◆[山辺町]山辺駅・山辺小界隈 雨雲の近づく前に(2022令和4年6月11日撮影)

左沢線をまたぐ歩道橋。
遠くに奥羽の山並み、近くにくたびれた山辺町の町章。

ひっきりなしに車が踏切をまたいでいく。
いつまで待っても左沢線を列車が来ない。
「山形は車社会だがらそうがないんだべなぁ」
「俺も北駅から羽前山辺駅まで列車で来っどいいんだべげんと、
車で来て山辺の総合デパートベルさ車停めっだもの」

青い空を突き抜ける。
ニワタバコは雑草ともいわれるだけに雑草魂がある。

「山辺の特産ってリンゴなんだがした?てっきり朝日町だどばっかり思ったっけ」
「山形なのどさ行ったてリンゴなの獲れるっだず」

「おらぁこいな雰囲気好ぎだぁ。たまらなく昭和の匂いがすんもの」
「んでも昭和の匂いより、ソバの匂いの方がもっと好ぎだげんとな」

「おらぁこいな雰囲気好ぎだぁ。母親からよぐこいな店さ連れらっで行ったっけもなぁ」
「んでも母親が連れでいった店よりも、その後に食堂さ入て食たラーメンの味の方が忘れらんねげんとな」

「早くてスイカがはぁ?」
ゴロンゴロンと平台に並んだスイカは、
ソフトクリームのふんにゃりした柔らかさと対峙する。

「あのドアが熱中症にならねように注意喚起しったば」
「なにゆてんのアルコールんねがよ」
「コーラだべ」
日焼けした色ではどちらなのか分からない。

店舗の装飾テントがボロボロだ。
「おればも見でけろ。まいったずぁ」
シャッターからはみ出たベロは疲れてだらりと垂れ下がる。

ドアガラスの一番下が割れている。
それはおそらく猫の出入口。
郵便ポストが右肩下がり。
それはおそらく左膝が痛いから。

山辺も上山のように坂道の街だとは知らなかった。
「坂道のある街て絵になるんだずねぇ」
平坦な山形に住む者としては、ただ羨ましい。

坂を上り切り振り返ると梅雨前の青空が広がっている。
ハンドルを握った七分袖の腕が、私の脇を過ぎてゆく。

「なしてどごでも門柱だげは昔のまんまなんだずね?」
「たしかに我が母校六小も門柱だけは昔のまんまだな」
歴史を知るにはまず門柱から。

「うぐーっ、足が攣りそうだぁ」
山辺小の敷地内に踏ん張って落ちまいとする伐採された切り株がいた。
何故切られたのか、何故そこにそのままいるのか謎だ。

フェンスからは育ち盛りの小学生たちのように、
顔を出して騒ぎ立てるタンポポ。
平日ならきっと、フェンスから子どもたちの歓声が溢れ出ていることだろう。

「なして下向いっだの?」
「どだい痩せだがどもて地面ば見っだのよぅ」
ラベンダーも人間のように痩せている方が美しいと洗脳されているのか。

「小学校の中は関係者以外入ってだめなのんねがニャー?」
まるで小学校の主だといわんばかりにレンズを直視してくる、
退屈を全身にまとった猫。

「なえだてたまげっずねぇ。シロツメクサの大群だどれ」
小山は全身シロツメクサに覆われ、なんとなくその上に寝っ転がってみたくなった。

敷地の隅の桜の木の下にベニヤ板で仕切ったゴミ捨て場があった。
覗けばゴミの中で黄色い花びらが咲いている。
どんな場所でも生きてやるという小さな意志を見せつけられた。

「おもしゃいずねぇ。山辺小学校の物置は汽車のコンテナなんだじぇ」
「中さなに入ったがしゃねげんと、しっかり鍵締まてっから子どもださは大事なものなんだべなぁ」

空へ競って伸びるひなげしの花。
ひなげしといえばアグネスチャン。
あの時代を思い出しつつ、アグネスチャンは日本語がいつまでも上達しないままでいて欲しい。

あっちでもこっちでも花が真っ盛り。
梅雨を前に、今咲かなくてはとデイジーは空へかき分けて伸びていく。

フロントガラスにギラリと照りつける日差し。
その光へ向かって声援を送るように花びらの大群が舞う。

「月見草は月ば見でらんなねんだべず。しかも人知れず」
「なにゆてんのや。あたしは昼咲月見草だっす」
ピンクの筋を伸ばした花びらが愛らしい。

「皆やる気ないのんねが?」
「休憩んどぎまでやる気だして何すんのや」
手袋たちは洗濯ばさみの痛みに耐えてぶら下がる。

「俺たちはドリーマーなんだぜぇ、イエーイ」
「ほだなごどゆてる暇あっごんたら仕事すろ」
二階の屋根から叱責の声が飛ぶ。

クタラーッと歩道へ寄りかかる薔薇。
気持ちは上を向いているけれど、何があったか体がついていかないようだ。
追い打ちをかけて車が歩道へ風を巻き上げていく。

「おまえ日傘差しったのに太陽に丸当たりだどれ」
左の地蔵がバカにする。
「おまえだて傘の隙間から太陽ば眺めっだどれ」
右の地蔵は、余計なお世話だと言わんばかりにそっぽ向く。

強烈な日差しが傘へ一直線に攻撃を仕掛けてくる。
傘の上に被さった枝葉たちが、レントゲンでも撮られたように、
傘へ影を張り付けている。

「猫に小判はいらねべ?」
地蔵が目を細めて猫へいう。
「ほだなごどないニャー。世の中銭だニャーッ」
近頃の猫は人間に甘やかされて、お金の味まで知っている。

「あ〜、極楽極楽」
カエルは手を頭の後ろに組んでお金の山に寝そべっている。
「カエルまでもお金が好きだなて、世も末だべな」
カエルはつるっとした体を身じろぎもせず、五円玉の輝きに満足げ。
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