◆[山形市]植木市前日 木漏れ陽の中へ(2022令和4年5月7日撮影)

イチジクは袋(花嚢)を膨らませ、葉っぱたちは青空を抱えている。
「花は咲がねんだが?」
「あの袋の中さ細かい花が一杯詰まてるんだどう」
自然は不思議に満ちている。皐月は喜びに満ちている。

雲がゆったりと浮かび、その下では高校生たちが青々とした芝生の上でサッカーの試合をしてる。
遠くには真っ白い月山と葉山が並んでいる。
極上の皐月が始まった。

「ようし伸びっぞーッ!」
チューリップたちは気合を入れて空へ向かう。
チューリップには言えないが、ちょっと閃いた。
このご時世だから、プラスチックのストローの代わりにチューリップの茎ば使ったらなんたべ。

マンホールの上では引力に耐えかねた八重桜の花びらがぐったりしている。
それを尻目にイチゴの花に似た真っ白い花びらが空を向く。

「このしぇず(季節)なっどほんてん嬉しくてねぇ」
一年で一番いい季節に、誰もが外へ出て植木市へ出かけたくなる。

「なんだて毛深いずねぇ。触っどチクチクするんだが?」
「なんだてデリカシーのない聞き方だずねぇ」
ヤワゲフウロに忠告されて気持ちが萎れてしまう。

オダマキの背中を炙って太陽が勢いを増す。
それでも気持ちいい!とオダマキは花びらを広げる。

「五人集まって、何相談知ったのや?」
何を話しているのかは分からないけれど、
皆がそっぽを向かずに顔を向き合わせているのは良いことだと得心する。

あんまりギラギラ太陽がまぶしいもんだから、
花びらの一片一片が光をまぶしたように煌めいている。

「なんたっす?獲れっかっす?」
少年は水面の奥へ視線を集中し、背中の暑さなど忘れている。

釣果をみせてもらう。
ザリガニでも釣果ていうんだがしゃねげんと。
「あいや、大漁だどれぇ」

バケツの中で威嚇してくるザリガニ。
裂きイカの罠にはまって後悔に歯ぎしりしていることだろう。

いったい何人の山形人がこの椅子に座ったことか。
池の水面を眺めながら何を思ったことか。

まばゆいツツジの上に、頭が等間隔で並んでいる。
笑える光景だけれど何かが変。
そうなんです。近頃の子どもたちは感覚を開けて並ぶよう教えられているんです。

「あんまり暑くてよぅ。体テロテロだずぁ」
「テロテロなのは子どもだがケッツば擦っからだべ」

太陽は一段と力強くなってきた。
樹木たちも呼応してグイグイ伸びていく。

「まだ咲いだばっかりんねがよ」
硬い地面へ身を置いて、悲し気に真上の藤棚を見上げる一片。

「準備は大変だぁ」
「くたびっで指がプルプルだはぁ」
欅の影が映るテーブルに、皆手のひらをグダっと伸ばす。

良い雰囲気だずねぇ。
ようやく植木市も復活かと、穏やかな空気に身を置いて安堵する。

どぎつい色で目を刺激するテント。
まあまあと若葉の影が宥めている。

「何があるんだが?」
「おまえしゃねのが?」
「植木市があんのは知ってっげんとよ、緑のフェンスがなんだべど思てよぅ」
「んだずねぇ。人さ来てほしいんだが来てほしぐないんだが分がらねねぇ」
自転車軍団はひとしきり思いをぶつけ走り去る。

「明日は人数制限だがらよぅ」
「ほの辺から入らんねように、しっかりどフェンスば張らんなね」
「ほんとはほだごどすっだぐないんだべげんとねぇ」

「かえずは珍しい品種なんだよぅ」
「んだがしたぁ」
そんな会話に、樹木のまだら模様を張り付けたパラソルが覆いかぶさる。

木漏れ陽が一瞬花びらの真ん中をねらい打つ。
その間、花びらから香気が萌え上がる。

「ほれほれ、ボール飛んできたぞぅ。ちゃんとキャッチすろよぅ」
両掌を拡げながらキャッチしているのは陽の光でした。

「明日はこの辺りさ、わんわんて人だかりが出来るんだべなぁ」
それを想像しながらほぼ人気のない空間を味わってみる。

「味わいのあるバイクだごどぉ」
青いシートは光に波打ち、バイクの引き立て役になっている。

マッチ箱なんて久しぶりに見た。
「100円ライターはおらだの敵だあ!」
マッチ箱は唸り声を上げ訴える。

空に青空さえ広がれば、車のフロントガラスも爽やかさに呼応する。

空に青空さえ広がれば、池の水面も爽やかさを取り戻す。

モワッと膨らんだ水が蛇口のヒトデ模様を浮き上がらせる。
溢れた水滴は光に混ざって散っていく。

「なしてほだんどごまで逃げるんだ?」
「おら、ほとほとやんだぐなたもはぁ」
そろそろマスクも人間の口元にくっついているのが飽きるころ。

しっかりと反時計巻き。

「こんな名画があったっけずねぇ」
「赤富士がぁ?」
「はえずぁ名画さ失礼だぁ」
地面に花びらを伏せた椿だから、これは「椿富士」。

「腹減ったはぁ」
「なに食だいのや?」
「蕨の一本漬げ」
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