだも踊らんなねっだなあ」
アーチをくぐりながら山形出身のタレントも花笠を振る。

「みんな踊りに夢中だげんとよ、背景がなして白い塀だが分がてるんだが?」
「分がてっげんとよ、今日だげはほだごど忘っで楽しむびゃあ」
山形県民の文化の象徴「県民会館」は白い囲いに囲まれてその歴史を終えようとしている。

「なえだて、どさ行っても若者ばっかりで、俺なの場違いみだいだずぅ」
「はえずぁんだっだなぁ、今の若いのはコロナのせいでさっぱり遊ばんねっけがらよぅ」
「やっと復活した祭りさ来てみっだいっけのがぁ」
灯りの影をビローンと伸ばしながら、若者は文翔館前で真夏の夜を味わっている。

議事堂の噴水はここぞとばかりに生気を漲らせている。
その周りには多くの老若男女(ほぼ若者)が集い、
宵の山形にどっぷりと浸かって、
時の過ぎるのを忘れたかのようにとめどなく食べたり喋ったりしている。

ざわめきは夜の闇に紛れていつまでも続く。
花笠が終わり、お盆が終われば、山形には秋の匂いが微かに感じられてくる。
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