◆[山形市]山形駅前・歌懸稲荷神社 願い提灯の灯るころ(2022令和4年7月30日撮影)

山形駅前も陽がやや陰り始めた。
週末のためか空気は疲れたよう淀み、
冷めやらない熱気と同居している。

駅のコンコースでは花笠まつりが開かれるぞと、
大きな垂れ幕が人々の気持ちを鼓舞している。

しかも提灯まで飾られて、雰囲気を盛り上がる。
人々は視野の端に入れ、いつの間にか気持ちは夏モードになっているに違いない。

視野の端に入れるどころか、提灯の真ん中に目を注ぐ。
提灯の先にはスマホに見入る見る高校生たち。

駅のペデストリアンデッキを降り立ち、
旧十字屋の十字路まで歩む。
モンテディオの旗はまだまだ熱い風に煽られて青空に泳ぐ。

「暑くて行ぐだぐないぃ」
今日の撮影も気持ちを上げるのに一苦労した。
世の中には行くしか選択肢のない緑の人が沢山いる。

背中に西日を受け通りに目を向ける。
提灯どころか、山交バスも街並みもみ〜んなオレンジに染まってる。

振り返るとオレンジに染まった大気が、熱をはらんで街に滞っている。

「なえだて駅のメトロポリタンのビルがギラギラに光ったじゃあ」
「んでもあの壁面は東向きだじぇ。なして夕陽が当だてるんだい?」
なしてだがは分がんねげんと、この天気の時間帯にしか見られない現象だべがらとアップで撮った。

稲荷角(十日町角)付近から東を望めば、
みんな眩し気に目を背けながらも駅方面に向かってくる。
※「なしてわざわざ十日町角なて説明してけらんなねんだず」
「昭和だごんたら稲荷角で普通に誰さでも通じたのによぅ」
「稲荷角(現キャッスル)さは稲荷食堂があって、ほごの二階で同級会なのしたっけなぁ」

たった今ダイエー前に降り立った。
いや、山交ビル前に降り立った。

街は花笠まつりとモンテディオで盛り上がっている。
夏休みに入った子供たちは、心ウキウキの夏休みも始まった。
いよいよ山形の夏本番が始まる。

ショーウインドウの灯りよりも提灯の灯りが目立つ駅前通り。
「今だげは御免してけらっしゃいな」

歌懸稲荷神社の境内に入ると提灯が目白押し、否、数珠繋ぎ。
「野球がていう真っ黒い手書き文字が朴訥で凄ぐいいずねぇ」

「せっかぐ提灯が並んでいんのによぅ、その前さ車が停まてるて、なんだべずよぅ」
「蕎麦屋の駐車場も兼ねでるみだいだがらしょうがないみだいだな」
「提灯の期間だげでも車ば停めね方法がないんだがよ」
「んだて提灯だごしゃいで、車体さ落書きしったじゃあ」

ぶつぶつ文句を言う親爺など関係ないと、
提灯の灯りを背景にして、手水舎の竜が涎をたらたら垂らしてる。

「まぼろしが?」
子供がパッと現れて、パッとどこかへ走り去った。
ほんの一瞬の出来事に目をこすってみたが、なぜ自分に見えたのか分からない。
単に提灯の影に隠れたとは思わないことと自分に言い聞かせる事にする。

「ほっだなよぅ、ちゃんと提灯の灯りが目立つようになるまで、
OS-1飲みながらずーっと待ってだんだがら」
空っぽのペットボトルを空へかざして、温まった石段からようやく重い腰を上げてみる。

街並みの灯りが一際目立ってきた。
見ようとしてるわけではないけれど、それでも店内の営みがはっきり浮かび上がる頃。

ダイエー前のバス停は、いつものように帰宅する人々がバスを待ちわびで左側の方ばかり見ている。
もちろんバスは左側(東側)からしか来ないからだ。
バイクは提灯に尻を照らされながら右を向く。

明るい店舗の目の前で突然かがんだお嬢さん。
山形という大都会へ出かけるために靴を新調したけれど、
どうやら足に合わなかったに違いない。という親爺の妄想が夕闇に漂う。

街はいよいよ夜のモードに入ってきた。
未だに去らぬ息苦しいほどの熱気はいつまで居座るつもりだろう。

車道と歩道の境にチェーンが下がる。
気持ちは上がっても体は下がる。
「まるで俺みだいだどれ、気持ちは上がっても体の贅肉は下がる一方だものぉ」

前を歩く二人。
「お互いに後ろから手ば回しったじゃあ」
自販機の整然と並んだペットボトルたちは思っている。
「後ろに手が回ることだげはすんなよ」

コンビニの灯りがやけに眩しい。
自転車も人々もその灯りの前には影になるしかない。

まだまだ真昼の熱気が籠っているサドルの合成皮革を、
ぬらぬらと舐めまわす夜の光たち。

濃い青に同化するようなモンテディオのフラッグ。
まるで選手とサポーターが同化するように。なてが。

「いやぁ悪れっけねっす。俺提灯んねのよう」
だるまさんは恥じ入るように造り笑顔で待ちゆく人に謝っている。

大通りから花笠ストリートをちらと見る。
やけにざわつく光が目に入る。
「どごがの店さ荷物ば運んできたんだべなぁ」
その軽トラは荷台のシートで辺りのネオンを散り散りに砕きながら主を待っている。

「ほだごどしたら零れっどれはぁ」
「んだがら蓋なったどれ」
「ほういう問題んねべ。中身は本物だがていう視点がないのが?」
「ほだな誰も最初から本物だなて思ていねべず」
縦鍋(たてなべ)に綴蓋(とじぶた)。

「なんだず山形のコマーシャルば撮っかど思たら、七夕に画面切り替わたどりゃあ」
「それにしても七夕は綺麗だずねぇ」
画面の切り替わりも速いが、気持ちが山形から仙台に切り替わるのも早い。

「一個一個の提灯さ、皆手書きで願い事ば描いだんだど」
「俺も描いでみっだいっけなぁ」
「なんて描ぐっけのや?」
「棚からぼた餅」

「早ぐ帰れな、変な人が近づくど困っから」
はたから見れば、その変な人とは自分の事と気づく。
「ちぇっと気づぐの遅いんねがい」
「しかもすごほごが警察だじぇ」

日もとっぷり暮れて、居残る熱気が濃紺に染まってきた。
車たちはテールランプを伸ばしてそれぞれの目的地へ走り去る。
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