◆[山形市]馬見ヶ崎河原夕暮れ 初夏の準備はできている(2022令和4年4月23日撮影)

「やっぱり目の前さ千歳山見えっど安心すっずねぇ」
「んだっだなぁ、何十年と見でるんだがらぁ」
ベンチを温めていたものの、そろそろ馬見ヶ崎の川からの風が冷たくなってきた。

花びらは散った。
知ったけれども今度は地面が満開だ。

「花びらよ〜、どさ行ったぁ」
残された額は夕陽に煌めきながら、
一抹の寂しさと初夏の準備に膨らむ希望とで気持ちが落ち着かない。

「逆光で分がんねっけげんと、手ば振ってけだんだっけねぇ」
馬見ヶ崎の河川敷ではバーべキューの人々が夕暮れのひと時を、
影を伸ばしつつ一週間のなんだかんだを解き放っている。

馬見ヶ崎川沿いのライトアップを盛り立てる愛宕橋のネオン。
「もうちょっとしたら仕事の時間だべ」
体を橋の柵に括り付けられて緊張の時を迎える。

あまりにも天気が良かったせいで、山肌も川面も、草木も、
みんな目をシカシカして、眩しさに戸惑っている。

川面を見れば、雪解け水に浸かった枯草たちがツンツンと縦模様。

流れの波間に夕陽が揺れる。

馬見ヶ崎川沿いに、ジャバから愛宕橋を渡り、双月橋方面へ下っていく。
夕陽の落ちる方向へ向かうものだから、歩道のヒメオドリコソウが、
逆光の中、本当に踊り子のように光に戯れているようだ。

「雑草といえば雑草っだなねぇ」
春先はヒメオドリコソウが出てくると、春が来たぁと喜ぶもんだが、
伸びてくるに従い、後ろめたいけれどだんだんと面倒な雑草に思えてくる。

「花びらとサヨナラして寂しぐないが?」
「なにゆてんの。ほだなごど考え出る暇ないんだず。忙しくて忙しくてぇ」
初夏への準備に、枝先は休む間もなく若葉を拡げ始めている。

「こだい環境のいい場所はながながないだずねぇ」
走っている人は一人や二人じゃない。
ぶらぶら歩く私を、次ら次へとランナーが追い越していく。

「おまえがこの辺では最後の花びらが?」
遠くに陽が沈みかけている。
後れを取った花びらは、闇の中へ散っていくしかないのか。

今日最後の日差しが真横から一直線に射てくる。
枝先に引っかかった光たちは枝先に留まって、やがて霧消する。

愛宕橋も愛宕山も赤く光っている。
春の終わりは赤く萌え、そしていつの間にか緑が萌えだす。

「なしてガードレールさビニールがひっかがてるんだ?」
山形大橋の下からの光を浴びて輝くビニールに、
ちょっと立ち止まって頭をかしげる。

オレンジに染まった盃山を背景に、
薄ピンクと若葉色と赤色が散りばめられた。

山形大橋の隣に歩道専用の橋が架かっている。
いつの間にか綺麗に整備され、歩くのに疲れないようなクッションが敷き詰めれれている。
それはさておき、下を覗き込んでその流れの雄々しさに怖くなる。

薬師町方面から来る道路と、旅籠町方面から来る道路が河原に出るところでぶつかり合う。
その三角形の場所にコンビニがあった。
そこのコンビニのおにぎりはでかくて旨かった。
今は昔。

陽の落ち際、若葉が恐々と顔を出す。
河原沿いの風はちょっと冷たいと初めて体験し、やや身を縮めたようだ。

とうとう今日の陽は山の向こうへ去ってしまった。
ちょっと風が出てきた。
河原沿いの風は冷たい。
ユキヤナギがその穂先をブハラブハラととりとめもなく揺らしている。

「肩がなんだが重だいんだげんと・・・」
チリトリは寒くなってきたからか、しっかりとベンチの肩にしがみついている。

日本一の芋煮会会場の脇に花壇があるのは皆ご存じだろう。
毎年様々な花を咲かせ人々の目を楽しませてくれる。
闇の迫る花壇の脇をヘッドライトが滑っていく。
その間だけチューリップが浮き上がる。

「今年はなんたんだべなぁ」
闇に覆われ始めた空へ、大鍋はため息ともつかぬ言葉を吐いた。

市民はみんな今年こそと思っているはずだ。
「日本一の芋煮会がなぐなたら山形から日本一が無ぐなんもはぁ」
「んだっだ。ラーメン消費量も新潟から抜がっだしねはぁ」
テールランプはそ知らぬふりで軌跡だけを残していく。

ミラーにも夕闇が迫っている。
奥羽の山並みも黒々と沈み、
ヘッドライトが家路を急ぐ。

山形大橋にはオレンジ色の街灯が整然と並んでいる。
零れ落ちた光は馬見ヶ崎の水面に乗っかって流れ去る。

「おお、さっき会ったネオンだどれ。真面目にしったが?」
闇夜の中に際立って光る花びら模様は、無心に仕事へ専念しているようだ。

桜は散れど、ぼんぼりは赤く、向こう岸のライトは白く光を放っている。
突然ヘッドライトが路面を照らす。
おかげでアスファルトの皴まではっきり浮かび上がってしまう。

「桜はもう終わりだべこりゃあ」
警備のおじさんの光る棒にも力がない。
背中の赤いライトだけが、いつまでもピカピカと点滅する夜。
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