◆[上山市]新丁・御井戸丁・十日町・北町本丁 昭和と若葉(2022令和4年4月30日撮影)

久しぶりに上山まで足を延ばしてみた。
「上山からだど蔵王が真っ白に見えでいいずねぇ」
「前川の看板の犬はオスなんだべな」
「ちぇっと俺の話聞いっだ?」

しっかりした立ち姿。強そうな意志。
「なしてほだい頑張んのや?」
「んだてあの煙突さ負げらんねがら」
消火栓はキリっと前を向く。

「なんだて眩しぐ咲いっだなぁ」
背景が青空もいいけれど、くすんだ板塀も真っ白い花を引き立たせると気づかされた。

「ほだい雁字搦めに縛らっで大変だなぁ」
ブロックはパイロンを逃がすまいと両脇から挟みこむ。
パイロンは絶望のため息を空へ向かって吐いている。

「何気ない光景だど思うべ?んだげんと違うんだず」
何が違うかといえば、坂道があること。
扇状地上に発達した山形市の街並みとは明らかに違う。
「山交バスが走ってんのは同じだべ」

「こいな被たごどないげんと、何すっどぎ被るんだ?」
「上山市民は皆被んのっだな、雨降れば」
「そういえば、みんな蓑着て水掛げらっでんもねぇ」

赤いトタン屋根の上にまた赤い屋根。
そしてまたその上に赤い花?
赤の三段重ねか。

「見ろず、山形市さこだな光景は絶対ないがら」
山形市に住んで慣れてしまうと、上山の街並みが新鮮で、シャッターを押す手が止まらない。

「仕事サボてんのが?」
バイクは椅子に座るわけにもいかず立ったまま休憩。
赤青の柱も張り紙も手作り感満載。
「風呂さ入らねくても癒されるぅ」

「ふぅ、やっと出だぁ」
若葉は外の世界を見てみたかった。
外の世界にも春の日が零れ落ち、若葉は深呼吸を繰り返す。

「なんだて太陽が眩しくてよぅ」
「太陽もんだげんと、ビニールの庇(ひさし)も日よけも眩しいげんとなぁ」

最初はちゃんと看板業者さんへ発注して立派な看板を造ったのかもしれない。
「ほっだな面倒くさくて、自分で書いだほうが早いべど」と思ったのか、
ペンキだがマジックだがで何度もなぞった文字が、疲れて剥がれ落ちそうだ。

「何回もいうげんとよ、山形市さはこだな光景ないず」
地形に起伏があるとこんなにも街並みは変わるという典型。
「背後に見えるのは千歳山んねくて三吉山だし」

草花が萌え上がろうと日向に集まっている。
小さな動物たちも春の陽気に、日陰から飛び出してきた。

「ついこの間までフロントガラスの前さ見えんのは真っ白い雪だっけずね」
「んだずぁ、しゃねこめに周りは青々としてきたもはぁ」
段ボールや長靴は陽気の中でうたた寝を決め込んでいる。

丘を登って振り返る。
街の真ん中なのに自然が割り込んで頭の上に被さってくる。

「なえだて天国さ登る道だが?」
「んだがら上山はおもしゃいのよぅ」
山形市にはない光景に心を鷲掴みされ、青空を呆然と見上げる。

「ありゃりゃあぁ、天守閣が見えっじぇ」
複雑に入り組んだ坂道の向こうには、ちっちゃいけれど確かに天守閣。

ライラックは重たそうな花びらの塊を、一生懸命青空へ向けている。
「ほだい頑張って首ば傷めんなよ」

「上山の人にとっては見慣れた光景だんだべなぁ」
「何回もいうげんとよ、山形市にはこいな光景はないんだず」
起伏が造り上げる街並みは、新鮮な驚きだらけ。

「坂ばりうがくてよぅ、年寄にはキツイのよねぇ」
天守閣とチューリップに挟まれて、
おばちゃんがそう言っているのかは聞きとれなかった。

まさに萌え上がる若葉が空に膨れ上がり、
空の専有面積を拡げている。
今だけしか見られない爽やかな浅い青が目に眩しい。

当たり前のように、街中で風呂へ入りに行く光景が繰り広げられる。
なんとも羨ましくもあり、隣町なのにここまで街の個性が違うのかと驚くばかり。

「自販機どコーディネートしったのが?」
一陣の風に茶色の上着が膨らむ。
それでも手に持った洗面器はしっかりと握られている。

温泉入り口の和洋折衷というか雑多というか、
とりとめもないというか、洗練されていない空間が何故か心地いい。
なんでも混ぜこぜな空間に鯉のぼりが、益々図に乗ってぶら下がる。

「なんだが分がんねげんと目ば引ぐずねぇ」
「メルシーチェーンってなんだっけぇ?」
「ほだないいっだなぁ、くたびっでるんだがら喋らせんなず」と、
看板はご機嫌斜め。

人通りのない商店街は寂しいと、
原色の飾り花がカチャカチャと青空に舞う。

日差しで温まった通りを車が行き交う。
涼やかな目でその通りを見守るネモフィラ。

上山市は城下町だから当然道路はクランク状。
車はブレーキを踏み、そして再びアクセルを踏む。
チューリップはそんな車の行き来を飽きもせず見入っている。

「綺麗に咲いだがら皆さ見せに出がげっかなぁ」
自転車の篭に乗せられた花は、疲れの見えるハンドルに不安を隠せない。

古い意匠の先に、目にも鮮やかな衣装の鯉のぼり。

山形市は令和になっているというのに、上山は未だに昭和。
だからこそ郷愁を感じつつも新鮮な感覚。

大通りを歩いていると、あちこちに小径が枝のように伸びる。
その枝の先にも惹かれる光景が広がる上山。

昭和がぽたぽたと滴を落とす。
破れた日除けは時間の経過を体で体現している。

板壁がパッと輝く。
この壁が現代の家の壁だったらシャッターを切っていない。

「昭和さ穴ポコ開いっだどりゃあ」
「雨樋なの無ぐなてはぁ、金具が空中であたふたしったもはぁ」
でも、その古さが魅力となって人の目をくぎ付けにする。

「ばんげは何食う?」
「今日はウコギご飯かぁ」
日向の道を会話がゆったりと歩み去る。

「なんだず突然」
前川のガードをくぐった途端、ゴーッと空気が震え、
あっという間に新幹線は彼方へ去っていった。

「まだまだひょろひょろて危なっかしいずねぇ」
「ほいずがもうちょっとすっど、邪魔臭いくらいにおがんのよぅ」
若葉の背後には前川の水面に飛び交う光の煌めき。

「今頃桜撮りにきたて遅すぎっずねぇ」
自転車は遅れてきたカメラマンを呆れたように目の端に入れて走り去る。

「上山では有名な桜なんだどっす」
「桜が満開だど思て見でけらっしゃい」
なんぼなんでも、はいずぁ無理だぁ。葉桜どころか若葉だらけだどれはぁ」
空しい思いの中を新幹線が突き抜けていく。
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