◆[天童市]小路・建勲神社 ツツジの花の咲くころは(2022令和4年5月21日撮影)

「はえずぁヤマボウシっだず」
おんちゃんが教えて走り去る。
「知ってだず、それぐらい。ハナミズキの仲間なんだがら」
そんな反発をしてはいけない。
通りすがりの方の声はありがたく拝聴したい。

「なえだて俺より赤くパッパッと赤ぐなてんのいだんねが?」
消火栓はちょっと機嫌が悪い。
「まあまあ、ほだいかっかどすねでぇ」
緑のホースがのんびりと丸まって消火栓を宥める。

「つつじの公園があるて聞いだがら来てみだのっだず。こごから登んのが」
山形市内はどこもかしこもツツジだらけ。
「天童まで来たからには、もっと凄いツツジば見せでけろねぇ」
そんな事を思いつつ、看板背後の建物に昭和の味わい深い趣を感じる。

道はだらだらと上り坂。
ツツジを見終わった人は足をカックンカックンしながら降りてくる。
昭和の家並に挟まれながらゆっくりと登ってゆく楽しみ。

「なえだて雑草ばりだどれぇ」
見晴らしのきくところへ出たらハルジオンだらけ。
「おらだば雑草て誰が決めだんだぁ!人間の基準で勝手に決めんなぁ!」
ハルジオンはごしゃいで、レンズに詰め寄ってくる。

タンポポの種は大半が空へ散っていった。
残りの種は下を向き逡巡し、イボだらけになった鏡餅のような頭にしがみついている。

シャガは日陰の花。
それでも時には零れ落ちる光に向かいたくなる時もある。

「膝痛くてよぅ、ちぇっとした段差も大変なのよぅ」
ツツジを見るには段差を超えなければならない。
その気持ちだけで、よっこらしょっと踏ん張っていく。

ツツジ公園には人気(ひとけ)がない。
せっかく顔を出す記念撮影用の看板が立っているというのに。
「あれ?どごがのおんちゃんが覗いっだどれぇ」
はなかみ先生という、環境美化・文化向上に尽力した地元では有名な方らしい。

すぐ隣の建勲神社に足を運ぶ。
竹の先から落ちる水音だけが境内を静かに這っている。

新緑の中を織田藩の幟がはためいている。
「天童てなんだがしゃねげんと織田藩なんだずねぇ」
きっと山形県内にあって、独自の道を歩んできたのだろう。

お父さんは広い肩に子どもをひょいと載せて階段を登ってゆく。
新緑が頭の上に降りかかる。
「あれぞちゃんころまいの王道っだずねぇ」
「ちゃんころまいって何?」
「肩車っだず。誰でも子どもの頃してもらたどぎあっべ?」

「出るはずのものが出ずらいぃ」
「んだら高齢者になたばりのおんちゃんと同じっだず」
「それはそうと、周りさだれもいねんだがらマスク取ったらいいんねがぁ」
「やんだぁ、体育帽とマスクは決まりだがらぁ」

「なしてほだい急な階段ば登らんなねの?」
「目の前さ階段があっからっだな」
ひじゃかぶば痛めている高齢者にはあまりにもキツイ階段が聳える建勲神社。

建勲神社の麓には山形県の青年の家が建つ。
「ああ思い出した。五分前行動て教えらっだどごだ」
あれは私が中学二年生の時だったと思う。
ていうごどは五十年前が。
「なえだて年寄った建物になてしまたなぁ」

こんなに若々しい杉っ葉を見ることができて、なんだか顔がほころんでくる。
力強い生命力と、まだまだ柔らかい危うさを兼ねている杉っ葉を大気はゆるく包んでいる。

「見たか力強い青年の家の筆文字を!」
その文字を引き立てるようにツツジが笑顔を振りまいている。
山形県民なら皆ここにお世話になったことだろう。
でも文字は力強いが、建物は高齢者。

「信号みだいだな」
「ほだな訳ないべ。緑がいねもの」
青年の家に寄りかかり、三兄弟はタイヤを休める。

「そっちは突き当りで行がんねのんねがよ」
「行ぐいげんとも坂だがら自転車ば降りで押して行がんなねな」
すれ違いざまに伝える。
少女たちは素直に自転車を引いてゆく。

ただ古いとか錆びだらけとかで片づけてはいけない。
よくよく見ると、この造形の古さ不揃いさが醸し出す空気に芸術を感じないか?
新しいか古いか、綺麗か汚いか。それだけで事物を選別してはいけない。
それを超えた醸し出す空気を読み取らなければならない。

シュロの木が曇天をブラッシングしている。
そんなこと知るかとブラシはそっくり返った体を乾かしている。

「むつこいんねがい」
ブラシや洗濯ばさみの隙間からこっちを見ている犬っころ。
吠えるでもなく寂し気にこっちを見つめられると情がうつってしまうじゃないか。

道路端にナデシコが咲いている。
後から知ったが、鼻を近づけるとバニラの匂いがするらしい。
レンズだけ近づけて鼻を近づけなかったことを後悔する。

「伊達巻だっけがぁ?」
「オダマキだず」
似ても似つかぬのに伊達巻とオダマキの名前をいつも間違う。

「ネギ坊主だどれ」
「坊主なのんねがら。こだいふさふさて生えっだどれや」
ふさふさの髪の毛は思い出と共に去った今、ネギ坊主に嫉妬する。

街の中はツツジだらけだと思ったら、
以外にも裏通りはオダマキだらけ。
ツツジだけがもてはやされるけれど、ツツジの季節は他の花たちの季節でもある。

「ワヤワヤてやがますいごどぉ」
「輪になって何相談しったのやぁ?」
雄しべたちは口を寄せ合ってパクパクしている。

パクパクしてたのはロサ・アルカンサナというバラの仲間。
どうやら自分たちの上に釣り下がる簾が落ちてこないか心配していたようだ。

「いい季節になたなぁ」
「んだぁ、今が一番良い季節だぁ」
目の前の花を眺めながら、郵便ポストと牛乳箱は何年同じ会話を交わした事だろう。

なんと表現したらいいだろう。
琴線に触れる光景が目の前に突然現れ、アドレナリンが溢れかえる。
こんなに味のある光景に出会えたことを感謝しつつ、だから街歩きは辞められないと心底思う。
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