◆[中山町]柏倉家・紅花祭り 粋な黒塀みごとな紅に(2022令和4年7月9日撮影)

緑・黄色・紅・グレー・黒の積み重ねの上に真っ白い蔵が緑に被さっている。
みごとなサンドイッチ景観。

「この辺の人だは、自転車でどさでも行ぐんだが?」
紅花畑の手前、駐車場と公衆便所の脇に、
自転車が何台も連なっている。

駐車場から紅花畑に掛かった橋を渡って行けば、柏倉家へ行ける。
「ちぇっとチラシぐらい持って行げっちゃ」
ビニールクロス張りの椅子が入り口で声をかける。

なんだべ?と思い、裏側を見る。
ちゃんとマジックで「豊田小学校より寄贈」とある。
「豊田小の生徒はクッション付きの椅子で勉強したのが?贅沢んねがい」

紅花だけを見せる祭りは沢山ある。
でも、背景をも考えられた祭りはそうない。
白い漆喰と紅の色は見事にマッチする。

暑さのせいか人々は木陰で冷たいものを頬張り、
紅の花びらは俯き加減。

菜の花の向こうに人がくつろいでいる。
人は椅子に座ると同時に、自分が一番楽な格好になる。
足をはんばがたり、組んだりと人さまざま。

山形盆地を見下ろすように蔵が建つ。
まるで盆地の森羅万象を睥睨するように。

「ほれ早ぐあべはぁ」
「んだて紅花が綺麗なんだもの」
「ままかしぇっからあべどはぁ」
おばあちゃんが食べ物で子供を背後から後押しする。

みごとな黒塀が続く道をゆったりとした気分で歩く。
突然ビューンと子供たちが脇を走っていく。
まるで長々と続く黒塀のその先まで競争するように。

さっきは白い漆喰に紅の色は良く似合うといったが、
やっぱり黒い塀にも紅は良く似合う。
「日本人の心さ染みる色なんだがら何にでも似合うのっだなぁ」

「よっこらしょーい」とじいちゃんとお母さんの声が黒塀に反射する。
子供は喜んで足をばたつかせる。
黒塀という異次元に挟まれた非現実空間。
その中で両側から持ち上げられたら、子供が喜ぶのも当たり前。

「紫陽花は傘なの差してだめだべぇ」
「なして?」
「んだて濡れてこその花びらだべした」
人間が作ったイメージに、紫陽花は納得がいかないようだ。

「ヌゥーッと現わっで、おまえ誰だず?」
「俺はリアトリスていうんだ。ウイスキーの名前んねがらな。別名キリン菊だがら」
「ほだないいげんと、人前さ出っどぎは髪の毛ちゃんと揃えでこい」
散歩中に見知らぬ花が見つかった時には、ちょっとした興奮が自分を包む。

ブジュブジュて轢いでけっからな」
ぽたぽた落ちた梅の実たちに軽トラが睨みを利かす。

立派な鐘楼を見上げながら岡観音へ向かう。
鐘楼から板塀まですべて黒で統一するという岡集落の取り組みに頷きながら、
汗をかきかきペットボトルに手を伸ばす。

杉の木立に目を向けて、一人静かに休む自転車。

よくよく見れば、内側の荷物と、写った光景が融合している。
割れた部分だけはぽっかりと無になっている。

濃くなった紅葉の葉が、赤い幟と反発し合う。
秋になれば同系色になって仲良くなれるんだけど。

「さっさっ、どうぞどうぞ〜」
「え?いやいや」
岡のお姉さんたちとの初対面は変な会い方になってしまった。
岡の事をいろいろと説明いただきありがどさま。

濃い緑と黒い板塀と、グレーのアスファルトの世界。
これで雨でも降れば、アスファルトも黒くなり、緑と黒の二色だけの世界になる。

カンゾウの花がプルルンと揺れる。
白いスカートも時間をおいてゆらりとひらめく。
夏の気まぐれな微風。

「お祭りの準備でくたびっだずぁ」
木陰に寄り、両腕を背後へ伸ばす姿にはくつろぎ感が満載だ。

疲れ果てたような一輪車が全身日焼けで茶色になって立っている。
「あれ?雑草生えっだじぇ」
土がほんのちょっとだけ擦り切れた足へ入り込み、雑草はそれを見逃さなかったということか。

「ほれ、ちゃんと脱いだ靴ば揃えでぇ」
靴を脱ぐよりも早く、少年は会場へ足を踏み入れる。

カタツムリは黒塀の途中で果てたことを、白い軌跡が示している。

竹林がサワサワと囁いている。
その姿をボウッと眺める紅花たち。

「なえだて今日は騒がしいんねが?」
紫陽花たちは何事かと黒塀の上から下界を覗いている。

「あたしたちが写るんだがらぁ」
「ほだごどやねであたしだばも写させでけろ」
紅花の前では菜の花が黄色い声で騒いでいる。

「いい顔いい顔ぉ」
「ほだな子供んねんだがらぁ」
二人の心の距離はこれより近い。
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