◆[山形市]鈴川・花楯・印役 春を先駆ける(2022令和4年4月2日撮影)

「なえだて春の日差しだどりゃあ」
「心の底から嬉すいずねぇ」
作業もはかどり、心も弾む。

鈴川地区の真ん中に古峰神社という小さな丘がある。
丘の上に立ち、杉の木立を見れば、その奥に青空と街並みが広がっている。

ヒヤシンスの花びらが開きかけている。
初めて触れる空気に怯えながら、そーっとそーっと開いていく。

水仙もまだ赤ちゃんのにぎにぎした手の様に花びらをすぼめているけれど、
パッと開くまでそんなに時間はかからないだろう。

枯草の乾いた薄茶色を眺めながら、
水仙たちは首をこっくりさせて、春の兆しに頷いている。

古峰神社の丘の北側には雪が萎んで逃げ込んでいた。
冬の間に膨らんでいた体からは水分が流れ出て、萎んでいく体が痛々しい。

「ほっだな体でよぐ一冬堪えだなぁ」
「いづの間にが春なんだどりゃあ。おらだはどうしたらいいんだべ」
次世代の植物たちのために、呆然と立ち尽くし去り際を思案する。

「昭和からずっとこごさいんの?」
「なんだかんだて、令和まで残てしまたなぁ」
石柱は崩れ、鉄柱はひしゃげ、残ってしまったことを恥ずかし気に悔恨する。

「ちゃんと並べぇ、きちっと揃っていねぞぅ」
「ほだなごどより、なして春までこのまんまほったらがしなんだぁ」
白菜はこんな姿になるまで畑へおかれていることに猜疑心が膨れ上がってくる。

「目の上の瘤どごろんねんだず、重たくてよぅ」
トタンは石ころの頑固な意志と重さに辟易してる。

錆びて弱ったトタンの波型に針金が巻き付いている。
巻き付いた針金は、日差しが強いのをいいことに、
真っ黒い影を波打たせて、益々トタンに負荷をかけていく。

「オッ、芽吹いできたどりゃあ」
紫陽花が目を覚まし始めたことを、
自分の事のように嬉しく思う消火栓。

「ちぇっとおがり過ぎだはぁ」
可愛げな小さなフキノトウは、天気の良さも手伝って、
ブハラブハラと葉っぱは広がり、頭も無遠慮に青空へ突き出している。

「春になのなたてよ、おらだのすっごどは変わらね」
「んだんだ。ゴミ集めで捨てで、たまに看板さぶら下がる。その繰り返しだぁ」
「んでもよぅ、その繰り返しが一番幸せなんだがもすんねよぅ」

「気持ずいいぃ。なえだてタイヤ洗い日和だずねぇ」
日差しを浴びながら、皆同じ方向を見て肩の力を抜いている。

太陽の光が強すぎるので、道路はバーコードと化しました。

「欠伸するほど長閑なのっだなねぇ」
「欠伸するほど暇なんだず」
カバは大口空けて春の大気を貪った。

「なえだて満身創痍んねが?」
「子供だがしたのんねんだ、北風ど太陽がしたんだウーッ」
「子供だからさっだんだったら嬉しいばっかりだウーッ」

どんな形だろうと、難しい知恵の輪だろうと、
影はいとも簡単にその形を地面へ復元してしまう。

「おらだは隅っこでいいのっだなぁ」
枯葉はフェンスさたづいで、広い公園を目を細めながら眺めている。

乾いた地面で遊べるなんて何か月ぶりだろう。
この浮き立つ気持ちは、積雪地の人にしか分からない。
ブランコに乗りながら地面への有難味をしみじみと感じる少年。
「ほごまで思てる子供なていっかよ?」

イヌノフグリが地面へ紫の斑点を拡げている。
「車から踏んづげらんねように気ぃつけろよ」

「穢れなていう言葉は一切しゃねんだべずね」
「まったくだ。純真無垢そのものだもはぁ」
ぶつぶついう言葉にポカンとしている、咲いたばかりのクロッカス。

「あたしは名前なんていうんだっけぇ」
自分の姿を気にしつつ、元気だったころも思い出せずに下を向く。

「花楯の町内会ってすごいずねぇ」
ゴミ集積場のキチッとさが見事で見ていて気持ちいい。

サンシュユは太陽に焦がれて近づこうとした。
強烈な光は黄色い色を躊躇いなく真っ黒に塗りつぶした。

「どれ、しぇ(家)さ帰っべなれ」
まだ青白い竜山に見守られながら、馬見ヶ崎の土手を犬と帰途に就く。

「まだ手袋いっべぇ」
「んだずねぇ天気はいいげんと、風は冷たいもねぇ」
そんな言葉を聞きながら、日一日と春は深まる。

「指先なんdが痛いんだげんと・・・」
「俺もだ。なしてだべ」
洗濯ばさみは容赦ない。

木蓮が膨らみ、開く時をカウントダウンしている。
べろべろてベゴのベロみだいな花びらが開くまであとわずか。

真っ青に真っ赤。
これ以上のコントラストがこの世にあろうか。
赤と青は仲がいいのか、それとも犬猿の仲なのか。

はにかんだ笑顔に意識だけを向け、何事もなかったように通り過ぎる。
ときめき通りはときめきの心と桜並木。
しかしその桜はまだだった。

体中がグキグキと音を立てるような春の枝。
おそらく体内は長い冬を終え、漲る力が溢れんばかりなのだろう。

「俺ばなんだど思てるんだず」
「俺は布団干しんねがら。しかも箒が頭さ乗ってるし」
「皆集まてくるんだがら、それだけ人気者だていうごどっだな」
春の庭先はすべてが微笑ましい。
TOP