◆[山形市]柏倉中丁・上丁 梅花藻みれば涼感ばいかも(2022令和4年6月26日撮影)

「山形市の一度は行きたい坂道十選」一位に輝いた柏倉の坂道。
真正面に千歳山が見え、通りの両側は夏の草木と花たちが輝く。
※十選は個人的に選んだものであり、公的に決まったものではありません。
もし公的なものがあったとしたら、確実に選ばれる坂道です。

電信柱にくっつくタチアオイ。
その紫色は深く一見気持ち悪い。
そんなタチアオイの仕草を郵便ポストは見て見ぬふりをする。

「おまえだよ、なして忘んねで暑ぐなっど咲ぐんだず」
熱せられたトタン板の奥で、空に向かって咲き誇るタチアオイ。

柏倉にあって当然、無くてはならぬ富神山。
子供も飛び出して見たくなる三角山なので、
各住宅の玄関には、子供飛び出し注意の看板がある。

その空間だけが外気温より数度低い。
そう思わせるガクアジサイの小さな空間。

「こだい暑いどぎ元気いいのはおまえだだげだ!」
「34度もなてんのに、あだい元気いいぐピンと伸びでるなて信じらんねず」

蔵は暑さのために窓から深いため息をつく。
タチアオイにはため息をつく理由も、周りがぐったりする理由も分からない。

いつ来ても同じ光景、同じ古びた建物が迎えてくれる。
建物も毎年少しずつガタが来ているだろうに。
そういう自分も毎年少しずつガタがきている。

人の背丈以上に高い石垣が続く通り。
その石垣からは芝桜が垂れ下がる。
行く手の道は暑さで白茶けている。

路傍の花は金鶏菊というらしい。
暑さ寒さには無類に強い花らしく、有り余った元気の良さを空へ発露する。

「いうなよ、絶対いうなよ!」
壁にもたれたタイヤは強く口止めをしてくる。
「いうなよて何ば?」
「んだがらカエルてゆうなていうの」
「あ、んだりゃあカエルどそっくりだどれぇ」
「んだがらいうなず」
自分から言ったくせに。

「触んなよ、絶対触んなよ!」
チェーンは強い口調で言ってくる。
「誰も触らねぇ、見るからに熱そうだも」
「ほだごどやねで、ちぇっと触れでけだていいべよ」
チェーンは誰にも構ってもらえず、退屈で錆が浮いている。

いよいよ「山形市の一度は歩きたいせせらぎの小径十選」にやってきた。
せせらぎに見とれていると、自転車がスイッと脇を通り過ぎていく。
※十選は個人的に選んだものであり、公的に決まったものではありません。
もし公的なものがあったとしたら、確実に選ばれるせせらぎです。

空き缶は暑さに耐えかねて身をよじる。
私も暑さに耐えかねてペットボトルに手を伸ばす。

このせせらぎは何といっても梅花藻(ばいかも)。
その梅花藻を近くで見ようとかがんでみると、
すぐ隣から小さな黄色い毛狐の牡丹が現れて邪魔をする。
なるほど植物分類では雑草といわれている所以がこの行動にあるのか。

水路には所々に小さな橋が掛けてある。
その奥を覗き込もうと腰をかがめる。
梅花藻は橋の下の暗がりにまで伸びていた。

水面からぴょんぴょん飛び出す者。水面下で濡れるに任せている者。
花びらは様々だが、やっと来た真夏を謳歌しているのがその姿から分かる。

物凄い一群の梅花藻。
これだけの大群を見たことがあっただろうか?
山形市内の山形五堰にも梅花藻は生息しているけれど、
これだけの大群は見たことがない。
灼熱の暑さに圧倒されつつ、梅花藻軍団にも圧倒されて目が釘付けとなる。

流れに逆らわず葉?藻?は左から右へ水中をそよいでいる。
梅花藻は15度以上の水温では育たないそうだ。
富神山から流れ来る冷涼な水が梅花藻をこんなに成長させた。

ちょっとシャッター速度を遅くして撮ったらこんな有様。
水流は糸を引く様に光と共になびき、花びらたちは常に細かく揺れている。

きちんと並んだスコップたちの脇に外来種のビロードモウズイカがちょこんと立っている。
「あれ、こりゃまた失礼いたしました」といって立ち去るわけでもなく、
手前の重機へ当たり前のように寄りかかる。

タチアオイは便所裏やお墓の周りがよく似合う。
「失礼だずね。こだい満面の笑顔で咲いでけでんのに」
ちょっとタチアオイを怒らせてしまったが、その一直線に伸びる意志だけは認めでけるっだな。

何処から見ても富神山。
富神山あっての柏倉。
いつまでも土蔵や木製の電柱がこの地に残って欲しいと願うのは、
外から来た人間の我儘か。

地面のヒビがパリパリと音を立てるように広がっている。
困り果てたストック状の農具は、ただぬだばって熱い熱気の中にいる。

「まだタチアオイが」
何処へ行ってもタチアオイ。
「今日は梅花藻ば見にきたんだじぇ」
「あだなちゃっこな花より、おらだの大輪の花ばみでけろ」
あまりにもどこにでも現れるタチアオイに食傷気味になりながら、
でも、これがいつもの光景であり真夏の当たり前の光景。
それをありがたいことだと思わなければならないのだと自分を戒める。

「手の中グショグショだずぁ」
「ほだごどゆて中身は鉄棒だどれや」
手袋はただ人の手を包み込んでみたかった。

「草ずぁ逞しいもんだずねぇ、どごさでも生えっからね」
ひしゃげたドラム缶からビュンビュンに伸びる草に驚きを隠せない。

害鳥避けのネットだろうか?
隣の桜の葉っぱが退屈しのぎに、ネットへ影絵を描いている。
影絵は青空や雲たちと一体となって空全体へ広がっていくようだ。
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